1.ニワトリ小屋-1
……時間が来た。
僕は歩みを止めると、身体の動くままに大きく息を吸い込んだ。
「コケコッコーーーー――……コ、コケッ!?」
そこで違和感に気付いて自分の身体を見る。
低い視線。
ふさふさの白い羽。
逞しい脚と鋭い鉤爪。
「……ココッケ!?」
思わず呟いた声は人間の言葉ではなかった。
――そう、僕はニワトリ(多分)だったのだ!
……ハハ、そんなバカな。
僕は小鳥遊啓太、現代日本でごく普通のキャンパスライフを送っていたはずだ。
小学生くらいから昨日までの記憶だって、完璧……に――?
確か学期始め早々に寝坊して危うく遅刻するところだったのは覚えている。
でも、僕はその後どれくらい大学生としての日々を過ごしたのか……一カ月以上にも、三日未満にも思えてはっきりしない。
うーーーん…………。
とりあえず、これは夢だと仮定しよう。じゃないと心が持たない。
VRMMOに初めてログインしたときのように、まずは自分のいるところを見回す。
……どう見てもニワトリ小屋だった。
エサ箱と水の入ったタライ、そして他のニワトリが七羽。
どれもほぼ同じ見た目だし、今の僕もそんな姿をしているんだろう。
顔の瘤とか嘴の下にあるヒダみたいなアレが無いぶん僕の知るニワトリより格好良く見える、かもしれない。
「……さぁて、今日はどのニワトリにすっべ~」
凄く田舎者くさい声が聞こえてきたのは、その時だった。