76.クミシェル-6
「うー……ん」
「ふわ……」
『あ、起きた? おはよー』
「おはよう……」
「おはようごさいますー」
二人が起きるのを確認して人化。
僕が訓練のために夜起きてたことは黙っておくことにした。
せっかく休めるように気を遣ってもらったのに、実際は大して休んでなかったなんて言いづらい。
「――ケイ、何あれ」
「僕、今日は少し早めに目が覚めたんだけど……森の中から出て来るところだった賊」
「危ないところだったのね。……私の判断も、まだまだか」
「や、魔物以外の敵に考えが行かなかった僕が悪いよ。でも、今度からは普通に三人交代で夜の番できるようにしといた方が良いかもね」
「そうね。じゃあ、アレ突き出しに一回街へ引き返す?」
尋ねるリーザに、僕は人型のまま片方だけ翼を広げてみせる。
……成功。
応用して人化とニワトリ化を部分的に使い分けられたら便利だとは思うけど、そっちはまだ練習中。
「ここはさっと飛んで帰らない?」
「ケイいつの間にそんな翼だけ生やせるようになってんのよ。あと、それだったらどれくらい掛かる?」
「ちょっと飛ばせば昼頃には着けると思う」
――あれ、翼が戻らない?
誤魔化しも兼ねて元の姿に戻る。
まだ修行が足りなかったかー……。
「じゃあ、ちょっと乗せてもらおうかな」
「すぐ寒くなると思うんで、上着を準備しておいた方が良いと思いますよー」
それから二人を乗せ、荷物は足で掴んで出発。
影は使えないけど、風を操って加速と背中の安定に利用した。
スピードは……もう遠い前世の記憶だけど、自動車くらいは出てそうだ。
ああ、最初ベルに連れられて洞窟に行った時はもっと速かった気がする。
あの時は僕の視力で認識できる限界を超えてたから詳しくは分からないにせよ、まあその速さがジェット機なんかに後れを取るとは思えないな。
『寒くない?』
「だ、大丈夫だけど! それより一応前に気をつけて!」
『そっちは風で進路空けてるから大丈夫』
こんなふうに高速飛行の最中でも会話ができるのだって風を操作してるおかげだ。
今更だけど、この能力くれたテドルエアスさんには頭が上がらないな。
『――ところで、ただでさえ寒かったクミシェル付近の上空なんだけど。二人は平気?』
「問題ないですよ。ケイさん暖かいですからー」
『そ、そう? まあ種族も「呪焔鶏」だしね。じゃあ降りるよ。落下に備えてね』
「へ? 落下?」
下に人がいないのを確認して人化。
足に掴んでいた荷物は肩に担ぎ直す。
「ええええぇぇぇぇええええええ!?」
「だ、大丈夫ですから落ち着いて! 舌噛んじゃいますよー!」
隣でリーザの悲鳴とエルザの声。
風を最大限に利用して減速しつつ落下する僕らは、まるで隕石のように見えているかもしれない。
最初は僕が普通に着地。
次はリーザが、両足と片手をついて衝撃を分散させながら着地。
最後のエルザは……昔見たパラシュートの正しい着地法みたいに全身を使って着地。
それは良いんだけど、衝撃をほぼ全部受け流したらしくて勢いのままにあらぬ方向へ転がっていこうとする。
その先にあったのは街を囲む壁。
「危ない! 『碧掌』っ」
「ありがとうございます~……」
咄嗟に風で抑えつけて止める。
エルザの心配をしたのか壁の心配をしたのか、自分でも分からなかったことは胸に秘めておこう。




