57.白龍神殿-1
その後は普通に目を覚ましたリーザたちと食事を済ませ、テントを畳んで出発。
ちょっと訓練とかも交えつつ、ひたすら歩いて渓谷の奥の神殿に向かう。
遠くに小さく見える神殿はこの距離でも分かる存在感を放っていた。
この辺りに魔物が出ないことも合わさって、まさに聖域って感じがする。
どれだけ歩いても神殿との距離は中々縮まらなかった。
振り返れば僕らがちゃんと進んでいるのは分かるし、単純に距離の問題らしい。
翌日の昼過ぎには、無事に神殿に辿り着けた。
「うわぁ……」
「まさに神殿っていうか……」
『凄いね……』
ちょっとありきたりな感想しか出てこなかったけど、間近で見る神殿は大迫力だった。
巨大な威容は山を掘って仕上げたように継ぎ目一つない滑らかさで、それでいて細部まで装飾が行き届いている。
素材も分からない純白の壁はそこに存在していながら次元を隔てているようで、おまけに強い魔力まで感じる。
地球なら間違いなく世界遺産にはなってる、なんて感想はちょっと卑俗に過ぎるかな。
『――ほら、入ろう。いつまでもこうしてる訳にもいかないし』
「そう、よね」
しょせん自分など異物に過ぎないと突きつけてくるようなこの神殿に入るのは躊躇われる。
でも使命のためには――って、まるで敵地にでも入るような雰囲気だな。
一応ノック、反応が無いのを確かめてから扉を開ける。
入って少し進んだところは大広間になっていた。
その奥に、目を閉じた長身の女性が佇んでいる。
騎士や神官が着るような装束は神殿と同じ鮮烈なまでの白。
身動き一つ、それこそ呼吸さえしていないようなのに放っている圧倒的な存在感。
……間違いない。
『七柱の真龍が白龍、ドレイクさんでしょうか?』
「――如何にも」
女性――ドレイクさんが瞼を上げる。
その視線がリーザに向いたと思った時には、僕らは大広間の中央でドレイクさんと向き合っていた。
リーザを見てるってことは……多分そうなんだろうな。
固まってるリーザを羽で促す。
「ゆ、勇者として召喚されました理沙・高橋です。原龍……様より預かった聖剣に、力を授けて頂きたく!」
「……剣を」
「はいっ」
かなり緊張してるな……無理もないけど。
虚空から聖剣を取り出したリーザはぎこちない動きでドレイクさんに手渡す。
受け取ったドレイクさんから力が溢れたと思うと、聖剣も一段と力強さを増したような気がする。
返された聖剣を虚空に収めるリーザ。
「ところで、森を抜けた所からお前たちの様子を見ていたが。山を飛んで越えようとした時……なぜ本気で戦わなかった?」
『万が一にも、あの亜龍が貴女の眷属である可能性を考慮した為です』
「……なら、今知っておくと良い。私たちの中で眷属を持っているのは、赤龍と青龍、黒龍だけだ」
『覚えておきます』
つまり、あのワイバーン戦じゃ別に遠慮しなくても良かったってことか。
ベルの眷属は僕ら、レマリクスのは前聞いたハーレムとして……メネマテウスの眷属は何なんだろ?
まあ二龍の眷属を参考に考えると意思の疎通は出来そうだし、今ここで聞くまでもないかな。
意図的なのか違うのかは分からないけど、ドレイクさんは質問しにくい威圧感を放ってるし。
「もう一つ。勇者は後ろに下がっていることが多いが、どういうことだ?」
「……!」
『彼女はまだ成長途中ですから……それこそ、あらゆる意味で。ある程度育てば、そこからは自力で伸びていくでしょう』
「……つまり今は守られる時だと」
『はい』
二つ目の質問にリーザが息を詰めた。
守られる自分に責任を感じてたとかなら、これは皮肉として刺さるかもしれない。
……でも、ここは僕が前に出る。
勝手な同情の自覚はあるけど、放ってはおけない。
「そうか」
無感情に呟いたドレイクさんは、気づくともう壁際に立っていた。
それまで彼女が立っていた場所が円形に輝いている。
「なら、守ってみろ。此方でエアスが狩った妖魔に、この程度の能力を持つ個体がいる」
え?
床が一際強く輝くと、大理石で作られた龍像のようなものが現れた。
その全身に生命力が行き渡るような気配と共に、閉じられていた瞳がパチリと開く。
「ギャオォオオオ!!」
翼を広げ咆哮したのは青眼の白いドラゴン。攻撃力3000はありそうだ。
腕を振り被る動作と連動して尻尾が迫る。
咄嗟に元の姿に戻った僕は、リーザとエルザを引っ掴んで飛び退いた。
ガッチガチに緊張してる勇者一行




