41.クスイツ-3
クスイツの周りには、リティオにいた時の森みたいに魔物が潜む場所ってのが存在しない。
というわけで、この街の常設依頼である草原での薬草採取をしながら待つことしばし。
村の方から帰って来る人影が遠目に見えたんで、ギルドに戻って薬草を提出。
ニワトリに戻った僕は、一応他の冒険者に見つからないようにしつつリーザたちと合流した。
『お疲れー』
「ちょっ……アンタどこ行ってたのよ!?」
『ちょっとねー』
適当に相槌を打ちつつ足元を歩いていると、首根っこを掴んで持ち上げられた。
……やっぱりそう簡単には誤魔化せない?
「あの村で黒い鶏の話を聞いたんだけどさぁ」
「それも、二種類のー」
『そーなの?』
あ、返事ミスったかも。
リーザのこめかみがイラッて感じにヒクついた。
「とりあえず片方の、小さい鶏はケイで間違いないよね?」
『さ、さあ。どうだろー』
「なんで認めないのよ面倒臭い。まぁ、ケイってことで話を進めるわ」
『それってどうなの?』
「………………あーぁ、もう良いよ別に!」
「ていっ」
『たわばっ!?』
放り投げられた僕をエルザが叩き落とす。
例によって痛くはないけど、これはヒドくない?
「もう一匹の、一声で村人ごと盗賊を全滅させたデカい鶏ってのもアンタだって確認したかっただけ。でも……別に悪い事した訳じゃないし」
これはアレか?
押して駄目なら引いてみるとかいう作戦?
『……ゴメン、そのニワトリどっちも僕』
「やっぱり?」
まぁ、効果は覿面だったわけで……。
なんか申し訳ない気がして自白。
正体を隠してるってこともあるけど……僕は元々同じ日本出身なのに、異世界でけっこう幸せに暮らしてて。
今じゃこっち側の一員として、魔王討伐をリーザに押し付けてることに負い目があるんだよね。
いやー、分析して原因を自覚すれば謎の罪悪感から逃れられると思ってたけど、全然そんなことは無かった。
「でも、急にあっさりバラすじゃない」
『これでも一緒に旅してる仲間な訳だし、隠し事に罪悪感が……』
「仲間? アンタって非常食じゃなかった?」
「ですよね?」
『そうなの!?』
そんな目で僕のことを!?
……うん、旅の間は間違ってもこの二人を飢えさせないようにしよう。
捌かれたくないし。
「もう時間的に微妙だし、今日はクスイツで休んで明日の朝に出発しない?」
『え? ああ、うん』
「……何かマズいことがあったら、言ってよ?」
『いや、特にないと思う』
ただ、リーザの方からそういう意見が出たのに驚いただけで。
なんか意外な感じがしたけど、理由はって言うと……自分でもはっきりとは分からないな。
『冒険者の人たちといる時に何かあったの?』
「いや別に? ただ、勇者なのに導かれてばっかりなのもなって思っただけ」
『そうなんだ』
「日本出身なら分かる、かな? 勇者って言うと、人を導く者みたいなイメージがあるじゃない」
『ああ、そういうことか。無理はしないようにね』
「数年くらい年上だからって、鶏の癖に」
『ちょっと!?』
先頭を歩いていた僕は、後ろからひょいと持ち上げられる。
首根っこ掴む以外の持ち方は何気に初めてで、どうも落ち着かない。
っていうかこのサイズじゃ肩とか頭に乗せるには少し大きいんじゃない?
「ケイって大きさ変えれるのよね」
『まあね』
「もう少し小さくなれない? 手乗りサイズくらいに」
『んー……別に良いけど』
ご要望通りの手の平サイズになった僕を、リーザは満足げに肩に乗せる。
肩の上って思ってたより安定しないな……。
爪を立てた日には怒られるのが見えてるし、気を付けないと。
それでも、初めての眺めはそんなに悪くなかった。
――それにしても、なんで人化バージョンの方は追及されなかったんだろ?




