97.クミシェル-26
「済みません、この時間はもう料理してないんですよ」
「えっ……?」
この街に唯一となったレストラン。
店主のおばさんの言葉に、エルザから魂が抜けたのが見えた。目もそうだけど声も死んでる。
何気にここまで絶望した顔は初めて見たかもしれない。
これは……グッと来るのを通り越してちょっと気の毒かも。
「それじゃ、厨房だけ貸してもらえます? 片付けもきちんとしますし、もちろん食材は自前です」
「それなら……構いませんけど」
怪しむような目で値踏みされたけど、ギルド証を見せたこともあってか許可は貰えた。
初対面のはずだけど普通に接してもらえたのは、やっぱり駆獅の面々を見慣れてるからかな?
「さて、と……」
どこに何があるかを簡単に教わって料理開始。
店主は見張り兼相談係ってことで少し離れたところに立っている。
まずはフライパンに油を引いて熱し、同時進行で鍋には水を入れてこちらも加熱。
食材をある程度まな板に乗せて包丁で切っていく。
……さすがは肉を切ることに特化した刃物。魔法とは手応えが違う。
包丁に限らず、やっぱり専用の道具があると色々やりやすい。
水につけておいた乾物が戻っているのを確認して取り出し――。
「ああっ! それを捨てるなんてとんでもない!」
「なにかに使えるんですか?」
「何言ってるんだい、ホロシダケの出汁は北の味じゃないか!」
「へえ、ありがとうございます」
素の口調が出るくらいの剣幕で注意された。
味見すると……どこか懐かしい和風な感じ。
それっぽいものねー……澄まし汁でも作るか。
今なら味付けを変えて全体的に穏やかな感じでまとめられるな――。
「お待たせー」
「これはまた……いつになく豪勢じゃない。どうしたの?」
「いやー、作ってる内に気が乗ってきちゃって。それより早く食べよう、エルザの限界が近い」
「…………」
「……そ、そうね」
珍しくエルザの反応がない。
お預けを食らった犬みたいって表現はやっぱり失礼か。
それ以前に、犬と言うにはあまりに危険なオーラを放っている。
やや気圧され気味に同意したリーザに続き、僕たちも手を合わせて食べ始めた。
「これ和風?」
「おいしいですー!」
「あ、エルザ復活?」
「ごめん、実は私キノコって苦手――」
「――頂きますねっ」
目にも止まらないスピードでエルザの手が閃く。
うん、嫌な予感しかしない。
「落ち着きなさいって――」
僕が動くより早くリーザが反応。
エルザの手を掴んで止めると同時、嫌な音がして机が持ち上がる。
ちょっ……!?
急いで影を展開、リーザの脚が当たって浮き上がった机を捕らえゆっくり降ろす。
風で宙の料理をキープ、慎重に皿へ戻す。
危ないところだった……魔法がない日本ならひとたまりもなかったな。
「あ……とにかく、助かったわ」
「どういたしまして」
「すいません……」
「そんなに慌てなくても、欲しいならあげるから。ほら」
「うぅ……」
どうにか危機を退け、ほっと胸を撫で下ろす。
その後は特に何事もなく、無事に昼食を終えることができた。
好評だったみたいだしまた作ろう。
……あれ?
リーザの方が、速い?




