6.黒龍の洞窟-1
『戻ったぞ』
「おかえりなさーい!」
「……お帰り」
洞窟に着いたベルザークを、二つの声が出迎えた。
静かに進み出たのは黒髪の少女。
無表情だが、頭の狐耳と腰元の尻尾が嬉しそうにパタパタしている。
次にヨタヨタと出てきたのは、全身を包帯でぐるぐる巻きにした少女だった。
露出しているのは首から上だけだけど、その顔は三次元・二次元合わせても今まで見たことがないほどに美しかった。
『新しい眷属だ』
『えっと、宜しく』
「……珍しい」
「喋ったぁ!?」
狐娘は無感情に呟き、包帯少女は大仰に驚く。
珍しいのは喋るニワトリなのか喋る動物なのかが微妙なところかな?
『まあ、こんな奴らだ』
どんな奴らだよ。
狐娘がクール系で包帯少女が天然系?
『概ねそういう認識で良いだろう』
「……立ち話もなんだし、中に」
「そうだな」
すいっと人化したベルザーク。
ちなみにゴスロリっぽい姿をしている。
……今更人化程度で驚くまい。
「ああ、この姿の時はベルと呼ぶように」
『はいはい』
見た目の印象はだいぶ変わるのに、話し方にはなんだか違和感が無いな。
「じゃあ自己紹介といくか」
洞窟にはそぐわない普通の料理を口に運びながらベルが言う。
新参の僕は小麦を啄むのを中断して頭を下げた。
『えっと……ブラックファイアチキンのケイ。レベル37、異世界の人間だったけど転生したっぽい。宜しく』
「わたしは被呪闘神のナナ、レベルは-251です~」
『そ……そうなんだ』
いきなりハードルが高かった。
凄く色々聞きたい衝動を抑え、「よろしくです~」と頭を下げる包帯少女――ナナにお辞儀を返す。
「……私は狐人のサーシャ。レベルは81」
「ケイには我のレベルを言ってなかったな。233だ」
『……へぇ、やっぱり高いな』
だからマイナス251ってなんなんだ!
「じゃあもう少し暴露しようか」
『え?』
なんだか嫌な予感がしてきた。
「ナナは元々普通の人間だったらしいんだが、ある時秘めていた因子が目覚めた影響でこうなった」
「そうなんですよ~」
重い話の匂いがするんだけど、本人はにかんでる場合か?
「拾ってからずっと浄化作用のある棺に封印状態だったが、半世紀以上かけて最近ようやく首から上の呪いを解いて目覚めさせてやれたところだ。包帯の下は今も腐ってる」
う……。やっぱり重い。そんな簡単に聞いて良い話だったのかな?
遠慮がちにナナの方を見ても、にへらっとした表情でリゾットを口に運んでいるだけだった。
「どうも呪いを解くには特定の秘宝が有効らしくてな、最近はそれを探すのが目的だ」
『そ、そうか』
「次はサーシャだな」
「……自分で言う」
なんか凄く不服そう。……良いのかな?
「……父は天狐で母は人間。母は私を生む時に死んで、父は私を疎んだ人間たちに殺された。天狐にも人間にも黒狐は災いの象徴だから迫害されていたのを、ベルに拾われた」
『……そうか』
僕さっきからそれしか言ってないな。
よく知りもしないのに迂闊なことは言えないから仕方ないけど。
「まあ過去は過去、今とは違う。これくらいのことは他人にも平気で話せるくらいにならないとな」
「……毎回聞いてる」
「今のはケイに言ったんだ。凄く狼狽えてたからな」
「……そう」
「まあ黒いニワトリというのも中々に忌避されると思うぞ? 珍しいし」
『それは、少し困るな』
「じゃあこれからのことを話そうか」
食事を終えたベルが指を振ると、食器がひとりでにキッチンへ飛んでいった。
「我はいつものように適当に面白いものが無いか飛び回るとしてだ。サーシャは鍛錬のときにケイも見てやれ。ナナも仲良くするのだぞ?」
「……分かった」
「もちろんですよ~」
『手間を掛ける』
母親かよ、とも思ったけど保護者という意味ではあながち間違ってないか。
「ケイはレベル70と人化の習得が当面の目標だな」
ちょっとハードルが高いんじゃないか?
『どれくらい掛かるもんなの?』
「数年で済むだろう」
流石ドラゴン、時間間隔がおかしい。
『下手したら僕、寿命で死ぬんじゃ?』
「阿呆、我が眷属にもなってただのニワトリと寿命が同じわけ無かろうが」
それもそうかと思いつつ、これからに思いを馳せる。
数年か……先は長いな。
プロローグ終了です。