71.クミシェル-1
建物の外に出ると雪がちらついていた。
白い息を吐きながら、僕らはクミシェルの街を散策することにする。
とりあえず本屋でも探して、この街の地図でも仕入れたいところだ。
「思ってたほど不穏な気配みたいなのは無いわね」
「そう? なんか閉店してる店とか多くて嫌な感じだけど」
「あ……確かに。割と大きい街だけど、人もそんなに多くないし」
「影響が出始めてるってとこかな……え、あれって食べ物なの?」
「なになに? ……うん、タワシ丸齧りしてるようにしか見えない」
開いている店にはこれまで見たことのない珍しい品々が並んでいた。
相変わらず食欲は無いけど、新しい料理には挑戦してみたい。
最後にご飯作ったのっていつだったかな? リーザたちに会うより前だった気がする。
そういえばリティオで出した料理調査の依頼、どうなってるんだろ?
南部に行く人は増えるだろうし、まだ有効なら色々な情報が集まりそうなんだけどなー。
まあ、しばらくは縁のない話か。
「じゃあ宿はここにする?」
「んー、ちょっとボロいんじゃない?」
「そうかもね。じゃあ、レストランは少し遠くなるけどあっちの宿はどう?」
「うん、その方が良いと思う」
そういう訳で宿も決定。
リーザたちと僕は別の部屋を取った。
この姿で一つの部屋に泊まるのは流石に外聞が良くないだろうし、ニワトリ化したら今度は世紀末男の所在があやふやになって怪しい。
僕の方からそう言ったんだけど……部屋がやたら広く感じられるな。
思えばベルに拾われてから一人で寝るのは今日が初めてか。
前世も合わせて二十代前半の男が、まさかその程度で音を上げるようなことはないけど。
これからは野宿以外じゃこの形式の方が普通になるだろうし、すぐ慣れるはずだ。
……結論から言うと、この日はなかなか寝付けなかった。
その翌日、ギルドで適当に魔物討伐の依頼を受けた僕らは北東の森との間にある平原にいた。
「――よっ、と。そい!」
「ちょっ、速すぎ――ッ!?」
リーザの反応速度ギリギリで連続して短槍を打ち付ける。
やっぱり安全を考えると、自分より速い相手の攻撃も凌げるようになってほしいし。
あと、僕がベルに相手してもらったときみたいにレベルアップするんじゃないかって期待もあった。
ものの数秒で防御が崩れたリーザの首筋に柄をピタリと添える。
魔法とかはナシとして、フェイントみたいな技術はどう混ぜていこうかなー。
「強いのは知ってたけど、もう少し手加減してくれたって良いじゃない!」
「速さに慣れてもらおうってのもあるけど……どう、レベル上がった?」
「え? ……最近見てなかったからよく分かんない。今は49」
「そっかー。もしかしてリーザって結構強くなってた?」
「今なら虎の目傭兵団の方々とも良い勝負が出来るくらいかと。身体能力にもそこまで差があったわけじゃありませんからねー」
「あ、そうなの? じゃあ技術を磨いてった方が良いのかな」
「……お手柔らかに頼むわ」
ダウンして座り込むリーザに疲労回復を助ける飲み薬を渡す。
「前から気になってたんだけど、ケイの革ジャンの中ってどうなってるの? 四次元?」
「いや、コレはニワトリの時の羽と同じ素材なだけで普通の革ジャン。四次元なのはこの袋だよ」
「流石ファンタジー、そんなものもあるのね」
「ベルに貰ったんだ。今の技術じゃ作れない貴重品らしいけどね。――ところでエルザ、良い機会だし試合しない?」
「だ、大丈夫なんでしょうか?」
「多分ね。さっき見たら僕レベル116だったし、多少のことならまぁどうにかするよ」
「三桁!?」
何かあってもって言いたかったんだけど、つい予防線を張って多少の範囲内に限定してしまった。
それでも、どうにかするとはっきり口にしたことに違いはない。
……今度こそ、失敗はしない。
っと、そんなことを考えてる場合じゃないな。
重りを外して腕を回すエルザに、僕も短槍を構えて向き合った。




