表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チキンハート  作者: 27サグマル
19/133

19.リティオ-9

 ギルドを出ると、珍しく強い雨が降っていた。

 四次元袋を探してみるけど、生憎と傘になりそうなものは入ってない。

 周りに人目が無いのを確認して、物は試しとこっそり黒炎(熱くない)で傘を作ってみた。

 ……普通に雨が貫通してきたから、柄以外は熱くしておく。


「ん?」


 本屋へ向かう途中、猫っぽいのを見つけた。

 真っ白な毛並みに尻尾が二本あるそいつは、雨など関係ないとばかりに悠然と――あ、くしゃみした。尻尾も少し垂れ気味になる。

 空元気だったみたいだ。

 放っておくわけにもいかないし抱き上げてみると、ほとんど抵抗がない。

 思いの外ぐったりしてる?

 これは、早く乾かさないとマズいかも。

 手元に炎(暖房レベル)を生み出して――。


「な、何をしている!」

「へっ?」


 曲がり角を曲がって来た、朱色の鎧に身を包んだ女の人に見られた。

 ……うん、朱鷹騎士団の人でした。

 剣を抜くのが早すぎるんじゃない?


 思い切り剣を振り被る騎士さんの前で、猫の身体を炎に包む。


「貴ッ様ぁ!」

「いや、ちょっと待って!」


 思い切り剣を振り下ろされた。

 その鋭い剣筋、絶対に避けなかったらバッサリだったと思う。


「誤解だから! これ見てくださいよ!」

「……ぬ?」


 騎士さんは更に連続して斬りつけてくる。

 まだ炎に包まれてる猫を盾代わりにすると、危ういところで剣は止まった。


「濡れてたから乾かしてるだけです。こんな可愛いのを焼くつもりなんて毛頭ありませんよ」

「そ、そうか」

「そうです」

「…………」

「…………」

「………………ああ済まなかった、完全にこちらの誤解だ!」


 正面からジッと見ていると、根負けした相手が頭を下げた。


「私は朱鷹騎士団が副団長、エリー・シェムだ。冒険者たちが戻って来るまで、リティオの治安維持を任されている」

「冒険者のケイです。じゃあ僕はこれで……」

「待った」


 なんか呼び止められた。

 意外に立場のある人だったけど、面倒なことになりませんように!

 内心必死に祈りつつ足を止める。


「君は何故そんな自己顕示欲の強い賊のような恰好をしているんだ? 特に髪など何かと手間だろうに」

「ぞ、賊?」


 やっぱり普通の人にはそんな風に見えてるのか……。

 それより、こんな髪の人間が他にもいるらしいって事実をどう受け止めて良いのか分からない。


「済まないが私はそれ以外に適切な表現を知らない。だが、そんな恰好だと行動の一つ一つが警戒を招くぞ」

「呪いです」


 そこはきっぱりと言い切った。


 最初に人里に下りた時から、この外見の言い訳はずっと考えてたんだ。

 それに嘘って訳でもない。

 確かに髪の毛なのに水も整髪料も拒むこの髪も、無理に脱ぐと強制的にニワトリに戻されるこの黒い皮ジャンも、ある意味じゃ呪いそのものだ。


「冒険者してる目的の大半はこの呪いを解くことだと言っても過言じゃないです」


 あ、言い過ぎた。

 ……まあ勢いでうっかりなんてミス、よくある事だよね!


「そうか。事情も知らずに勝手なことを言って申し訳ない」

「いえ、普通の反応だと思います」

「私も何か詫びがてら力になれれば良いのだが……」

「気にするほどのことじゃありませんよ」

「むぅ……」


 エリーさんは困ったように俯く。

 いきなり斬り掛かってきたけど、悪い人じゃないみたいだ。


「なら、今度何か困ったことがあったら頼らせてください。それで良いですか?」

「ああ。騎士としてそれくらいは当然だ」

「それでは僕はこれで失礼します」

「うむ」


 拙いコミュニケーション能力でどうにかフォローを入れ、エリーさんと別れる。

 事の発端になった猫は、手の中でいつの間にやら眠っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ