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チキンハート  作者: 27サグマル
54/133

54.キュシャ島群-8

 そんなわけで上空ルートを諦めた僕らは、山の途中にあるトンネルっぽいところの入り口に立っていた。

 まあゲームとかならトンネルで先に繋がってるもんだけど……現実、しかも天然モノじゃ行き止まりの可能性の方が高い。

 いや詳しくないから本当はどうとか知らないけど、高いんじゃない?

 さっきワイバーンにリンチされかけただけでもうかなり疲れてるのに、この上遭難とか耐えられるわけがない。

 まだ身体的な疲労の方がマシだ。


『……あのさ、中での戦いは任せて良い?』

「何するつもりよ」

『いや、よくあるじゃん風の動きを読んで最短ルートとか言うの。再現できるとは思うんだけど、凄く疲れそうなんだよねー。洞窟内の空気全部を一瞬とはいえ掌握するんだし』

「うーん……」

『レベル上げだったらこんな状況じゃなくてもできるし、今は呑気に遭難してるような状況でもないしさ』

「そう……ね。でも念の為に最低限の余力くらいは残しといてよ?」

『そこは善処する』


 リーザの肩から飛び降りて入口の前に立つ。

 手乗りサイズじゃ流石に厳しすぎるんで、魔法に支障が無い程度の通常ニワトリサイズに変化。

 手始めに洞窟の影を探ると、中には一定以上の空間が確認できた。

 魔力を練り風を貯めて……駆影術も合わせて一気に放つ!


『――「黒風の先駆」』


 洞窟の中を風が吹き抜ける。

 ビンゴ! 出口の存在を確認できた。

 今気づいたけど、これで行き止まりだったらまたどこかでトンネル見つけた時に同じことする羽目になってた?

 一発で当たり引けてホント良かった。

 そういえば今の詠唱は二人に向けてない念話(テレパシー)だし、僕が影使ってるのをリーザたちは知らないってことになるな。

 不寝番した時も具体的な方法は特に説明してないし。


 ……ふう。やっぱり実際にやってみると相当キツいな。

 手乗りサイズになった僕はリーザの肩に乗ると、くてっと倒れこんだ。


「それで、どういう結果だったの?」

『あ、言い忘れてたゴメン。当たりだよー』

「では、後はお任せください!」


 あれ? 意気込むエルザを見てると、なんか胸騒ぎが……。

 べ、別にバトルとか探索系だし心配ないよね?



 洞窟の中にも魔物は生息していた。


 例えば昔ここで力尽きた誰かと思われるスケルトン。

 エルザが例のギロチンじみた踵落としで粉砕した。


 ある意味じゃ洞窟の定番、蝙蝠。

 エルザが投げたナイフの撃墜率が百五十パーセント。

 平気な顔して一石二鳥を地で行くからな……。


 なんだろ、形容しがたい……筋肉質の小悪魔みたいな魔物。

 エルザが押されてると思って手助けしたんだけど、この程度の相手ならちゃんと休んでるようにって注意された。

 二回目以降の遭遇じゃ、いつもの重りを軽いのに変えたエルザの圧勝だった。

 重りを外すわけじゃないあたりにこだわりを感じる。


 そうやって進んでいくうちに時間は過ぎ、どうやら外では夜になったみたいで……。


「ふわ……」

「ちょっとエルザ、魔物!」


 突っ込んできた蝙蝠を斬り捨てるリーザ。

 別にエルザも今すぐ寝るとかって状態じゃないけど戦力は少し低下している。

 野営を勧めたいけど、今の僕じゃ不寝番はキツいしな……。


「どうする、休む?」

「いえ……今ケイさんに不寝番お願いする訳にふぁあ……っと、お願いする訳にもいきませんから」

『今思いっ切り欠伸したよね?』

「これまでの感じからすると、まあ大丈夫かな?」


 ということで更に進むと、ようやく出口が見えた。

 途中に何回か危ない場面もあったけど、そこはリーザがフォローしてくれたおかげでなんとかなった。

 やっぱり疲れてるし、出口が見つかったからって走り出すほどの元気もない。

 普通に歩いて出ようとするリーザの肩で、ふと上の方から悪寒を感じた。

 どこか原始的な……剥き出しの強烈な意思。


『二人とも、下がって!』

「「――ッ!」」


 わざわざその正体を確認するまでもない。

 全力の警告に即座に反応して飛び退く二人。

 リーザたちがさっきまでいたところに、特大のスライムみたいなのが降ってきた。

 少し散った体液に地面が煙を上げる。


 これは……結構マズい状況でボス戦って感じ?

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