32.ダリアマ平原-2
ようやく主人公に視点が戻って参りました。
洞窟を出た僕は、勇者を召喚したフォアリス聖国の首都ビツリエクに急行した。
普通のニワトリサイズになって全速力で飛んで行ったんだけど……これは進行方向に注意しとかないと、うっかりで色々と貫きかねないな。
人化して通行人に尋ねて、逃げられたのを鶏化して追いかけて盗み聞き。
そんな面倒な手で噂を集めた結果、勇者召喚自体が公になってないのが分かった。
勇者を自称する可哀想な人の話を早い段階で聞けたのはラッキーだったけど、この扱いを聞いたらベルがまた機嫌を損ねそうだ。
自称勇者の目撃情報を元に当たりをつけ、上空で巨鶏化。
聞いた通り、少なすぎる荷物で途方に暮れている二人組を見つけた。
……勇者?
慌てて更に周りを探してみるけど、それっぽいのは他にいない。
まだ勘違いの可能性はあるけど。
……召喚された勇者って、女の子かもしれない。
それなら無理にサーシャと代わることなかったー!
だってニワトリだし……人化しても世紀末だし……期待とか抱く以前に打ち砕かれてるんだよ……。
ま、まぁ色々と心配事がついて回るのは変わらないし、とりあえず接触しとくべきだよね!
ちょっと離れたところに着地した僕は、ただのニワトリサイズに化けて何食わぬ顔で勇者(多分)を待ち構えた。
「良い、首を狙うのよ!」
「お任せ下さい!」
「コケッ!?」
メイド少女の踵落としを飛び退って避ける。
地面がへこんで辺りに砂埃が立ち込めた。
この娘たち、想像以上に飢えてる!?
これは何の変哲も無いペット路線を諦めるしかなさそうだ。
『いじめないで! ぼくわるいニワトリじゃないよ!』
「え?」
「問答無用ッ!」
『いやそこは話聞いてよ!』
「エルザ、ストップ!」
「うー……勇者さまぁ」
「情けない顔しないの。あと勇者って呼ぶのはやめてね」
『勇者?』
ビンゴ!
嬉しくないけど嬉しい、かもしれない。まあ任務的に一歩前身したわけだし。
ていうか止めてくれた勇者も含めて、二人とも僕に肉を見る視線を向けないでくれない?
はぁ……仕方ないか。
『お腹空いてるなら、お弁当あるけど要る?』
「ください!」
「おいニワトリ」
ツッコミを入れながらも手は差し出している勇者。
二人には手羽の裏に入れてる四次元袋から取り出したおにぎりを渡す。
でもこの勇者の感性、なんか馴染みがあるような……?
「ありがとうございますっ」
「ありがとう……って、辛っ!?」
『山椒がちょっとキツめだからねー。はいお茶』
「この世界にも山椒とかお茶があるのねー」
『あ、お茶はともかく山椒は僕が勝手に呼んでるだけ。シュワンサとか言ったかな?』
「え?」
さりげなく探りを入れると、脈ありっぽい反応が返って来た。




