89.クミシェル-19
「そこまで! ゴイヴ・カトルニスは不合格とする!」
「ありがとうございましたー」
「……ケッ」
四人目終了。
合格者は半分かー……正直よく違いは分からなかったけど、やっぱりこのくらいになると基準も厳しいのかな?
僕も下がり、入れ替わりにギレムゥトとリーザが進み出る。
リーザが構えてるのは中身が空洞になって軽量化された長剣。駄目元で頼んでみたら本当にあった試合用の武器だ。
ギレムゥトがつけているのはグローブ。凄く凶器とか仕込まれてそうだけど、今つけてるのは試合用だから流石に大丈夫かな?
「おう、とっとと掛かって来いや!」
「なら遠慮なくッ」
素早く踏み込んだリーザは長剣を横薙ぎに振るう。
ギレムゥトはそれを拳で跳ね上げるけど、リーザは力に逆らわず剣を制御して袈裟斬りに移行。
隙はあるけど間合いで圧倒的に上回っているおかげで、まだリーザの攻撃の方が速い。
その一撃も弾かれるのを察していたリーザは一度下がって間合いを保つ。
「もう一回!」
「ンな一つ覚えが通じるかッ!」
再び長剣を薙ぐリーザ。
対するギレムゥトは剣を弾きながら前に出てくる。
「――っと」
「あン?」
リーザが取ったのは、長剣をそのまま投げ捨てて短剣に持ち替えるという奇策。
互いに接近する勢いも活かして打ち込めば、確かに相当な威力になる。
「合格だチクショウが!」
「きゃっ――!?」
その瞬間、僕から見てもかなりの速度でギレムゥトが反応した。
短剣を持ったリーザの手首を掴んで思いっきり投げ飛ばす。
意外、殴らないんだ。いやもちろん良いことだけど。
「よっと。合格おめでとう」
「え……? あ、ありがと」
壁に激突しそうになったリーザの腕を掴み、背中に当てた手を起点に一回転させてスピードを殺す。
少し目を回してるみたいだし、壁際の長椅子まで誘導して座らせる。
その様子を真面目な顔で見ていたエルザが、手に持っていた大剣をナイフに持ち替えた。
「オラ、テメェで最後だ」
「……はい。お願いしますー」
エルザは前の昇格試験の時みたいに一撃で決めると思ってたけど、ギレムゥトの最後の動きを見るにそうもいかないかもな。
それに気付いたから武器を変えたんだろうし。
エルザがナイフを構えて身体を撓める。あの体勢は……いきなり全速力で行くつもりか。
「はぁッ!」
「くぉッ……」
動いた直後、二人の姿はもう壁際まで移動していた。
その手元でナイフと短剣が砕け散る。折れるどころじゃ済まなかったのか。
それより後手で受け切ったギレムゥトに驚いた。
反応するスピードだけじゃなく、防ぐだけの力もある証拠だ。
まさかエルザが止められるとは思わなかった。
あれがランクBBの基準だった日には僕もランクAAAあたりの冒険者に負けかねない。
いや、ランク毎の実力差とか詳しく知らないからAAAってのは適当だけど。
でも単純に力で押し切れないとなると、この勝負は少し不利か――?
「合格だ。終われ終われ」
「ありがとうございましたー」
あ。
そういえば昇格試験だし、実力を証明できればそれで良いんだった。
今回はまだエルザもそこまで熱くなってなかったおかげか、すんなり終われた。
「お二人とも、合格おめでとうございます。ケイさんも試験官お疲れ様でした」
「ありがと」
「ありがとうございますー」
「ありがとうございます。ところで少し聞きたいんですけど……」
受付で手続きをしながらセルジュさんに尋ねる。
内容はギレムゥトのこと。
もしあれくらいの実力者がゴロゴロしてると思うとどこか気が休まらない。
いや、対妖魔的には安心できるんだけど。心配の内容が変わってくるっていうか……。
「まずご質問にお答えすると、ギレムゥトさんはランクBBでも規格外ですね。ケイさんと同じく」
「あー、そうなんですか」
「ただ一つ補足しますと、ランク以上の実力を持つ冒険者の方は割と多いですよ。これまではそれなりに平和で、推奨ランクの高い依頼もあまりありませんでしたから」
「なるほど。参考になりました」
「お役に立てたなら幸いです」
……ギルドを出た後で気になった。
僕やギレムゥト、あとエルザの実力はギルド的に見てランクどれくらいに相当するんだろう?
訊いとけば良かったな。
まあ、次の機会にでも訊けば良いか。




