母の日
働くようになって、自分で自由に使えるお金を持つようになって二十数年の月日が流れている。
当然のように自分はそれだけ歳を重ねているわけで。
だけども、世間一般の同い年の人と比べれば、手にしていないものが多いと思う。
もちろんそれらほとんどの原因は自分自身にあるわけで、それを今さら嘆いたところでどうにかなるわけでもなく、どうにしたいと思っているわけでもないのだけれども。
まぁ、平均以下であるという自覚は持っているつもりだ。
特別何かあったわけでもなく、これという思いがあるというわけでもないのだけれども、自分は母の日に、母親へ何かを贈ったという記憶がない。
と言うか、何も贈っていないと言う記憶しかない。
これは父の日も、勤労感謝の日も同じ事なのだけれども、テレビや何かでその日のイベントを特集したりしているのを観たとしても、何かを贈ろうなどとは思わなかった。
母の日や、父の日というものは、日頃の感謝を伝える日だったと思うのだけど、感謝する事に思い当たる事がないからだ。
確かに産んでもらった恩であるとか、育ててもらった恩であるとか、そう言う事を強調する表現があるのだけど、それって最低限度の親としての責任であろうと思う。
もちろん、そんな最低限度の責任を果たせない親が数多くいるという事は、報道やら、ウチの姉ちゃんとかで知っているつもりなのだけど、やっぱりそれは基本原則として最低ラインの基準であると思う。
できないならば、親になるなと。
「だから見ろ。親にならない私の正当性を」
「そんなのを詭弁と言うんですよ。ならないとなれないのでは意味合いが違いますから」
そんな事を言いながらも、自分も親になるなんて考えられませんけどねと、上司にして、後輩でもあるI君はそう言った。
「それはそれとして置いておいて。可哀想じゃないか、貧乏人の子は貧乏人しかなれないんだぜ?中学出たら働けなんてそんな酷い事は言えないよ」
「頑張れよ。まぁ、頑張った所で報われる事はないと10年も働いていればわかってくるんですけどね」
「I君なんてまだいいさ。営業のN君なんて、今年で36だけど、手取で15万越えてないんだぞ。毎日深夜0時を越えて働いて、休日も出勤してるのに。馬鹿じゃないかと思うよ。コンビニで同じ時間だけ働いた方が絶対に手取が多いもの。なんで、ここで働いているのって思うもの」
「Mさんは仕方ないんですよ。30になるまで就職した事無かったんですから。大学の経済学部出ているのに、経済のけの字も知らないし、興味もないんですからね。心の安らぎはお馬さんだけなんですから。休日出勤も馬券売り場に行くついでに出勤しているだけなんですから、本人は気にもしていませんよ」
「けどさ、ギャンブルで本命しか買わないって意味解らないよな。大穴狙いの一発勝負こそがギャンブルの醍醐味だろ?」
「それで、失敗した人に言われる筋合いの無いことですけどね」
「人生チョンチョンって言うじゃないか。終わりでプラスマイナスの辻褄が合っていればそれで良いって」
「明らかに下り坂ですけどね。底なし沼とも言いますけども」
「負の連鎖は俺らの代で止めねばなるまい」
「僕も含んでいるんですか?」
「もちろんだ。俺のこんな人生であるけども、今のI君と同じ歳であった頃の自分を思い出してみれば、もう少しマシだったと思うんだ」
「余計なお世話です」
「そんなのが親のせいだとは言わないけれど。そんなのが親のせいだとは言わないけれど。そんなのが親のせいだとは言わないけれど」
「なぜ三回言う」




