51.キュシャ島群-5
「では、後はごゆっくりー」
「え、どうしたの?」
「これ以上の夜更かしは明日に障りそうですから」
『別に気にしなくても良いのに』
「そう何度も失態は繰り返しませんよー!」
酒場の片隅でくつろいでいると、そう言ってエルザは一足先に宿へ戻っていった。
その後も僕はジュースを傾けるリーザに付き合ってたんだけど……。
「このままだと、明日の朝はエルザだけ早起きすることになりそうよね?」
『そうだね』
「……大丈夫かな?」
『……マズいと思う』
「……帰る?」
『そだね』
うん、不安からは目を逸らしきれなかった。
簡単な掃除でもしようとして備品を粉砕するのか、ベッドメイキング的なことをしようとして引き裂くのか……。
容易に想像できるあたりがまた怖い。
ちょっと名残惜しくはあったけど会計を済ませて酒場を出る。
リーザもこういう時に自分で払えるくらいは懐が潤ってきたようでなにより。
宿に戻った僕らはもう寝ていたエルザを起こさないよう気を付けつつ、そっと眠りに就いた。
その翌朝。
張り切ってやらかそうとするエルザをリーザと二人でフォローしつつチェックアウト。
リーザのレベルも上がってきたことだし、そろそろ白龍に会いにいくことを提案してみる。
「んー……まあ、頃合いって感じはするかな」
「リーザ様の御心のままに」
「…………」
「どうかしましたかー?」
「……エルザって、時々凄くメイドっぽいわね」
「ど、どういう意味ですか!」
膨れっ面を作るエルザは普通の美少女にしか見えないけど、確かにさっき一礼した時は洗練されたものを感じた。
戦闘も難なくこなすし、実はかなり優秀なんじゃない? ……家事関連以外。
ともかく、市場に出て旅支度を整える。
今回は横から見てるだけだったけど、特に問題もなく良い感じに準備できていた。
これならもう毎回こういう準備がちゃんと出来てるか目を光らせる必要もないかな?
街を出た僕らは襲ってくる魔物を撃退しながら森を進んでいく。
先は長いし消耗するわけにもいかないんで、戦闘はエルザが魔物を蹴散らすイージーモード。
それでも木々が密集していて通れないところがあったり、いかにも底無しっぽい沼を迂回したりと大変だった。
「キリがない、ですね……」
『しばらく代わろうか?』
「う……すいません、お願いします……」
「重り外せば楽なんじゃない?」
「どうせ持ち運ぶって意味じゃ変わりませんから」
「ん……? 分かったような分からないような……」
あまり広範囲の影に干渉するのも大変だし、横着は諦めて現れる魔物を普通に撃退することにする。
そんな感じで露払いを交代しつつ進んでいったんだけど、この森は思いの外深かった。
「ここ丁度良い感じに開けてるし、今日はもう休まない?」
『ん?』
「だってエルザもふらふらし始めてるし」
「大丈夫でふわぁ……」
『よし、テントを張ろうか』
周りの魔物を警戒しつつ野営。
リーザが簡単に料理してくれたけど、これなら僕の方が……って、女の子に対してこれは失礼か。どうせ僕は小麦の粒だしね。
この時ばかりはテント周りの影に意識を向けて、感知した魔物を半自動的に遠くへ射出するようにしておく。
一晩中コレってのは中々キツいけど、夜は魔物もより厄介なのが動いてるみたいだし仕方ない。
日中はエルザに頑張ってもらう条件で納得してもらい、僕は不寝番についた。




