8.黒龍の洞窟-3
衝撃の人化から数日、どうにかニワトリに戻った僕は能力の確認をしていた。
というかサーシャもナナも、少し残念そうな顔するのはホントやめて!
体高は二メートルくらいで、漆黒の羽は柔らかいけれど鋼も断てる鋭さを兼ね備えている。
炎属性と闇属性の魔法を同時に扱えるけど、まあこの辺は進化前の能力が強化された感じかな?
新しく出来るようになったことは、少しだけ飛べるようになったことと……駆影術?
サーシャがやっていたのをイメージして、足元の影に意識を集中する。
すとん、と自由落下に似た感覚。
影が繋がっていればある程度の距離は一瞬で移動できるらしいけど……できた!
これは自慢に行くしかない!
『やあ!』
「……! ケイ、か。驚いた」
『ごめん、イタズラが過ぎたかも』
だから首に突き付けた刀を下ろしてほしいな?
僕の想いは無事に届いたようで、刀を片づけたサーシャはコトリと首を傾げた。
「……もしかして?」
『うん、僕も駆影術が使えるようになったみたい』
「……こんな事も?」
こんな事? と首を傾げようとすると、身体が動かない。
『へ?』
足元に視線を移すと、サーシャの影の手が動いて僕の影を掴んでいた。
「……こんな事も?」
サーシャの影が地面から剥がれて僕の足を掴み、地面――いや、影の中? に引きずり込もうとする。
いや、ちょっと怖いんだけど!?
『た、たぶんまだ無理かなーって』
「……そう」
影を戻したサーシャに、ほっと溜息をつく。
自分の影を動かそうと意識を集中してみたけど、あまり手応えはない。また今度練習しよう。
ちなみにナナにも駆影術を見せてみたが、あまり驚かれなかった。
僕がいきなり現れたことより駆影術を使っていることの方に驚いていたみたいだ。
うーん……なんか不完全燃焼。
ベルザークが帰って来たのは、それから数日後のことだった。
「戻ったぞ」
「……お帰り」
「お帰りです~」
『お帰りー』
駆影術でベルの前に姿を見せる。
一瞬後には、もう後ろに回り込まれていた。
「お前も駆影術使えるようになったのか」
『なんだ、ベルも出来たの?』
「当然だ」
『もしかして割とありふれた能力――』
「そんなわけあるか阿呆。ふむ……レベル70になったか。進化してもまだニワトリなのだな。人化はできるのか?」
ギクリ。
『え、いやぁちょっと――』
「……できるっ」
「格好良いんですよ~!」
ちょっと!?
誤魔化そうと必死に頭を回転させてたのに!
「どれ、少し見せてみろ」
足元に魔法陣が浮かび上がる。
これはもしかしなくても……。
はい、強制人化でした。
「……なかなか生意気な格好だな」
傘で頭をはたかれる。
痛くはなかったけど、スコーン! と良い音がした。
「これって……変えれる?」
「我の知る限り、先例は無いな」
ジーザス……。
「そんな恰好の癖に無害そうな目をしてるんじゃない。これでもつけてみろ」
ベルがどこからか取り出して放ったものが僕の顔にはまる。
若干暗くなる視界。
気を利かせたサーシャが出してくれた鏡を見ると、またやたらと鋭いフォルムのサングラスが掛かっていた。
……なんで僕を世紀末の雑魚属性に近づけようとするの?
だんだん出発の時が近づいてきました。。