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チキンハート  作者: 27サグマル
30/133

30.異世界転生-2――勇者――

お詫びの2話目です。

鶏肉の出荷はまた次回。

「……分かりました。引き受けさせて頂きます」

「ありがとうございます!」


 そう答えると、子供の顔がパァっと輝いた。

 まあ私は死んだ身らしいし、私がやらないと不幸になる人たちがいるって言うなら……。

 かなり長いこと悩んだり質問したりした結果だけど、こうも時間が掛かる異世界転生もそんなに無いんじゃない?


 聞いたことによると、この子供は原龍バルティニアス。

 この姿で消滅間際の年齢らしいけど、年を取るほど身体は幼くなっていくっていう話もあるし、その類かな?

 でも見た目は神々しくも儚げな性別不明のビューティフルチャイルドそのものだけど。


 ただ、問題はそこまでチートが無いこと。というかほぼ無い。

 私が本来持っている魔力を引き出してくれる以外は、言語翻訳程度のものだった。


『私の世界では、マイナーではありますが呪術があるのでフルネームは名乗らない方が良いでしょう』

「そうなの?」

『例えば王族は秘密のミドルネームを持って身を守るのですが……貴女には、私の世界で使う名を差し上げましょうか?』

「ありがとうございます」

『そうですね……ピュア・アルティメット・ブレイヴから取って「ピアブー」などどうでしょう?』

「あ、すいません結構です」


 普通に自分の名前を使おう。

 苗字だけ伏せておけば十分だろうし。

 完璧な人はいないって言うけど、この神様っぽい龍でも例外じゃないのね……。


『では最後に、聖剣を託します』

「え、良いんですか?」

『はい。これを抜けば、まず戦いにおいて敗れることは無いでしょう』


 ちょっと!?

 急にチートらしいアイテムが出てきましたよ!?

 こんな序盤でゲットできて良いの?


『名前は討王超(ワールド・セイヴァ)鋭龍――(ー・リンクセヴ――)


 もうやめて!

 私の中の貴方をこれ以上傷つけないでっ!


『――略してワセリンです』

「……ああ、ワセリンですか……」


 このヒトはネーミングセンス以外は紛れも無く良い神、凄い神様……。

 だって龍だし、属性も別格っぽいし、オーラ凄いし!

 決して……そう、決して残念じゃあない!


『ただ、この剣を無闇に使うことはお勧めしません』

「やっぱり回数制限とかあるんですか?」

『私の力をじかに引き出しているので、使い切ると……』


 そりゃ駄目だ。

 このヒトの残り僅かな余命をホイホイ使える訳がない。

 ままならんのぅ……。


『それはまだ器に過ぎません。魔王を討つためには、他の龍たちの力も注ぐ必要があります』

「と、言いますと?」

『赤青黄緑黒白の六龍ですね。力の干渉の影響で彼らの方から出向くのは困難ですから、お手数ですが貴女から訪ねてやってください』

「分かりました」

『それでは……私の世界でも貴女に幸多からんことを』


 その声を最後に私の意識はまた薄れ始める。

 遠ざかっていく原龍(バルティニアス)さんの姿が、深々と頭を下げたように見えた気がした。

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