第四話:メイドさんと決意
あの後、スフィアにエルニア王女の元へ連れられ、スフィアの口から俺には何のスキルもなかったことが告げられた。王女も目を見開いて驚いていたが「ユニークスキルはさすがに無理かも知れませんが、通常スキルと魔法なら、本人の努力次第で獲得出来ます。私も出来る限り力になりますので、どうかお気を落とさぬように。一先ずは、お腹一杯ご飯を食べて、考えるのはそれからにいたしませんか?」とまで言われてしまった。
俺自身はそこまで深刻に考えていなかったのだが、どうやら向こう方はそうではなかったようで、一介の騎士であるスフィアが王女に直接意見していた。おい騎士、いいのかそれ。それに何だ「彼のメイドは気の利いて見目の良い年若い者にしましょう」って。王女も「ではそのように手配を」じゃないだろ。
俺は二人のそんな言葉を聞きながら、近くのメイドさんに声をかける。するといい笑顔を見せてくれ、彼女の先導の下、食事の用意が出来ているという場所へ連れていってもらった。
部屋の中に入ると、五十人程の生徒が立ちながら食事をしていた。どうやらビュッフェスタイルらしい。
メイドさんが一礼して下がるのを見て、俺も食事に手を伸ばす。こちらでは当たり前なのかもしれないが見たこともない食材がふんだんに使われており、とても美味しそうだった。実際に食べてみると、とても美味しかった。肉はとてもジューシーで噛めば噛むほど肉の旨味が滲み出てくるし、サラダなんかの野菜は瑞々しく、シャキシャキとした食感が舌を喜ばせた。
30分ほど食べ続けようやく満足すると、俺は先程案内を頼んだメイドさんを見つけて声をかける。
「すみません、もう部屋に行くことって出来ますか?」
「え、あ、はい、可能です。失礼ですが、勇者様のお名前をお教え頂けませんか?」
「トウヤ・サザキです」
「ト...いえ、サザキ様ですね。それでは、お部屋へご案内させていただきます」
ん?今トウヤって言いかけたな...ああそうか、他の誰かから勇者は家名が前にくることを聞いていたんだな。今は俺がこっち風に言ってしまったから言い直したのか。別に名前で呼ばれても構わないんだが...。
大人しくメイドさんのあとを着いていく。すると、何故か度々振り返って俺を見てくる。何だろうかと思って顔を向けると、メイドさんはすぐに顔を前方へ向けてしまう。だが、少しするとまた振り返って見てくる。...なにこのメイドさん。
「...あの、何か?」
「ふぇっ!?な、何でもないですよ!」
「...(ジー)」
「へうっ!?えと、その...!」
俺がジト目で見ていると、メイドさんはテンパってしまったのか涙目であたふたし始めてしまった。顔を真っ赤に染めて手をパタパタ振っている。...なにこの可愛い生き物。
最終的には、頭から湯気を出して目を回し、倒れてしまいそうになったので抱き止める。なんか「うきゅぅ...」とかいってるし。だからなにこのk(ry
しょうがないので目を回してしまったメイドさんをお姫様抱っこし、彼女が進もうとしていた方向へ向かう。すると運が良かったのか、途中で執事の人に会うことが出来た。執事の人曰く、このまま進むと左右に部屋があるそうで、空いている部屋を選んで使っていいらしい。
感謝の言葉を告げて別れようとしたら、腕の中にいるメイドさんについて聞かれた。当然か。むしろ最初に聞かれなかったことに驚きだ。
隠す必要もないので正直に話すと、執事さんは目を瞑り、数回納得したように頷くと、一礼し、俺たちが来た方へ歩いていった。...え、俺が言うのもなんだけど、この娘放置していいの?
執事さんが角を曲がったのを見届けて、俺も部屋がある方へと向かう。...メイドさん、今度は「くぅー..くぅー...」なんて言い始めました。完全に寝息です。あどけない寝顔を晒しています。さらに俺の制服の胸元をキュッ...と握ってきています。だからホントになんなn(ry
ヤバい、このメイドさんはヤバい。もうなんて言えばいいのか、とにかく俺の中で可愛さが限界突破してる。さっき寝顔を見たとき、不覚にもときめいてしまったほどだ。そういえば、メイドさんの顔をしっかりと見てなかったとさっき気付いた。
髪は肩口で切り揃えられており、色は水色ではなく、少し透明感のある淡い青。ほんの少し幼い顔立ちをしているが、しっかりと整っており、美人であることは確実だ。いや、見た目的には美少女のほうがしっくりくるか。線の細い身体に、ある程度の膨らみを持った胸。メイド服に隠れて細部は分からないが、全体のバランスもいいと思われる。
こう、じっくり観察した後で思うのだが、本当に可愛い顔をしている。性格の方も、先程の反応を見る限り悪くないように思えるし。スフィアの時と同様に、この娘を選んで正解だったな。意味が少しちがうけど。
そして周りを見て気付いたのだが、どうやらメイドさんを見ているうちに部屋が並んでいる場所に着いていたらしい。メイドさんをお姫様抱っこからおんぶに変え、[open]のプレートが掛けられたすぐ近くの扉を開ける。誰もいないようなので、まずメイドさんをベッドに寝かせ、扉のプレートを引っくり返す。予想通り、[open]から[close]に変わった。中に戻り、部屋の鍵を閉める。一応、これは用心として掛けておく。
部屋の中にある椅子に腰掛け、脱力する。すると、肩が重くなったように感じた。
そうだよな、ここは異世界。俺が今まで生きてきた世界とは、別の世界。
どうやら、知らず知らずの内に肩に力が入っていたようだ。そりゃそうだ、突然知らない場所へ連れてこられたと思えば、それが一方的な拉致・誘拐で、更には異世界ときて、挙げ句の果てに勇者だ。警戒しないほうがおかしい。それでも事実であることに変わりはなく、変化の理解を余儀なくさせられた。
そりゃ疲れも溜まるわな。俺も今日はさっさと寝よう。
もう一度メイドさんの寝顔を見て癒しをもらい、俺は再び椅子に座る。
ここは異世界だ。もう元の世界には帰れないかもしれない。...なら、この世界で生きる覚悟を、目標を決めよう。
元の世界なんて考えず、この新しい世界を生きるとするならーー思いつくのは1つだな。
ーーこの世界を楽しもう。前の世界よりも、もっと楽しんで生きていこう。この世界の色んなことを学び、この世界で生きていく糧としよう。スキルも魔法も、自分の力で手に入れよう。そう考えれば、今回のことは都合がいい。1つでも多く、少しでも多く、この世界を楽しむための要素になるのだから。
まず初めに、この世界を知ることにしよう。幸い、情報源は今ベッドに寝ている。この国、周辺国との関係、常識、宗教、食べ物、文化ーー知ろうと思えばたくさある。それを聞いてみよう。きっと、あたふたしながら、あるいは噛みながら律儀に可愛く答えてくれるはずだ。
目を閉じながら、一番最初に何を聞こうか考える。すると、良さそうな案を思い付いた。よし、明日は挨拶をしたあと、彼女にこう聞いてみよう。
ーー貴女の名前を教えてくれますか、と。
お読み頂きありがとうございます。
やっと初日が終わりました。小説を書くのはやはり難しいですね。
それはそうと、今日から数日帰省いたしますので、次話が投稿出来ないかもしれません。一応携帯で頑張ってみますが、あまり期待しないで待っててください。
勿論、家に帰って来ましたら書きます。
これからも宜しくお願いいたしますm(__)m