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                  序

「おい、本当に大丈夫なんだろうな。」

 町から何刻も馬を飛ばして、ようやく辿りついた砂漠地帯の中央部にある遺跡の入口で、男は念を押すように一緒に居る若者に振り向いて確認をした。


「大丈夫だって、下に着込んできた甲冑は、市場の古着屋で手に入れたものだけど、間違いなくステビロ家の兵士の為の甲冑だ。

 ステビロ家と言えば、この地の4大豪族の内の一つで、彼らもこの遺跡の発掘調査に出向いてきている。

 つまり、この甲冑さえ着ていれば遺跡の中では自由に振る舞えるという訳だ。なにせ、遺跡の中は中立地帯で、豪族間の争いは禁止と言う条約が結ばれているという話だからね。」

 4人の中で一番若く見える男が、自信を持って答えた。


 彼らはフード付きの分厚い麻で織られた外套に、同じく麻の作業ズボンを履いている。

 パッと見は日雇いの労働者と感じられる貧しい身なりだ。

 しかし、胴回りなどは異様に太い体格となっており、余程の肥満体形でもなければ確かに彼が言うとおり、衣服の下に甲冑を着込んでいるという事が想像できる。


 彼らは遺跡の入口の影から注意深く中の様子を伺うと、発掘作業の労働者が休憩のために小屋へと向かう時に合わせて、一緒に中へと入って行った。

 小屋に辿りついてからも、周りの労働者たちと変わりなくカメから水などを飲んだりして過ごし、そうして休憩時間が終わると、今度は労働者たちにまぎれて、遺跡の中へと入って行った。


 遺跡は何もない一面の砂漠地帯に突如出現した石造りの大きな建物のようであった。

 大部分は砂の中に埋まっていたのだが、発掘作業を重ね、既に半分以上掘り出されている。

 旧文明の遺跡であるのだが、この時代よりもはるかに科学文明が進んだ時代があったようで、この遺跡が発見されたことにより、それまでの豪族間の争いを含め、生活自体が大きく変わるという噂で持ちきりであった。


 4人組の男たちは正確に切り出された石組が、整然と積み上げられて構築された遺跡の中の広い通路を、発掘作業の労働者の後を追うようについて行った。

 天井はかなり高く、普通の家の何階分にも相当するような高さがあるように感じられた。4人は途中、見張りの兵士の隙をついて列から抜け出し、脇の通路に身を潜ませた。


「彼らが向かう先は発掘現場だろうから、目当てのバトルスールがあるのは、この先に見える右側の扉の先だろう。」

 4人の中で一番年長と見える男が囁いた。

 通路の先は広間のようなところへと通じていて、労働者たちは皆広間の向こう側の壁に見える通路の内、左側の扉へと向かっている。その先が発掘現場という事だろうか。


「うん、たぶん間違いないだろう。ぐずぐずしては居られない。早速、あそこへ向かおう。」

 先ほどから色々と指示を出している、一番若い男が身を乗り出して答えた。


「いや、まて。まだ発掘作業の労働者が大勢いるし、見張りの兵士もいる。この場に潜んで夜が更けるのを待とう。」

 別の口ひげを蓄えた男が、若い男を制する。


「何を言う。こんなところに潜んでいて、見回りの兵士にでも見つかったらなんとする?バトルスーツへ辿りつくことも出来ずに、捕まってしまうぞ。

 ここはすぐに向かって、見張りの兵士に見つかった時は、切り合い覚悟で進むだけさ。」

 若い男は背中の長い棒状のふくらみを叩いて見せた。恐らくは長刀を背中に忍ばせてあるのだろう。


「駄目だ、ドルフ。

 いくらお前の腕が立つと言ったって、何十人もの兵士相手に切り合いなど演じられるものではない。

 それに、一人倒すと向こうも死に物狂いで向かってくるから、こちらも手傷を負うことを覚悟しなければならなくなる。


 例え剣を抜くことになっても、脅すだけで相手を傷つけるようなことは避けるのだ。

 大体、見たこともないバトルスーツとやらに、俺たちの命を懸けるだけの値打ちがあるのかどうかも分からんのだぞ。」


 最年長の男が、血気にはやる若い男を諭すような口調でたしなめた。

 ドルフと呼ばれた若者は、不満そうに口をすぼませたが、仕方なく従うように通路奥の小部屋のような狭い空間に身を潜ませるようにして屈んだ。


 やがて時間が経過し、発掘作業を終えた労働者たちが次々と通路を通って、休憩小屋へと帰って行く音が聞こえてきた。4人は息を殺して、その人いきれや雑踏の音が通り過ぎるのを待っていた。

 やがて辺りが静まり返り、人の気配も立ち消えた。


「どうやら大丈夫のようだな。」

 ドルフが立ち上がって、元来た通路へ向かおうと歩き出す。


「待て、今出て行ったばかりだろう。まだ数人は残っているかもしれん。もう少し待とう。

 夜半になってから行動を起こせば十分だろうからな。焦りは禁物だ。」

 最年長の男は、尚も慎重に時を待つことを提案した。


「兄さん、そんなに心配しなくたって大丈夫だって。人が残っているか、ちょっと見てきてやるよ。」

「駄目だ、待て。もう少しここに居ろ。」

 制止を振り切り、ドルフは労働者たちが通り過ぎて行った通路へと向かい、脇から顔を出して辺りの様子を伺っていた。


「おい、何だお前は。発掘作業の労働者か?この分岐の通路の先は行き止まりで、トイレなどはないぞ。」

 丁度、広い通路の外へと続く方向を見ていたところ、発掘現場から出て来たと見える見回りの兵士2人組に、後ろ姿を見つかってしまった。

 ドルフは焦って振り返り、すぐに笑顔を返した。


「す、すいません。我慢の限界に近かったもので。」

 急いで振り返ったものだから、ドルフの服のフードが下がり、赤字に白色のストライプが入っている、甲冑のヘルメットがむき出しになってしまった。


「うん?それはステビロ家の兵士の甲冑ではないか。どうしてお前が着ているのだ?

 大体、ステビロ家は割り当て分のバトルスーツ発掘を既に終了して、3週間も前に領地へ戻ったはずだぞ。

 お前は一体何者だ?」

 一人の兵士は、剣の柄に手を置いて身構えた。


「いやあ、実は忘れ物をしてしまって・・・。

 個人的なものなのですが、恥ずかしいので戻って来たのが分らないように、労働者に混じって取りに来たという訳ですよ。」


 ドルフは、尚も笑顔でゆっくりと兵士たちの方へ近づいたかと思うと、おもむろに目の前の兵士の腰の剣を横取って抜き、振りかぶったかと思うと兵士目がけて振り下ろした。

 更にもう一人の兵士が剣を抜くよりも早く、返す刀でそちらも切り捨ててしまった。


「ピィー!!」

 しかし、瀕死の手傷を負った兵士が身に着けていた呼び笛を拭いて、賊の侵入を知らせる。

 ドルフは兵士にとどめを刺したがすでに遅く、外側の通路から何人もの兵士たちがなだれ込んでくる光景が、遠目に確認できる。3人の若者は何事かと脇の通路奥から飛び出してきて、惨劇の後の光景を目の当たりにした。


「こ・・・殺したのか?」

 ドルフの兄である最年長の男が、ドルフが握りしめている剣を奪い取り、倒れた兵士の脇に投げ捨てながら尋ねた。


「ああ、仕方がなかったんだ。」

 ドルフは、ふてくされた様に答えた。


「なんて馬鹿なことを。これで、俺たちは捕まったら死刑だぞ。」

 兄は弟のしでかしたことに、腹を立てるというより嘆き悲しんでいる様子である。


「じゃあ、どうすれば良かったというんだ。

 すみませんでしたと言って、素直に遺跡に侵入したことを認めて捕まればよかったとでも言いたいのか?」

 ドルフは怒りをあらわにして、兄の胸ぐらをつかんで叫ぶ。


「言い争っている暇はない、兵士たちがやってくる、ぐずぐずしては居られない。早くバトルスーツの元へ!」

 他の2人の男にとりなされて、4人は急いで通路奥の広間へ出て、奥の右側扉を目指して駆けだした。


 しかし、その目当ての扉が開き、そこからも兵士たちが飛び出してくる。

 恐らくバトルスーツを警備している兵士たちであろう。仕方がないので、急遽方向転換して発掘現場と推定される、広間奥左側の部屋へと入り、急いで扉を閉めた。


 部屋の中は見渡す限りの広い空間で、発掘した品物の一時置きをしているのか、壁際の棚などには発掘された食器類や、小さな道具類などが展示されている。

 その他にも雑多なオブジェなどが所狭しと並べられていた。


 扉の所では、3人の若者が外の兵士たちに開けられないように、必死に扉を押さえつけているが外側からの圧力は相当な様子で、こじ開けられるのも時間の問題と感じられた。

 そうした最中、最年長の男は何かに憑りつかれたかの様に、ゆっくりと部屋の奥へと進んで行く。部屋の奥の壁には更に奥へと続く扉があり、多分そこが発掘現場へと続いているのであろう。


「駄目だ、もう持たない。こうなったらおとなしく降伏しよう。」

 扉を必死で抑えている男が苦しそうに叫んだ。


「無理だ、ドルフの奴が2人も殺しているんだ。捕まったら殺される。」

「そうだ、道は戦って切り開くしかない。」


「馬鹿を言うな、ざっと見ただけで30人以上は兵士がいたぞ。敵う訳がない。めった切りに遭うだけだ。」

 3人は口々に叫んでいたが、現状を打破する考えには至らなかった。

 その時に部屋の奥の方から声が聞こえてきた。


「おーい。大丈夫だ。この勝負はもらったも同然だ。ドアは守らなくてもいいから、急いでこっちへ来い。」

 既にバトルスーツが導入されたのか、厚い木製の扉には無数のひび割れが生じて、崩壊寸前の状態であった。


 抵抗する術もない3人は、何の確証もないまま声のする方へと駆けて行った。するとその先には大きなオブジェが立っていて、最年長の男がそのオブジェの脇にいた。

 翼を備えたドラゴンを想像させるそのオブジェの目は、命ある者のように白く輝いていた。



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