鈍色の日々
夜遅くまで起きているわけでもないのに、日中に眠くなり、落ちそうな意識と重い瞼と戦っている時間が長くなっている今日この頃であった。
これは睡眠障害か何かかとも思う。
もうすでに四十の大台を突破して、若者でいることはできず、立派なおっさんとしての道を着実に進みつつある自分の健康状態に、不安がないわけではない。
むしろ健康診断で血圧が引っかかったりして、不安要素は歳と共に増加しているのである。
窓から見える外の景色は、灰色の厚い雲に覆われて、まだ午前中であるというのに外は真っ暗であった。
激しく降る雨はアスファルトを濡らし、高い湿度が不快であった。
気持ちは重く、体は重い。
沈みがちになる心はが何もかもを投げ出してしまいたくなるのだけど、常識的に考えてみれば、生活もありそんなことをするわけにはいかない。
元気、勇気、ぽぽぽぽポンキッ○ーズである。
空元気でも無いよりはマシであるので、振り絞ってでも外面を良くしようと思うのだけど、なかなかそれは今日の自分には難しく思えていた。
「なんか、今月に入ってから社内の雰囲気というものがもの凄く悪くなっているように思うんですよね。モチベーションが低いというか、なんと言うか」
そう言ったのは、上司であり後輩でもあるI君であった。
「……まあね。人事異動とかの発表があったし、会社は儲かってないし、夏のボーナスはそうなると出ないし。良い事なんてなんもないからね」
自分のモチベーションの低さにはI君にはまだバレていないようではある。あくまでI君が言っているのは車内全般のことであり、私のことではない。
私のモチベーションの低さがばれてしまったI君に怒られる。
「モチベーションが低いとか、仕事してから言って下さい」と。
わたし自身からしてみれば、人事異動の犠牲者であるのだから、モチベーションが低くなるのもおかしくないと思う。
そもそも異動したところで会社にメリットはあったとしても、私にメリットは何もない。
これからの時代に異動する先の部署はまったくもって、前時代的であり、今後は失われていく職種であり、潰しが利かないのである。
それでも会社の中を合理化して、生産性を上げるという会社側の言い分があるので、異動することには了解しているだけであって、納得はしているわけではなかった。
「頑張って頑張って、でも会社は儲からないと言うから、もっと頑張って、寝る暇を惜しんで働いても儲からなくて、昇給もボーナスもなくやってきたのに、仕事が少なくなっている今の現状でもっと頑張れと言われても、もう頑張りようがないだろう。これ以上、どうしろと言うんだろうな」
「どうですよね。月の売り上げ目標を達成していた頃でさえ、まだまだ会社には余裕なんて無いんだから、もっと稼げと言っていたのに。売り上げ目標に届かなくなってから、もっと頑張れと言われたところで、仕事の総数が減っているんだからがんばりようなんて無いですよね」
「人間関係も最悪だし。誰と誰とは仲が悪くて、口も聞かないとかね」
「大人なんだから、仕事に影響しないようにやってくれればいいんですけどね」
「おもいっきり影響しているからな。殴り合いまでしないのが幸いレベル」
「殴り合ってもおかしくない人はいますけどね。社長と専務とか」
「ルーズベルトゲームかよ。まぁ、社長も頭に血が上りやすい人だからな。怒り始めて、怒っている自分に腹が立ってきて激怒に発展とか。俺は怒りで震える人というのを、社長で初めて見たよ。体中がプルプルしてるんだぜ?沸点が低すぎるんだよ」
「若い社員と口げんかになって、自分の机の上をひっくり返してパソコンを叩き落として壊し、新しいの購入してたりしましたからね。お前は星一徹かよと」
「俺はその時、柱の影から見守っていたけどな」
「巨人の星に出てくる姉ちゃんですか」
「でもよくよく考えてみれば、ウチの会社を辞めていく人の八割は、社長と揉めて辞めていくよね」
「ちなみに去年辞めた人は、全員そうでしたけどね」
「社長というのは孤独なんだよ。言いたくないことも、言わなきゃならないんだ。俺は社長を支持するけどね」
「裏切った!!」




