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第二話:謁見

あれから、疑問や憶測をぶつけ合い、中々収拾のつかなかった生徒たちは、生徒会長の鶴の一声によって収まった。


曰く、まずは今の状況をきちんと把握することが第一。泣き言や文句は、全ての情報が出揃ってから存分にすればいい。不安なのは皆同じなのだから、とにかく今は少しでも状況を把握したい。だから、ほんの少しの間堪えてくれ、ということらしい。


さすがは生徒会長、今の状況をしっかりと分析・理解しようとしている。いやまぁ、あの人の場合は、ただ純粋に知識欲を満たしたいだけなんだろうけどさ。


とりあえず、生徒会長によって多少皆が落ち着きを取り戻したところで、移動を開始した。先頭にはエルニア王女と白鎧の騎士、一歩遅れて黒ローブの老人。他の騎士たちは、生徒を囲うように適度に分散している。


現状、分かっていることは少ない。だから俺も無駄な考察は止めて、城の内部を眺めてみる。


今通っているのは、城に入って真っ直ぐの廊下。左右にはそれぞれ登り階段があり、奥の方へと廊下は続いている。壁には、王冠を頭に載せた初老の男性や、ドレスを着て優雅にティータイムを楽しむ女性の肖像画などがかかっており、その下にある金属のプレートに名前が彫ってあった。初老の男性は「第8代国王アルガンス・ジル・リリトーン」、女性は「セムエラ・ソル・リリトーン」というらしい。


...普通に読めたが、字は日本語でも英語でもなかった。ここでも、やはりこの世界が異世界だという疑惑が強まった。まぁ、十中八九異世界なんだろうけど。遠くてよく見えなかったが、城に入る前にチラッと見た厩舎には、馬に酷似した六本足の生物がいたのだ。そんな不思議生物がいる世界が、異世界でなくてなんだと言うのだ。


そんなこんなで異世界であるという事実を確認しながら進むこと十数分、俺たちはようやく謁見の間に到着した。


謁見の間の床には赤い絨毯が敷かれ、その先には金で装飾された立派な玉座が鎮座しており、壁際には100を越える騎士が整然と並んでいた。


「皆様、お疲れ様でした。それでは、これより父を呼んで参りますので少々お待ちください。父が現れましたら、どうか跪いてお話をお聞きくださいますよう、お願いいたします」


こちらへ振り向いエルニア王女はそう言って、玉座の奥にある通路の方へ消えていった。


...跪いて、か。仮にも相手は国王。確かにそうするのが普通なんだろうけど、わざわざ呼び出してこの国の常識や礼儀について何の説明もなしに、とりあえず跪いて説明を聞け、ねぇ。

王女は俺たちを勇者とか呼んでいたし、そう悪い待遇にはならないんだろうけど、なんかなぁ...。


数ヶ月前読んだネット小説に異世界召喚ものがあったけど、それだと跪くのは奴隷だけとかいう設定だったんだよな。それで跪いちまった召喚者たちは国の奴隷になって、戦争の道具として扱われたんだっけ。最終的にはなんだかんだで奴隷じゃなくなって、国に復讐してたな。


さすがにここまではいかないだろうけど、まだここの連中が信用出来ると決まった訳じゃない。...まぁ、俺が信用してるやつは優太1人だけなんだけどさ。


そのまま考え事をしていると、玉座の奥から王女と壮年の男性がやって来た。廊下で見たアルガンスと似たような格好をしていることから、彼が国王であることが察せられる。


国王が玉座に座ると、エルニア王女は俺たちから見て右側に控えた。隣には、彼女より幼い少年と少女が1人ずついた。恐らく、この国の王族だろう。でなければ、こんなところにいるのは場違いだしな。


「異界の勇者たちよ、よくぞこの国に参ってくれた。余はそなたたちを歓迎しよう。かしこまらずともよい、皆肩の力を抜き楽にせよ」


そう言われて、俺は素直に従い膝を着いた。国王の言葉を聞いた瞬間「あ、これ大丈夫なやつだ」と何の脈絡も無しに納得した。


こればっかりはどうしようもない。無条件に信用出来ると、俺の勘が訴えるのだ。それこそ、親友である優太と同じくらいに。


そんな俺を見て、一瞬驚きながらも優太が続く。それに釣られるようにして周りの生徒たちも慌てて床に膝を着いた。


国王は満足そうに頷いて、玉座から立ち上がる。


「余はリリトア王国第17代国王エルギウス・ジル・リリトーン。今一度言おう、余はそなたたち勇者を歓迎する。この国に来てくれたこと、まことに感謝している。まず初めに、そなたたち勇者を呼んだ理由を話そう。...つい先日、この国の宮廷魔導師が世界の果てに膨大な魔力を感知した。国の有識者たちと話し合ったところ、恐らく魔王が復活したのだろうということが分かったのだ。それを確信させるように、世界の各地に新たな迷宮が生まれたという報告が多数寄せられている。迷宮は、昔魔王が自身の魔力を取り戻すために作り出したという説もあるのだ。その説を説き実行したのが、その時召喚されていた勇者らしいことも分かっている。そなたたち勇者には、迷宮へ行って魔王の完全復活を遅らせるために迷宮を攻略して欲しい。勿論、無理にとは言わぬ。迷宮へ行けば、人ならざる魔物と戦わねばならぬからな。迷宮へ行く行かないに関わらず、皆の生活は保証しよう。我々が無理に呼びつけたのだ、それくらいはする義務がある。部屋を与えるゆえ、今日はゆっくりと休むがよい。明日、そなたたちの意思を聞こう」


国王ーーエルギウスは俺たちにそう言った。すると国王の傍に控えていたエルニア王女が前に出てくる。


「それでは、これから皆さんを部屋へ案内いたしますが、その前に皆さんのステータスカードをお作りしておきましょう。この世界に来たことで、何かの才能を獲得しているはずですから。では勇者の皆様を、大広間へ案内いたします。私の後に続いてください」


エルニア王女が謁見の間を出ていき、後ろの生徒が順についていく。俺は最後に王の方を向き、深く頭を下げておいた。エルギウス王がこちらを見て、笑みを深めたように思えた。


部屋を出て、歩きながら思案する。


...正直、なんか拍子抜けした。召喚した俺たちを使い潰してやろうとかそういう意図は一切なく、周りに控えていたやつからは好意的な雰囲気しか感じ取れなかった。国王は俺が反射的に膝を着いちまうくらい信用できる人っぽいし、生活も保証してくれるときた。誰だよ、奴隷にされるかもとか考えたやつ。俺だよ。


何はともあれ、目下の危機はないと判断しても良さそうだな。


それにしても、この世界には魔物がいるのか。まぁ、勇者なんて呼ばれた時点で魔王がいるのは確信していたが...。

それに迷宮、おまけに魔力やステータスときた。いよいよゲーム染みてきたな。さすがに妄想と現実の区別はついてるが、中には夢だ特別だと思い込んでるやつがいてもおかしくはない。


...それとなく、優太に言っておくか。


1つの過信が身を滅ぼす。交通事故を起こそうなんて思って起こすやつはそうそう居ない。


それはたとえ、世界が違うここでも変わらないだろう。なら、用心するに越したことはないからな。

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