9.黒龍の洞窟-4
「じゃあナナに土産だ。ほれ、『永劫の凍華』」
「わぁ、綺麗ですね~!」
ベルが出したのは、息を呑むほど美しい氷の薔薇だった。
名前からしてとんでもない秘宝っぽいけど……まぁそこはベルだし仕方ない。
「それってもしかして……」
「ああ、解呪に使う。ところでケイは今日から本番だな、サーシャに人型での戦い方を教わっておけ」
これまでの修行は序の口だったということに、少し気が遠くなりそうになった。
「……また数年…………?」
「サーシャみたいな喋り方をするんじゃない。心配しなくてもそこまで本格的に詰めるわけでは無いからな、そんなに時間は食わないだろう」
なら良いんだけど。
ベルは身を翻すと、ナナを連れて先に洞窟に入っていった。
「そういえば皆はどんな戦い方するの?」
「……例えば、ベルの場合。戦ったと思うより早く終わってる」
あー、うん。凄く分かる。
「……私だったら。戦いは影で縛って終わるし、狩りなら炎で焼くだけ。武器は一応、刀を持ってる」
ふむふむ。サーシャもやっぱりこの世界じゃ強い方にいるみたいだな。
単純にレベルで見てその三倍あるベルがどれだけ過剰戦力かって話なんだけど。
「……あと、ナナはなんか大きい斧を持ってる」
え、ナナも戦うの?
「……ベルは、ナナを戦わせるなって言ってたけど」
「そりゃそうだろうね」
「……私じゃ止められなくなるからって」
「えっ?」
そういえばナナは「被呪闘神」だったっけ。
……ベルはいったい何を知ってるんだろう。
「……はい。使いたい武器を選んで」
「え、これは?」
「……ベルの昔のコレクションだって」
そんなことだろうと思った。
だって全体的に禍々しいんだよ!
そういえばベルの二つ名は「禍の運び手」だっけ? あながち間違いでもなかったみたいだな。
世界各地(多分)から怪しい代物をせっせと収集してるんだから!
鉄パイプ(のように見える)や釘バットといった武器に、もうそういうロールプレイを目指しても良いんじゃないかという葛藤を感じつつ。
結局僕が選んだのは、大小で一対という珍しい双槍だった。
長槍が地属性で短槍が風属性。回復阻害と衰弱の呪いがかかっている物騒な品だ。
なんでこれにしたのかって?
フィーリングもあるけど、これでもまだ呪いがマシな方だったからだよ!
傷口が急速に腐敗するとか使い手に非業の最期を与えるとか、人が使うってレベルじゃねーぞ!
「……決まった?」
「まぁ一応。不本意ながら」
まさかコレ使って訓練するとか言わないよね?
「……本当ならベルに頼んで訓練用のレプリカを作ってもらうところだけど」
そのベルはナナの解呪で取り込み中。
あれ、なんか嫌な予感がするよ?
「じゃあ訓練はまた日を改めて――」
「……今日は本物でやるしか」
聞いてよ!
再び口を開く暇もなく、僕は影に呑み込まれていた。
次回、いよいよ洞窟の外の世界へ!