44.東海-1
「エルザ、そんなに海が珍しい?」
「はい! 初めて見ました~!」
リミユルを出航し、キュシャ島群――通称、白龍三島へ向かう船上。
日本出身の僕とリーザはそうでもないけど、内陸育ちのエルザは大はしゃぎで海を眺めていた。
絶景とかネットで気軽に見れた世代だからそこまで興奮はしないけど、でもキラキラ輝く水面は見てて明るい気分になる。
『そういえば昨日ヘルプ本で見たんだけど――あ、返事はしなくて良いよ』
「んー……」
伸びをするリーザがこっちを見たのを確認して話を続ける。
一応エルザにも聞こえるようにしてるけど……ま、良いか。たぶん聞いてるだろうし。
『僕の設定、リーザの使い魔ってことにしない? 詳しく突っ込まれたら、親御さんとかに貰ったからよく分からない、みたいな』
「ところでエルザー。ケイの提案どう思う?」
「良いと思います。鶏にしては不自然なことでも、使い魔ってことならある程度は誤魔化しが効きそうですから」
『この世界にも召喚師とか魔物使いっていたんだね』
――と、そんな事を話していた時だった。
空の一方が輝いたと思うと、色とりどりの光が近づいて来る。
……え?
この気配、もしかしてあれって……全部、攻撃魔法?
船に乗り込んでいた用心棒っぽい人たちが攻撃を弾くけど、完全には防ぎきれない。
船は一部損傷し、用心棒たちも大なり小なり手傷を負った。
何が起きたのかは分からないけど……勘弁してよ……。
途端にパニックに陥った甲板。
人気の少ない端の方まで下がった僕らが様子を見ていると、船のすぐ傍に浮上してきた新しい船がある。
案の定というか、武器を手にした厳つい男たちが乗り込んできた。
こっちの船の船乗りたちも強面だけど、海賊たちは人相が悪いっていうか……雰囲気が違う。
なんか嫌な感じだ。――あ、今こっち見てニヤついたのとか露骨。
しかも後詰め的なものなのか、魔法が飛んできた方からは結構大きい新手の船が姿を見せる。
結構なスピードで突っ込んできて、更に敵の戦力が増えた。
今や甲板の至る所が海賊だらけで、流石に僕らも黙って観戦って訳にもいかない。
ちなみにエルザが無双して、迫る海賊たちを次々と海に叩き落としていた。
殴られた海賊は文字通りくの字に身体を折り曲げて吹っ飛んでるけど、気にする筋合いも無いか。
「エルザ、矢!」
「――っく、鬱陶しい!」
「ゥオラア!」
「うるさいです!」
うわ、厄介な構成してるな。
最初は剣装備の海賊たちばっかりだったのに、後詰めの方から弓使いとか魔法を放つ増援が出て来た。
対するこっちにはそんな後衛タイプの味方もいないらしく、形勢が一気に傾き始めた。
エルザへの攻撃はまだ牽制程度だけど、本格的に狙われてる用心棒とか他の所が危ない。
このままじゃ、近いうちに負ける。
駆影術なら僕は関係ないフリしつつ船員ごと一掃できるけど……影がちゃんと繋がってないからダメだ。
僕自身の影なら色々使えるけど、それじゃ目立ちすぎるし。
……幸い、リーザはエルザの方に気を取られてて僕の方に意識が向いていない。
そのエルザはリーザを守るように立ち回っているし、心配はないはず。
例の、身体を羽根に見立てて云々っていう不完全な奥義――面倒だな、羽舞とでも呼ぶ? アレで気配を消し、僕はこっそりその場を離れた。




