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第五話:ティア

4日振りの更新です。

なかなかまとまらなくて、結構時間がかかってしまいました。


それでは、どうぞ。

異世界に召喚された翌日――。



俺は今、再び謁見の間を訪れている。理由としては勿論、昨日国王が言っていた『魔王の復活を遅らせるために迷宮を攻略してほしい』という願いの返事をするためだ。


今この場には、召喚された生徒全員が揃っている。皆、昨夜の内に考えをまとめ、覚悟を決めてきたことだろう。


俺は決めた。この世界で生きる覚悟を。地球とは違うこの世界を、楽しむことを。


だから、俺の返事は決まっている。あとはそれを、王に伝えるだけだ。


今は、エルニアがエルギウスを呼びに行っている。その間暇になるので、俺は今朝の出来事を思い返すことにする。


メイドさん――テアリスこと、ティアとの一幕を。



* * * * *



異世界に来てからの最初の夜が明けたのか、俺は目を覚ました。と言っても、俺は目覚めが良い方じゃない。だから、しばらくは微睡みの中にいるので、目は開かない。


そのまま少し過ごしていると、普段は気だるさだけが支配するその時間が、今日はいつもと違うことに気が付いた。


なんというか、あたたかいのだ。ついでに、柔らかいものも感じる。


気だるさを振り切って薄く目を開けてみると――目の前に両目をギュッと瞑っている真っ赤に染まった可愛らしい顔があった。


強く閉じられた両目のせいで、彼女の細い眉はほんの少し吊り上がり、顔の距離が近いせいで1本1本ハッキリ見えるまつげは、フルフルと震えている。時々、何故か眉が下がってしまうのが可愛い。


それを見ただけで、微睡みが吹き飛んでしまった。


頭が完全に冴えたことで気付いたのだが、どうやら俺は座ったままメイドさんに正面から抱き着かれているらしい。だから、あたたくて柔らかかったのか。


...それはそうと、なぜこんなことをしているんだろうか?顔を真っ赤にしてるくらいだから、恥ずかしいだろうに。


そう思ってメイドさんの顔を見てみると、彼女の口が動いていることに気付いた。...ちょっと聞き耳を立ててみよう。


「――あぁもう、私のばかばかばかぁ!勇者様の前で気絶しちゃって運んでいただいたばかりか、召喚されたばかりでお疲れの勇者様のベッドを占領までしちゃうなんて、ホントばかだよぉ!わ、私他に何か変なこと言ってないよね?変なこともしてないよね?」


変なことは言われてないけど、現在進行形でされてる気がするのだが。これは、彼女の中では変なことに入らないのだろうか。


「それにしても私ったら、勇者様にジっと見つめられたからって気絶することないじゃない!確かに格好いいなって思ってチラチラ見てたし、見つめられるなんて思ってもみなかったけど、それでも気絶しちゃうなんて...。いえ、あれは勇者様が悪いんです。あ、あんな真剣な眼差しで見つめられたら、女の子なんてイチコロに決まってるじゃないですか...!反則です!」


嬉しい情報が聞こえた。俺はメイドさんから見て格好いいらしい。これは素直に嬉しいな。

っていうかイチコロって。反則って。

...この言い方、もしかするともしかするんだろうか...?


「...トウヤ様?もう起きていらっしゃいますか?」


突然、メイドさんが目を開けて問いかけてくる。カーテンの隙間から漏れる日光を反射して、彼女の瞳が蒼く光る。髪のそれよりも数段深みを増したその蒼は、どこか雄大な海を彷彿とさせた。

それに加え、名字ではなく、昨日呼ばれなかった名前で呼ばれたことに、胸が跳ねた。俺は寝たふりを続ける。勿論、薄く目を開いて様子を見ながらではあるが。


「...まだ、起きていませんよね」


ぽつりとそう呟くと、彼女は腕に力を込めた。当然、俺は彼女に抱き締められた形になる。


...嬉しいはずなのに、なぜか今はそういう気分にはならなかった。


「...どうか、ゆっくりお休みになって下さい、トウヤ様。辛さも、悲しさも、苦しさも、今この時だけは全て忘れて、世界など関係なく、安らかに...」


―――。


「本来なら、この世界には勇者なんていらなかったはずなのに。勇者なんて、存在しなくてよかったはずなのに。私たちが、この世界の人間が弱いせいで、あなた方の、トウヤ様の生活を奪ってしまった...。ごめんなさい、本当にごめんなさい――!」


ポタッ、ポタッと――。

俺の頬に、あたたかい滴がいくつも落ちる。それは止まることを知らないかのように、何度も、何度も頬を濡らす。


「私には、何の力もないけれど...。それでもせめて、勇者様の力になりたい。私なんかじゃ、こんなことくらいしか出来ないけれど、それで少しでも力になれるなら、私はします。恥ずかしいのも、頑張って我慢しますから...!だから、だからせめて今だけでも...」


抱き締められる力が、更に強くなる。

頬に落ちてくる滴が、彼女と触れ合っている部分が、更に熱を帯びていく。



――ただ抱き締めること。それが、彼女が出来る精一杯。



相手のことを第一に考え、自分に出来ることを探し、実行する。自らのことは二の次で、ただただ一心にこちらのことを考えてくれる。


それはひどく不器用で、だからこそとても嬉しく、そして同時に愛しく思えた。



――だから俺は、彼女のことを抱き締めた。



「ッ!?」


彼女はとても驚いたことだろう。何せ、今まで眠っていると思っていた相手に、突然抱きすくめられたのだから。


けれど、驚きはしたが、抵抗はしなかった。だから俺は、そのまま力を込める。


「あっ...!」


メイドさんが声を上げる。そんな声も愛しくて思えて、俺は更に力を強める。


「...ありがとう、俺たちのこと、ちゃんと考えてくれて」


「えっ!?な、なんで...」


「ごめん。実はもっと前に起きて、君の話を聞いてたんだ。起きたらメイドさんが目の前にいたから、その理由が知りたくて。黙って聞いてたことは全面的に俺が悪いから謝る。本当にごめん。」


「あ、謝らないでください!ト、あ...サザキ様が悪いことなどありません。そもそも、サザキ様がお休みになられているところへやって来た私の責任ですから。私の方こそ、すみません。サザキ様のお休みを邪魔してしまって...」


そう言って、彼女は少し縮こまる。そんな彼女を安心させるように、頭に手を置いてゆっくりと撫でる。


「あの、サザキ様...?」


恐る恐るといった様子で、彼女がこちらを窺う。俺はそんな彼女に笑いかける。


「あれは、俺を思って君がしてくれたことだろう?俺が、せめて眠っている間だけでも安心出来るようにと。それは、純粋に嬉しかった。だから、君が気に病む必要はどこにもない」


「ですが...」


「って言ってもきっと君は遠慮するだろうから、いくつかお願いを聞いてくれないかな?」


彼女が、キョトンと呆けた顔をする。


「お願い、ですか?」


「そう、お願い。それを聞いてくれるなら、俺は君の謝罪を受け入れるよ。どうする?」


「...お聞きします」


少し悩んで、小さく頷いてくれる。


「ありがとう。じゃあ早速、メイドさんの名前を教えてもらっていいかな」


「へっ?」


予想と違ったのか、メイドさんが変な声を出す。そして、みるみるうちに顔を青くしていく。


「あ、あああぁぁぁーー!!?すみません、すみません!私、勇者様のお名前は伺ったのに、自分は名乗るのを忘れてしまうなんて...。すみません、本当にすみません!」


「いや、謝らなくていいから。ほら、少し落ち着こう?」


取り乱した彼女の頭を撫でる。暫くそうしてたら、今度は彼女の顔がほんのりと赤くなっていた。


「あ、あの、サザキ様...。もう落ち着きましたから、その、手を...」


「そう?じゃあもう一度言うけど、メイドさんの名前、聞かせてくれる?」


「は、はい。私の名は、テアリスと申します」


「テアリスか。いい名前だね」


「あ、ありがとうございます、サザキ様...」


メイドさんーーテアリスが、顔を赤く染めたままお礼を言う。その表情は、嬉しさと恥ずかしさが同時に存在しているようだった。


それにしてもテアリス...。テアリス、か...よし。


「それじゃあ、これからテアリスのこと、『ティア』って呼んでもいいかな?」


「ッ!は、はい...!」


「ありがとう、ティア」


「ーーー!!」


テアリスのーーティアの顔が更に赤くなる。マンガやアニメなら、既に湯気が出ていることだろう。


「じゃあ次。俺のこと、名前で呼んでくれる?」


そんなティアを見ながら、俺は二つ目のお願いを言う。


「な、名前ですか!?そ、それは...」


「あれ、俺が寝たふりしてる間は名前で呼んでたと思ったんだけど?」


「ーーー~~~~!?」


ティアが涙目で声にならない声を上げる。暫く口をパクパクさせていると、ふいにポフッ、という音を立てて俺の胸に顔を押し付けてきた。


「...もう。トウヤ様はいじわるです...」


そのまま、ボソボソと胸元でそう呟かれた。そんな彼女が可愛くて、俺はティアを更に強く抱きしめ、耳元に口を寄せて、囁く。


「そうさせるのは、ティアが可愛いからだよ」


「ッ!」


ティアは肩をピクン、と跳ねさせると、押し付ける力を強めてきた。


「ううぅぅぅ...トウヤ様はずるいです、反則です...」


顔を俯かせながら、ティアが小さく言う。


ふと視線を横に向けると、窓から入ってくる日の光がだいぶ強くなってきていた。時刻は、大体7時を少し回ったところだろうか。とりあえず、そろそろ起きねばならぬだろう。


俺は、俯いているティアの両頬に手を当て、そのまま上を向かせる。顔を真っ赤にし、瞳が潤んでいる彼女の目を見る。


すると何か勘違いしたのか、ティアがそっと目を閉じた。俺はそんな彼女の唇に、人差し指を縦に当てる。


びっくりした様子で目を開けた少女に、俺は笑いかける。


「ごめんねティア。そっちを望んでくれたのは嬉しいけど、今は違うんだ。ほら、もう日の光があんなに強くなってるから、そろそろ起きなくちゃ、ね」


そう言うと、ティアはバッと顔を両手で覆ってしまった。「あうぅぅ...」とか言ってるのが聞こえるから、単に恥ずかしがってるだけだと思うけど。


「と、そういえば挨拶がまだだったね。おはよう、ティア」


顔を隠している彼女の方を見ながら言うと、指の間から海の蒼を連想させる瞳がチラリと覗いた。その瞳が少し揺れ動いたと思えば、ティアの顔を覆っていた手が外された。


ティアは、先程と変わらず紅潮した顔で挨拶を返してきた。


「ーーおはようございます、トウヤ様」



* * * * *



その後、ティアの顔は終始赤かったのだが、身仕度を整えたあと、きちんと食堂へ案内してくれた。そして食堂に着いた矢先、ティアは他のメイドさんたちに拉致されて食堂の外へと消えてしまった。


ティアがいなくなってしまったので、しょうがなく俺は一人で朝食を食べた。


食事が終わってからすぐ、俺たちはこの謁見の間に連れてこられ、今こうして王が来るのを待っている。


朝のことを思いだし終わり、そろそろかなと思うと同時に、エルギウス王が現れた。後ろにいたエルニアは、昨日と同じ場所に控える。


玉座に腰かけたエルギウス王は、総勢326人いる俺たちの方を見て、口を開く。


「それでは、これから勇者である汝等に、我等へ力を貸してくれるかの是非を問う。どちらを選んでも、我等はそなたたちを恨みなどせぬ故、気楽に答えて欲しい。ではーー」




なんか主人公がキャラ振れを起こしている気が...。

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