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チキンハート  作者: 27サグマル
31/133

31.ダリアマ平原-1――勇者――

「お腹が空きましたねぇ……」

「空いたねー……」


 私はダリアマとか言うだだっ広い平原を、メイド少女と空きっ腹を抱えて彷徨っていた。



 フォアリス聖国の儀式によってこの世界に呼び出されたのが先週のこと。

 召喚されるや「世界をお救いください!」と頼まれ、そこは事前に話もついていたことだし快諾。

 訓練の名目で戦力を値踏みされること二日。

 期待には応えられなかったようで、早々に城を追い出された。

 国は私を特に援助などしないが、代わりに行動に干渉することもないという条件。

 早い話が「えんがちょ!」ってこと。


 貰ったのは簡単な装備とお供のメイド。

 あと世界の常識を知りたいという建前で城にしがみついていたら「The・常識」みたいな分厚い本を渡された。

 便利だけどゲームのヘルプほど手軽に確認できないのがネック。


 ちなみにこのメイドがとんでもない。

 エルザ・アデンタ17歳。レベルは私のジャスト三倍で60。

 いわゆるドジっ娘属性で、国の貴重な品々をうっかり破壊し続けた結果こんなレベルになったのだとか。

 更にうっかり防止のために手足につけている重りは少年漫画の修行のようで、軽くなるたびに新しくしているため益々レベルが上がっていく。


 短い旅の中で、この娘に家事の類をやらせちゃいけないことはよく分かった。

 何事にも一生懸命で悪い子じゃないんだけど……。

 料理をすれば混沌の使者、掃除をすれば破壊神、反省する姿だけは大天使。そんな少女。


 街に出て話を聞いてみると、勇者召喚は無かったことにされているらしくて可哀想な人扱いをされるという悲劇に見舞われたのが昨日のこと。

 レベル上げと街の移動を兼ねていざ旅立ったんだけど、準備不足だったっぽい。

 空腹を紛らわすために読んでるヘルプのページが、ちょうど旅の心構えの部分だった。

 地味にタイムリーなこういう情報って……ヘコむよね。


「あれ、鶏……?」

「この世界の鶏って、何の脈絡も無く平原で遭遇するもんなの?」


 エルザの声に顔を上げる。

 ちょっと凛々しい感じの黒い鶏が、確かに目の前を歩いていた。

 エルザが重りを外すと、鈍い音を立てて砂埃が上がる。


「良い、首を狙うのよ!」

「お任せ下さい!」

「コケッ!?」


 返事が聞こえた時には、エルザはもう距離を詰めて死神の鎌のような踵落としを放ち終えている。


『いじめないで! ぼくわるいニワトリじゃないよ!』

「え?」


 脳裏に響いた声。

 ……喋った?

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