11.リティオ-2
森に入った僕は辺りの影に感覚を巡らせ、魔物の多い方へ足を向ける。
使うのは練習も兼ねて双槍。
視界に入った瞬間レッドゴブリンの胴体を吹き飛ばしつつ討伐証明部位の角を切り離す。
後は名前通り弾丸のように突っ込んでくる弾栗鼠の頭を叩き割って尻尾を取ったり、鉄蛇の頭部を切り取ったり。
ラージスライムが意外に見つからず少し心配だったが、池を探すと水辺にたくさんいた。
ゼリー状の身体の中の核を薙ぎの要領でうまいこと押し出して回収。
見敵必殺で行くと、二時間足らずでノルマの三倍ちょっと達成できた。
洞窟から持ってきた四次元袋(勝手に命名)が凄く便利。
もう少し便利な探索能力が欲しいなーと思いながら歩いている僕の前に――ソレは現れた。
割とボロボロになった一角獣の死骸。
僕が通り過ぎようとすると、影からサーシャが現れた。
「……これは……! ギルドに報告した方が良い、マズい事態が近づいてる……!」
証拠として角の先を少し切り取り、急ぎ気味にリティオへ向かう。
その途中サーシャに聞いたことによると、森の守護者であるユニコーンはレベル70程度の聖獣であるという。
治癒の力を持つユニコーンは病を患うことはなく、また他者と敵対しない聖獣を害するものなど滅多にいない。
多くの場合、それは妖魔の大発生の前触れである。
「妖魔って、人間も魔物も見境なく殺していく連中のこと……だよね。大発生って?」
「……奴らの出所はベルも知らない。探知の範囲内からは絶対現れないんだって」
続いてサーシャが告げた情報に、僕も背筋が冷えるのを感じた。
「……普通は多くても三体くらいで行動する妖魔が、十体近く現れる」
「妖魔って……弱くてもレベル50近くあるんだよね? それが十体近くって、マズいんじゃ?」
「……凄くマズい」
かつて修行時代にベルが言っていた。
「レベル60もあれば人間に後れを取るようなことはまず無いだろう。70というのは安全マージンだな」と。
多分その言葉は人間でも強い部類を複数相手取ることを想定したものだ。
つまりレベル50って言うのは一流の冒険者でどうにか一対一で立ち向かえるくらい。
先のギルドの様子を思い出すと、期待は厳しい。
僕とサーシャでも守り切れるかどうか……。
「とりあえず、依頼達成です」
冒険者ギルドに入った僕は専用カウンターに角やら蛇頭やらをぶちまける。
……ちょっとした山になった。
「……セルジュ、それよりも報告することがある」
「えっ、サーシャさん!?」
一応ギルドに入った時から側にいたんだけど。
認識阻害的な能力なのかな?
周りからも「……『影姫』だ……」「久しぶりに見た」「相変わらず可憐で――」「おいバカ沈められるぞ!」「だが一向に構わんッ!」との声が聞こえてくる。
というか最後、何があったし。
でも、そんな空気も長くは続かなかった。
「……ユニコーンが死んでいた」
「え……?」
一瞬で場が静まり返る。
サーシャが示した角をセルジュさん――登録の時の受付嬢――を始めとして多くの職員が確認し、重々しく頷く。
「……間違いありません。本物です」
そしてギルドの空気は二つに分かれた。
職員の人たちは連絡や何やらで火のついたような騒ぎになる。
一方、冒険者たちは沈黙を保ったまま席を立ち、ギルドから出ていった。
あれはもしかして脱出だろうか。
戦力的には微妙とはいえ、何とも言えない気持ちになる。
なんだかそんな連中と同じことをする気にもならず、僕は空いた机に陣取った。




