4.唐辛子の森-1
脱走から数日後。
「ココケコー!」
森に逃げ込んだ僕は、野犬っぽい魔物から逃げ回ったり川で魚を取ったりして生命を繋いでいた。
種族はジューシーチキンからワイルドチキンに変わり、レベルは12になった。
そんな中で見つけたのが、前世からの好物だった唐辛子だ。
この森には色々な辛さの唐辛子があるが、今の僕は前世で言うハバネロ級のものでも問題なく食べられる。
ニワトリが唐辛子食って平気なのかって? 知らんわ!
「コッ?」
あれ、喉が熱い? これはもしや――。
「コッケー!」
うわ!
……やっといてなんだけど、まさか本当に火の球が吐けるとは思わなかった。
前方の木に直撃したが、幸い燃え上がることは無かった。
喉にはまだ独特の感覚が残っている。
どうも自分の意思で火球を吐けるようになったらしい。
ステータスを確認する。
名前:ラウネン<=小鳥遊啓太>
種族:スパイシーチキン
Lv:12
……また料理名に逆戻りしてるよ……。
それからまた数日が過ぎた。
スパイシーチキン・ラウネンはレベルが18に上がり、今では野犬も蹴り一つで仕留められる肉食ニワトリと化していた。
火球攻撃で野犬を狩るようになってからとんとん拍子に上がっていたレベルの伸びも、最近は鈍りがちである。
その時だいぶ調子に乗っていた僕は森の中を探検し、広場のような空き地を横切ろうとしていた。
……逃げ場の無い、開けた場所を。
急に辺りが暗くなり、僕はなんとなく上を見上げた。
腰を抜かす。
全ての光を吸い込むような漆黒の鱗を持つ龍が、今まさに広場に降り立つところだった。
「ココケ……――」
起き上がった僕は正面を見て固まった。
これまでの記憶が、確かに走馬灯のように脳内を走る。
黒龍と思いっきり目があったのだからしょうがない。
そしていくら調子に乗っていたとはいえ……流石にニワトリが龍から逃げられるとも、ましてや勝てるとは思わない。
「コ……ココケ、コココッケコケココケ……」
『誰がお前なんぞ食うか阿呆』
「……コ?」
脳内に直接響くような声。
この世界で初めて会話が成立した驚きに、僕は状況も忘れて首を傾げた。
「は、話が通じるんですか!?」
『……お前は我を何だと思っておる』
「……コケ?」
呆れたような思念だが、知らない以上は首を傾げるしかない。
『あと五月蝿いから一々声に出すな』
(分かりました)
テレパシーとかそういうものなのだろう。
思念で答えると、黒龍は満足そうに頷いた。
『我は黒龍ベルザーク。そうだな……人間には「禍の運び手」とも呼ばれておる』
(は、はあ……)
これは結構マズい相手なんじゃないか?
そう思ったところで、相手がテレパシー持ちなのを思い出して凍り付く。
『まったく、趣味で少し変わったものを集めているだけだというのに……。その点、お前もだいぶ変わっているのだぞ?』
どこか悪魔っぽく笑うと、黒龍は続ける。
『火球を吐こうが犬を食おうがニワトリはニワトリ。この森にいてはお前もそう長くはない』
(……そ、そうですか)
『そうだ。だが、我がコレクションになるというなら話は別。強くなればある程度の自由も与えよう』
(乗ります!)
つい即答。
別に黒龍の眷属とか言う厨二な称号に飛びついたわけではない。
コレクションという言い方は不安だけど、黒龍の庇護下で力を蓄えられるというのはこの世界で生きるのにかなり良い話だと直感したからだ。
『話が早いのは嫌いではない。では始めようか』
(始めるって、何を――)
足元に突如現れた魔法陣が怪しく光る。
幾何学的な模様が魔法陣から剥がれたと思うと、僕の身体に巻きついて来る。
おまけにその模様がずぶずぶめり込んでくるとなると、落ち着いていられるはずもない。
(う、うわわわわ――)
身体が芯から組み替えられていくような感覚。
それでいて痛みが無いのがどうも不気味――とか思っていると、光が収まった。
『ニワトリのままだな。コカトリスにでもなるかと思ったが……』
その思念に、自分の身体を確認する。
純白だった羽が黒龍と同じ漆黒に染まったこと、羽が前より硬くなったことが分かる。
(ステータス確認しても良いですか?)
『好きにするが良い』
「コケっ!?」
僕を爪の先に引っかけると、黒龍――ベルザークは飛び立った。
名前:ラウネン<=小鳥遊啓太>
種族:ブラックファイアチキン
Lv:37
眷属になっただけでレベルが二倍になっていた。
黒龍様すげぇ。
ファイアチキンですが、焼き鳥にあらず。
眷属になったおかげで念話を習得しました。