43.リミユル-2
その翌日。
僕たちはギルドで薬草採取の依頼を受け、街の外に出ていた。
「――これでノルマは達成、かな?」
『一応、こういうのは少し多めに採っておいた方が良いらしいよ』
「もう一頑張りですねー」
草むしりにニワトリの羽は向かないんで、僕は二人が採取してる横でリーザのヘルプ本を読んでいた。
知れて良かったことも多いけど……これに書いてあるのは、良くも悪くも常識ってところかな。
例えば、七柱の真龍の真名は誰にも知られてないって記述。
呪術が全然効かないから名乗られた名前は真名じゃないんだって解釈らしいけど、これはベルが否定してる。
真名を明かすことにはリスクも伴うけど利点も多いらしくて、呪術とか危険にもならないくらい七龍は格が違うこともあって普通に真名を名乗ってるんだとか。
ちなみにその真名を明かす利点っていうのには、例えば主従の契約とかするときに真名を使うと結びつきが強化できるそうだ。
ベルに聞いたこの情報、人間の間じゃ失伝してるっぽいけどね。
まぁそういう例外もあるにせよ、この世界での日常生活で必要な常識を結構身につけられたのは大きな収穫だった。
ベルの仲間お墨付きの勇者を放り出したってことでフォアリスとかいう国には良いイメージ無かったけど、このヘルプ本って功績で少し見直しても良いかもしれない。
勇者召喚に備えて国の意向で作られた一点モノみたいだし。
「でも今日これからどうする? 仕事もないし、結構ヒマよね?」
『本屋で立ち読みでもすれば――って勧めたいところだけど。勇者ならやっぱり経験値稼ぎとか?』
「でもこの辺に魔物いないから薬草採取してんじゃない」
『エルザと特訓でもすれば良いじゃん』
「そ、それはやめた方が良いです!」
話題に上った瞬間、顔を青くして後退るエルザ。
何を想像したの?
まさか、対人でもあのドジっ娘属性を発揮するつもりなのか。
確かレベルはリーザが20でエルザが60だっけ。
……うん、やめておこう。
『仕方ない、僕が付き合うよ』
「なんていうか、参考にならなくない?」
『そこはほら、こうするんだって』
熱を抑えた炎を纏う。
意識と魔力を行き渡らせて、形を整えて――うわ、難しいな。
まあ、どうにか動かせる。
ぎりぎりイメージ通り、剣士型の炎の中に僕が収まっている形になった。
炎には当然ながら実体が無いんで、剣の部分に大きさを調整した僕が入って身体を伸ばす。
斬ることを目的にしてないし、僕の鱗羽は並の剣より遥かに硬いから大丈夫だろう。
剣が大剣になっちゃったのは仕方ない。
「……大丈夫なの?」
『多分ね。じゃあ、目の前に大剣振り回す危ない奴が迫ったって設定でゴー!』
「よ、よーしっ!」
それから結構な時間が過ぎた。
横では疲れ切ったリーザが倒れてるけど、僕も精神的に消耗してグッタリしている。
炎の操作はだいぶ上手くできるようになったけど……これって何かの役に立つのかな?
と、そんなことよりリーザだ。
本当にその辺のチートは持ってないのが分かった。
そうなると少し前まで普通の女子高生やってた子に剣で戦えって言っても無理があるわけで。
剣を扱うには十分な体力こそあったけど、技が我流未満じゃどうしようもない。
ま、それを修行して身につけていくんだけどね。
実戦の中で鍛えるとか言うには、まだお膳立てが必要みたいだ。
どっちかっていうと槍師の僕が言うのもなんだけど、覚えは悪くないみたいだからそこは安心できるだろう。
「はー……剣とかダメだー……」
『何のチートも無かったらそんなもんでしょ。寧ろレベルが20もあるぶん恵まれてる方だよ』
「たった20よ?」
『エルザが規格外なだけで、レベル20っていえば中の中くらいはあるよ。場所と相手を選べばレベルを上げて物理で――って感じで実戦経験は積めると思う』
「なら良いんだけど……。転生しただけでチート貰ってる主人公らが羨ましいわー」
『現実は二次元みたいにはいかないってことだね』
僕だって今じゃこんなレベルだけど、地道に鍛えた結果だからなー。
エルザは……代わりに大事なものを失ってるっぽいしプラスマイナスゼロで。
僕とリーザが特訓してる間、隣で筋トレしてたけど……そこまでのレベルだと、そういう方法で上げていくのは大変だよ?
僕が人化して相手してあげられれば少しは楽なんだけど。
そうする内に日も暮れてきたし、僕らは疲れた身体を引きずって宿に戻った。




