14.リティオ-5
「『黒き摘み手』」
風を纏った短槍に黒炎を付与して投擲、先手を取る。
直撃は防がれたけど、僅かに防御を突破して片腕を吹っ飛ばすことに成功。
固有効果によって、投げた短槍は長槍の側――僕の手元に戻ってくる。
必殺技だけあって成果は悪くない。
巻き気味に投擲を繰り返し、近づかれるまでに妖魔たちの戦力をだいぶ削れた。
相手に防御タイプや遠距離攻撃タイプがいなかったのが幸いした形だ。
やがて妖魔たちが僕の正面まで迫る。
「「「フシュゥウウ……!」」」
うん、凄く怒ってる。
相手は一斉に飛びかかってきたけど、負った傷のせいで足並みは揃ってない。
真っ先に飛びかかってきた犬頭の手斧持ちは、脚こそ無事だけど片腕を失くしている。
大きく薙いだ長槍で力任せに手斧を払い、短槍で首を穿つ。
引っかかったガーゴイルの骸を投げて後続を牽制しつつ、唯一翼が無事だった牛頭の槍持ちに意識を向ける。
突き出しされた槍を避け、懐に潜り込んで頭突きをかます。
鶏冠髪が突き刺さり、厚い胸板を貫いた。
まだ辛うじて息のある巨体に火球をぶつけて吹き飛ばし、迫っていた貧相な体格の鶏頭ガーゴイルを交差させた双槍でX字に斬り裂く。
なんとも微妙な気持ちがしたけど、今はそれどころじゃない。
片足を失った山羊頭の大剣持ちと腹に大穴を開けた瀕死の馬頭の金棒持ち、両翼を貫かれた鰐頭の斧槍持ちという重量級トリオが間合いに入り込んでいたからだ。
地面に突き立てた長槍で斧槍を防ぎ、空いた片手で大剣の腹を弾いて逸らし、短槍で金棒を受け止める。
あ、ヤバい――。
「痛ぅッ!」
最後の防御にはやはり無理があったようで、防御は破られ金棒が脇腹を直撃。
なんだかんだでニワトリになって以来初の激痛が弾け、どうにか長槍を引き抜きつつ吹き飛ばされる。
更に悪いことに、吹き飛ばされた先には片翼となったゴリラ頭の素手ガーゴイルが控えていて――。
「……ッ!」
声も出ない中、苦し紛れに長槍を振り抜く。
拳こそ避けたが衝撃は殺せず、また大きく吹き飛ばされた。
幸いその先には誰もおらず、僕は樹に激突して転がる。
「サーシャ!」
急いで起き上がろうとするけれど、傷の痛みが動きを阻害する。
顔を上げた先では、僕の戦いは何だったんだと言わんばかりに敵を片づけたサーシャの姿が――あれば良かったんだけど。
実際は二刀流と九本の尾で攻撃を防ぎつつ、今にも均衡を破られそうな危うい一線を守り続けていた。
手数で牽制するゴリラ頭を主軸に重量トリオの援護が入る形だけど、厄介なのはその後ろに控える蛇頭の鞭使いだ。
武器の特徴上捌きにくく、防御をじわじわと削られている。
鞭を使う妖魔はその両脚を僕の投槍に奪われていた。
それでも傷を一切感じさせない猛攻を仕掛けている。
……じゃあ、僕がこの程度の傷で退場する訳にはいかないだろう。
傷ついた脇腹を握りしめる。
激痛が脳天まで貫いたけど歯を食い縛って耐えた。
よし、動ける。
双槍を構え、駆け出す。
標的は鞭使い。
こちらの動きに気付いた相手はターゲットを僕に変えてくるが、サーシャの時と違い鞭だけに集中できる分防御は可能だ。
「でりゃぁあ!」
「シャァアア!」
最後の手段とばかりに槍を食い止めようとした顎諸共に長槍で叩き斬る。
振り返るとサーシャの方でも決着がつこうとしているような――いや、様子がおかしい。
動きを止め無防備になった妖魔たちに炎を放つと、警戒したサーシャは飛び退り距離を取った。僕もその隣に並ぶ。
黒炎が燃え盛る中、重量トリオの身体が小刻みに震えだした。
第一ラウンド終了。
レベルの割に妖魔があっさり片付いてるのは、武器の性能と当たり所の問題ですね。
なお、影系能力は現状サーシャの投網の影響で実戦に耐えないレベルまで弱体化してます。




