7.黒龍の洞窟-2
『お?』
「……来た?」
いつもの訓練を終えてステータスを見ると、ついにレベルがノルマを達成していた。
名前:ケイ
種族:シャドウフレアチキン
Lv:70
ついでに種族もダークフレイムチキンからシャドウフレアチキンに変わっていた。
この洞窟に来てから二回目の進化な訳だけど、相変わらずニワトリだった。
……まあ良い。何が出来るのか、後でいろいろ試してみよう。
「……この勢いで、人化もできると良いんだけど」
『そうだなぁ』
サーシャについて広間に行くと、そこには先客がいた。
「あれ~、ケイさんまた進化しました~?」
『まだニワトリだけどね』
この数年のうちに手首と足首から先の封印が解けたナナは、よく楽しそうに絵を描いている。
出来はあまり良いとは言えないどころか直視できない感じだけど……本人が楽しんでいるんだから良いんだ。うん。
『あくまで今の自分の姿を元に、変化させていくイメージで……』
身体から流れ出した魔力が、闇となって纏わりつく。
いつもここまでは順調なんだけど……どうも前世の姿のイメージが強すぎるらしくて上手くいかない。
でも、その日の僕はいつもと違った。
『あ、なんかイケそう?』
「おお~?」
闇の蛹の中で、自分が解けるような感覚。
やがて闇は僕の身体と同化し、視界が開ける。
驚いたように固まるサーシャと目があった。
「ど……だ、ぅ」
あれ、声がうまく出ないな……。
念話で改めて尋ねる。
『どんな感じ?』
「……良いっ」
サーシャは少しの沈黙の後、グッ! と力強く親指を立てた。
「わ~、格好良いです~!」
目をキラキラさせるナナ。
これは期待大だ!
どんなイケメンになれたのやら?
そう思っていると、サーシャが魔法で地面から鏡を出してくれた。
細マッチョな長身。
黒の革ジャン。
前世とあまり変わらない平凡な顔。
そして――立派な赤髪。
「な……じゃこゃ、ぁあ!?」
なんじゃこりゃぁああ!?
いや、別に赤髪が悪いわけじゃない。
問題なのはその形だ。
端的に形容すると、こうだろう。――鶏冠ヘア。
アンテナや槍を連想させる尖った赤髪は硬く鋭く、たぶん頭突きしたら刺さる。
世紀末にヒャッハー汚物は消毒だーとか叫んでるアイツらが隣にいたら凄く馴染みそうな。
折角の黒皮ジャンがそういう方向でマッチしているのが辛い。
「……人型で喋るのは、慣れるのに時間がかかるから」
鏡を引っ込めたサーシャがそう教えてくれるけど、今はそれどころじゃない。
『封印だ! この姿は封印す……あれ?』
「……嫌、なの? でも、変身も慣れないと上手くできないけど」
簡単にはニワトリに戻れないって……!?
というかサーシャ、本当に不思議そうに首を傾げるのやめて!
一人世紀末男は、洞窟の隅で膝を抱えるのだった。




