第三話:ステータス確認
謁見の間を出たあと、俺たちはエルニア王女に連れられて大広間へやって来た。
広さは謁見の間より少し大きいくらいで、他に何も特筆すべきことがない。精々、四方に扉が存在することぐらいだ。
先頭を歩いていたエルニアは振り返り、生徒全員が大広間へ入ったのを確認して口を開く。いつの間にか、彼女と生徒の間に20人の騎士がおり、床には小さな板が数十枚置いてあった。
「それではこれより、皆様のステータスカードをお作りすることになります。係りの者が20名おりますので、それぞれに分かれ指示に従ってください。ステータスカードを作り終わられた方は、近くのメイドか執事へお申し付けください。ささやかながら、食事を用意しておりますゆえ、ご友人との歓談はそちらで。では、どうぞ」
そう言われると同時に、生徒の半分程が騎士の元へ向かう。あとの者たちは先行組がいなくなってから行くつもりなのだろう。かく言う俺も居残り組だ。好き好んで他人の群れに飛び込むなんて真似、俺には無理だ。
ちなみに優太は、生徒会のやつらに拉致されていった。人混みに紛れるまでずっと俺に手を伸ばしていたのが、よく印象にのこっている。
と、突然先行組の方で歓声が上がった。何かあったのかと視線を向ければ「ユニークスキル!俺の時代キタアァァァァーーー!!」とか叫びながらガッツポーズをしているやつがいた。他にも、その後ろに並んでる生徒たちが色めきたってる。どうやら、よほどいいスキルをもっていたらしい。
その後も、雄叫びを上げたり熱狂したりで落ち着きがなく、それにつられて残ってたやつらも軒並み騎士の方へ行ってしまった。
それはそうと、前方から聞こえてくる単語や叫び声を聞く限り、ステータスカードに表示される情報は意外と少なく、ゲームなんかと違って細かい数値みたいなのは載らないらしい。唯一書かれているのが、本人の魔力量だけみたいだ。簡素だな。
それにしても、ステータスカードを見て不満の声を誰も上げないのは何故なんだろうか。全員が全員、自分が納得できるものをもらっているとか?こんなに人数がいたら、1つ2つは被るもんだとおもうんだが。
...にしても、そろそろ誰かが泣き言言い出すんじゃないかと心配してたんだが、ないな。王様に会う前に言ってた会長の言葉を皆きちんと実行してるのか。すげぇな。それとも、そこに考えが辿り着くまでの余裕がない?いや、それはないな。ユニークだなんだと騒いでるんだ、余裕くらいは出来てるだろう。なら、どうして誰も不安な顔1つしないんだろうな...。
ーー元の世界へ帰れるかも分からないってのに。
ま、いつか誰かが気付くだろうから、俺が言う必要はないか。優太や生徒会長なら既に気付いてるかも、っていうか初めからそこに考えがいってるか。あの2人なら最適なタイミングで言うだろし、俺が心配するだけ無駄だな。
さて、人数も減ってきたし、そろそろ俺も行くか。人がいないところ...お、左端が空いてる。あそこに行こう。
俺が向かった先に居たのは、他のやつよりも幾分か小柄な騎士だった。身長は160ちょっとだろうか、向こうがこちらを見上げる形になっている。
「初めまして、勇者様。私の名は、スフィア・クロノスと申します。宜しくお願いいたします」
スフィアと名乗った騎士は、そう言って頭を下げた。わざわざ1人1人にこうやって自己紹介をしているのだろうか。だとしたら、物凄く律儀な人なんだな。姿勢も正してしてくれたお辞儀にも好感が持てる。他の騎士たちはそこまでやっていなさそうだし、これは当たりを引いたみたいだ。
相手にだけ自己紹介させるのもアレなので、こちらもすることにする。
「紗崎透弥...いや、トウヤ・サザキです。お手数おかけしますが、宜しくお願いいたします」
スフィアと同じように、頭を下げる。なんとなく、スフィアが笑ったような気がした。
「サザキ様ですね、宜しくお願いします。それでは、これからステータスカードの作成に移らせていただきます。よろしいですか?」
「はい」
頷いて答えを返すと、床に置いてあったカードと、刃渡り8センチ程のナイフを渡された。
「ステータスカードを作るには、魔力をカード自体に登録しなければなりません。ですが、この世界へ来たばかりの勇者様では、魔力を感じ取ることも出来ないでしょうから、魔力が多く溶け込んだ血液を代替として使うのです。必要な血液はほんの少しですし、すぐに魔法で治療もいたしますから、どうか怖がらず、頑張ってください」
手の中にあるカードを見る。試しに、何かをカードを込めるように念じてみるが、何の変化も起こらなかった。スフィアが口許に手を当てて笑っている。兜を被ってるせいで表情までは分からないが、肩が震えているからそうなのだろう。
何もなかったかのように、右手でナイフを持ち、左手の人差し指を切る。そのまま、滲んできた血をステータスカードの中央に擦り付けた。
すると、カードが薄ぼんやりと銀色の光を纏い、数瞬ののち消滅した。
「慈愛の神に乞い願う、傷を癒す祝福をーー『ヒール』」
その間に、スフィアが俺の手を取り魔法をかけてくれた。血はすぐに止まり、傷跡も残さず消えた。
「ありがとうございます」
「っ!い、いえ、仕事ですから!」
スフィアの方を向きお礼を言うと、何やら焦ったように顔を逸らされた。なぜだ。
何やら挙動不審になってしまったスフィアを放ってステータスカードを見てみると、確かに文字が書かれていた。
「ん?」
が、俺はそれを見て思わず声をあげてしまった。すると、落ち着いたのかスフィアがこちらに顔を向け首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「ええまぁ、少し気になった部分があると言いますか...。とりあえず、おかしなところがないか見てもらってもいいですか?」
「分かりました。では、カードを貸していただけますか?」
カードを渡し、スフィアの様子を見る。顔が下へと向いていきーー止まる。
「...え?」
そして困惑したように声をあげる。顔を上げて俺を見、再びステータスカードに目を落とす。それを何度か繰り返し、遂には首を傾げてしまった。
その反応を見て、ああやっぱり、と納得した。これは、今までなかった異常事態というわけだ。エルニア王女も言っていたしな、『この世界に来たことで、何かの才能を獲得しているはず』だ、と。
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名前:トウヤ・サザキ(紗崎 透弥)
年齢:16
職業:<学生><勇者>
称号:召喚されし者、勇者、異世界人
ユニークスキル:なし
スキル:なし
魔法:なし
魔力:99/99<限界値>
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ユニークスキル・通常スキル・魔法を1つも覚えていない。だが、職業や称号には勇者がちゃんと存在している。
ーーそう、俺は勇者で唯一、何の才能も有していなかったのだ。