30.異世界転生-2――勇者――
お詫びの2話目です。
鶏肉の出荷はまた次回。
「……分かりました。引き受けさせて頂きます」
「ありがとうございます!」
そう答えると、子供の顔がパァっと輝いた。
まあ私は死んだ身らしいし、私がやらないと不幸になる人たちがいるって言うなら……。
かなり長いこと悩んだり質問したりした結果だけど、こうも時間が掛かる異世界転生もそんなに無いんじゃない?
聞いたことによると、この子供は原龍バルティニアス。
この姿で消滅間際の年齢らしいけど、年を取るほど身体は幼くなっていくっていう話もあるし、その類かな?
でも見た目は神々しくも儚げな性別不明のビューティフルチャイルドそのものだけど。
ただ、問題はそこまでチートが無いこと。というかほぼ無い。
私が本来持っている魔力を引き出してくれる以外は、言語翻訳程度のものだった。
『私の世界では、マイナーではありますが呪術があるのでフルネームは名乗らない方が良いでしょう』
「そうなの?」
『例えば王族は秘密のミドルネームを持って身を守るのですが……貴女には、私の世界で使う名を差し上げましょうか?』
「ありがとうございます」
『そうですね……ピュア・アルティメット・ブレイヴから取って「ピアブー」などどうでしょう?』
「あ、すいません結構です」
普通に自分の名前を使おう。
苗字だけ伏せておけば十分だろうし。
完璧な人はいないって言うけど、この神様っぽい龍でも例外じゃないのね……。
『では最後に、聖剣を託します』
「え、良いんですか?」
『はい。これを抜けば、まず戦いにおいて敗れることは無いでしょう』
ちょっと!?
急にチートらしいアイテムが出てきましたよ!?
こんな序盤でゲットできて良いの?
『名前は討王超鋭龍――』
もうやめて!
私の中の貴方をこれ以上傷つけないでっ!
『――略してワセリンです』
「……ああ、ワセリンですか……」
このヒトはネーミングセンス以外は紛れも無く良い神、凄い神様……。
だって龍だし、属性も別格っぽいし、オーラ凄いし!
決して……そう、決して残念じゃあない!
『ただ、この剣を無闇に使うことはお勧めしません』
「やっぱり回数制限とかあるんですか?」
『私の力をじかに引き出しているので、使い切ると……』
そりゃ駄目だ。
このヒトの残り僅かな余命をホイホイ使える訳がない。
ままならんのぅ……。
『それはまだ器に過ぎません。魔王を討つためには、他の龍たちの力も注ぐ必要があります』
「と、言いますと?」
『赤青黄緑黒白の六龍ですね。力の干渉の影響で彼らの方から出向くのは困難ですから、お手数ですが貴女から訪ねてやってください』
「分かりました」
『それでは……私の世界でも貴女に幸多からんことを』
その声を最後に私の意識はまた薄れ始める。
遠ざかっていく原龍さんの姿が、深々と頭を下げたように見えた気がした。




