18.リティオ-8
「なん……だと……?」
この世界に来て、驚いたことが一つある。
いや実際は一つなんてもんじゃなかったけど、今重要なのはそこじゃない。
凄く営業妨害な自覚はあるけど、僕はリティオにある本屋の一つにいた。
目的はまあ色々あるんだけど、その中で一番大きいのは料理本の入手だ。
だったんだけど……どれだけ店を回っても、どうしても見つからない。
そういえば地図とR18な本も見つからなかった。
困ったな、人に訊くってのも微妙だし。
「すいません、あなたは料理どうやって覚えました?」と、見ず知らずの世紀末男に尋ねらたら……前世の僕なら腰を抜かす。
……今気づいたけど、この恰好でこの話し方って不気味かもしれない。
でも、ギルドじゃこの話し方で馴染んだ訳だしなー。
嫌な感じに取り返しのつかないタイミングだった。
とりあえず手近な本を片っ端から流し読みしてみる。
二時間ちょっとの時間を掛けた結果、幾つか分かったことがあった。
例えば、この世界にはマンガもラノベもあること。
史実とフィクションの区別がほぼつかないこと。
ベルっぽい竜とか人も登場してたけど、それはさておき。
肝心の料理に関しては、親や友人から習うのが一般的だって情報が得られた。
ついでに料理のコツやアレンジも少し見つかったのでメモしておく。
本屋を出た僕は商店で見覚えのある食材を買い込み、部屋に調理場のある少し高めの宿を取った。
さっそく食材を出して料理に移る。
野菜を適当な大きさに切ったサラダに、やはり適当に切った刺身を盛って醤油っぽいタレで味付け。
塩胡椒で下味をつけた牛肉を炒め、途中で野菜を追加して最後にまた塩胡椒で味付け。
米の用意を忘れていたせいでおかずだけになったけど、作り立てを食べてみた。
……普通、かな?
不味くはないと思う。
でも洞窟で食べたいつもの料理に比べると、どこか物足りない。
調味料や香草を使いこなして味付けのレパートリーを増やせば追いつけると思うんだけど……。
そこである方法に思い至った僕は、台所を片づけると宿を出た。
向かった先は馴染みの冒険者ギルド。
普段はまず掲示板に目を通すんだけど、今日は直接受付に向かう。
「あら、今日も魔物の討伐ですか?」
「いえ、ちょっと依頼をしようかと思いまして」
「分かりました。どのようなものでしょう?」
さっと書類を取り出したセルジュさんに、料理の際の独自のコツや工夫を聞きたい旨を伝える。
たまには依頼する側になっても良いよね! ってことで。
「ケイさんは料理に興味がおありなんですか?」
「はい。とはいえその辺を歩いてる人にいきなり訊く訳にもいきませんから」
「お店で尋ねるという手もありますが……そうなると門下に入るような形になりますからね」
そう、それがわざわざこうして依頼を出すことにした理由でもあった。
ナナ絡みで秘宝も探したいし、一つ所に束縛されるのは避けたい。
……ベルでも結構な手間をかけて集めてくる秘宝を、僕がどれだけ集められるかは疑問だけど。
「冒険者として色々な所を回りたいと思ってますから、そういうのは厳しいかなって……」
「まあ料理は経験ですから、繰り返していればそれなりのものは出来るようになりますけどね。ああ、これならランクを少し上げて内容を盛った方が良いと思いますよ」
「その辺りはお任せできますか?」
「はい。えっと……ランクEEで依頼を三つ程出しておきますね。仲介料込みで五千R頂きます」
依頼する時はこんな感じなのかー。
ちょっとした感慨に浸りつつ、財布から五千R札を手渡す。
「ただ、今は妖魔の大発生の影響で冒険者の方々はほとんど他所に流れてしまったので……」
……あ。
そのことをすっかり忘れてた。
妖魔討伐の依頼を請けた冒険者たちも、騎士団の報を受けて散ったらしいし……。
僕の初依頼は、ギルドでしばらく腐ることになりそうだ。




