2.ニワトリ小屋-2
新シリーズ開始につき三話更新です。
「「「コケー!」」」
うわっ!?
小屋のニワトリたちがエサ箱に殺到し、小屋の外に小太りの男が姿を見せた。
思い切り日本語(のように聞こえる)を話す男は金髪碧眼で腰に剣を下げた中年。
……この夢はどうも異世界設定らしいな。
「コ、コケー! コケコー!」
吹き飛ばされた僕はニワトリたちの後方から声を上げる。
声は間違いなく届いたが、しかし男に人間の声として認識されることはなかった。
まあ自分にもニワトリの声にしか聞こえないから当然と言えば当然か。
「あー、んじゃ一羽だけ来っべー」
「「「コケー!」」」
小屋の小扉が開くと、ニワトリたちは我先に外に出ようとする。
……ん? 出れたのは一羽だけで、他の奴らは結界的な何かに阻まれてるな。
「「「コケー!」」」
「コケコッ!」
さっきからそればっかりじゃねーか!
って、あれ?
なんかビクリと震えると、途端に静かになって残ったニワトリたちが戻ってきた。
けどおかげで外の音が耳に入ってくる。
「コッコッコケココッ――」
そして何かが倒れる鈍い音。
急いで小屋の壁まで駆け寄って様子を見るも、どうやら屠殺は物陰で行われたらしい。男もニワトリも見えなかった。
「ほんじゃエサだべー」
何事も無かったかのように戻って来た男が、今度は外からエサ箱に小麦っぽいものを補充していく。
男はやがて、全力で後退って震える僕に気付くことも無く去って行った。
「ココケー?」
……これはヤバい。
そう思って身を硬くしている僕に、一羽のニワトリが遠慮がちな様子で話しかけてきた。
「コケッコ」
返事をしてから、腹が膨れるまで何の疑問もなく小麦っぽいもの――もう小麦で良いや――をつつく。
あれ? と首を傾げたのは、満足してエサ箱を離れた後だった。
まああそこで食べるのに躊躇しても腹が減るくらいで何も良いことは無かったと思うけど。
もしかすると、精神まで一部ニワトリ化しているのかもしれない。
「コケー……」
その日の夜、僕は小屋の端でニワトリにあるまじき体操座りをして溜息を吐いていた。
この身体の関節はかなり自由らしく羽なんか三百六十度回るけれど、今それは問題じゃない。
他のニワトリと話してみた結果、奴らが一切当てにならないことが分かった。
「外に出たいと思わない?」「外ってなにー?」「ここにいると殺されるんだよ?」「殺され……なぁにー?」
こんな会話を六羽全部と繰り返した訳だけど、時間の無駄だった気がしないでもない。