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チキンハート  作者: 27サグマル
97/133

97.クミシェル-26

「済みません、この時間はもう料理してないんですよ」

「えっ……?」


 この街に唯一となったレストラン。

 店主のおばさんの言葉に、エルザから魂が抜けたのが見えた。目もそうだけど声も死んでる。

 何気にここまで絶望した顔は初めて見たかもしれない。

 これは……グッと来るのを通り越してちょっと気の毒かも。


「それじゃ、厨房だけ貸してもらえます? 片付けもきちんとしますし、もちろん食材は自前です」

「それなら……構いませんけど」


 怪しむような目で値踏みされたけど、ギルド証を見せたこともあってか許可は貰えた。

 初対面のはずだけど普通に接してもらえたのは、やっぱり駆獅(レイダーズ)の面々を見慣れてるからかな?


「さて、と……」


 どこに何があるかを簡単に教わって料理開始。

 店主は見張り兼相談係ってことで少し離れたところに立っている。


 まずはフライパンに油を引いて熱し、同時進行で鍋には水を入れてこちらも加熱。

 食材をある程度まな板に乗せて包丁で切っていく。


 ……さすがは肉を切ることに特化した刃物。魔法とは手応えが違う。

 包丁に限らず、やっぱり専用の道具があると色々やりやすい。


 水につけておいた乾物が戻っているのを確認して取り出し――。


「ああっ! それを捨てるなんてとんでもない!」

「なにかに使えるんですか?」

「何言ってるんだい、ホロシダケの出汁は北の味じゃないか!」

「へえ、ありがとうございます」


 素の口調が出るくらいの剣幕で注意された。

 味見すると……どこか懐かしい和風な感じ。

 それっぽいものねー……澄まし汁でも作るか。

 今なら味付けを変えて全体的に穏やかな感じでまとめられるな――。



「お待たせー」

「これはまた……いつになく豪勢じゃない。どうしたの?」

「いやー、作ってる内に気が乗ってきちゃって。それより早く食べよう、エルザの限界が近い」

「…………」

「……そ、そうね」


 珍しくエルザの反応がない。

 お預けを食らった犬みたいって表現はやっぱり失礼か。

 それ以前に、犬と言うにはあまりに危険なオーラを放っている。

 やや気圧され気味に同意したリーザに続き、僕たちも手を合わせて食べ始めた。


「これ和風?」

「おいしいですー!」

「あ、エルザ復活?」

「ごめん、実は私キノコって苦手――」

「――頂きますねっ」


 目にも止まらないスピードでエルザの手が閃く。

 うん、嫌な予感しかしない。


「落ち着きなさいって――」


 僕が動くより早くリーザが反応。

 エルザの手を掴んで止めると同時、嫌な音がして机が持ち上がる。

 ちょっ……!?

 急いで影を展開、リーザの脚が当たって浮き上がった机を捕らえゆっくり降ろす。

 風で宙の料理をキープ、慎重に皿へ戻す。

 危ないところだった……魔法がない日本ならひとたまりもなかったな。


「あ……とにかく、助かったわ」

「どういたしまして」

「すいません……」

「そんなに慌てなくても、欲しいならあげるから。ほら」

「うぅ……」


 どうにか危機を退け、ほっと胸を撫で下ろす。

 その後は特に何事もなく、無事に昼食を終えることができた。

 好評だったみたいだしまた作ろう。


 ……あれ?

 リーザの方が、速い?

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