62.キャラバン-1
翌日、キャラバンの人たちと一緒に出発。
事前に聞いたところによると、護衛はリーザ、エルザとランクCCCの虎の目傭兵団を合わせて九人。
護衛対象は商人が六人に同乗者が一人、馬車を三台使っての移動になる。
僕らは国境を越えて目的地に着くまでの一週間契約だけど、傭兵団は四日目に着く予定の街で別の傭兵団に引き継ぐことになっているとか。
顔合わせでの印象は普通……というか、ランク差を考慮すれば良い感じだと思う。
「はい、じゃあここで昼休み取りまーす!」
「「「りょうかーい」」」
キャラバンのリーダーの号令で馬車を止め、簡単な野営の準備をする。
ランクDのリーザの仕事は割と雑用的な意味が強かったんだけど、傭兵団の人たちも快く働いてくれたおかげで手早く済んだ。
いつも通り大爆発なエルザのフォローまでしてくれて、ホント良い人たちだ。
キャラバンの方で用意してくれた食事を皆で食べるんだけど……見覚えのある朱色の髪。
確か、リティオのギルドにいた……セルジュさん?
こことはうろ覚え日本換算だと福岡~千葉くらい離れてたはず。
別人には見えないけど、一人でどうしたんだろ? 雰囲気も暗めだし、気になるな。
ニワトリなのは知られてないから、話しかけるなら人化しないとだけど……。
人化といえば、一回話しておくべきことがあるな。
あー、緊張する……。
片づけが終わった後、再出発までの休憩時間を利用してリーザとエルザに声を掛ける。
もちろん周りに他の人が来たら分かるように、結界状に魔力を込めた風を巡らせておく。
「わざわざ呼び出してどうしたの?」
『その、ちょっと確かめときたいことがあって……』
「何よ歯切れ悪い」
『あー……二人は、僕の人化をどう思ってる?』
「ふぇっ?」
ここまで来たら言うしかない。
ってことで思い切ってみたけど……リーザはかなり意表を突かれたらしい。
固まったリーザに先んじてエルザが口を開いた。
「えっとー……やっぱりニワトリの姿が本体なら、人の時の恰好はおまけというか、着ぐるみみたいな?」
『ふむふむ』
「客観的に見れば奇抜な姿なんでしょうが、中身ケイさんだし特に気になりませんねー」
『そ、そう?』
「あと、よくお話とかに魔法で姿を変えられた人や動物がいるじゃないですかー。あれの変化版みたいな認識です」
なるほどね。
まあ、そんなに気にしてはいないってことで良いみたいだ。
奇抜っていうか怪しい恰好なのは分かってたし。
それで、リーザの方を見ると……。
「あわわ……」
『リーザ?』
「え!? ああ、そうね。あの黒い革ジャンだけど……」
『うん』
「メタリックで強そうな感じとか、エレガントな光り方とかホント素晴らしいと思うわ」
『う……ん?』
「あの鋭い形の髪も最高ね。革ジャンといいサングラスといい、髪色の鮮やかな赤が黒い色と凄く引き立て合ってる。背も高いし肩幅もあるから着こなしも完璧で――」
『おーい、リーザー?』
「サングラスの下は普通に鋭い目つきでも可愛い目つきでギャップ狙ってきても良いし、何なら盲目とかアブノーマル系であろうと――」
……駄目だ、完全にトんでる。
上気した顔で興奮気味に語られても、この内容じゃなー……。
ニワトリ世紀末な僕、テンプレ災害系ドジっ娘なエルザと違ってマトモだと思ってたのに、リーザも残念な子だったなんて……。
「予想外の反応でしたねー」
『まさか全肯定されるとは思ってもみなかったよ』
「……あ、帰ってきたみたいです」
「火炎放射機とか――ハッ!?」
『お帰りー』
二人でしばらくリアクションに困っていると、リーザが我に返った。
顔を赤くして、舌でも噛んだみたいに口許を抑えている。
「わ、私……何処から口に出してた?」
『あー、まあ、色々と』
「勘違いしないでよ、私は格好良い系が好きなだけなんだから!」
「は、はぁ」
その後、なんか「お前は既に死んでいる」とか「ロードローラーだッ!」の服装の魅力やらグロいのは駄目だから原作は読んでないことやら力説された。
それって原作のファンに嫌われかねないパターンじゃないかな?
横目に盗み見るとエルザは舟をこいで頷きを偽装しつつ小さく寝息を立てている。
「――だから私はモヒカン連中の人格は評価してるわけじゃなくて――あ、そろそろ時間ね。とにかく二人とも、言いたいことは伝わった?」
『も、勿論さぁ!』
「……あれ、エルザ?」
「はい、完璧ですよー」
「それなら良いのよ。ほら、行きましょう?」
半分聞き流してたから返事が妙な発音になって我ながら恥ずかしい。
というかエルザ、寝起きに何食わぬ顔であの返事とは只者じゃないな。
最後だいぶ話が逸れたけど、もともと何話してたんだっけ?
……ああ、人化のことだった。
あまり気にすることも無かった、のかな。
一人、別の意味で心配かもしれないけど。




