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転生

作者: エンゲブラ
掲載日:2026/07/05

「―― なあ、神よ。今度こそ、

俺が幸せになれる世界に転生させてくれよ。

何ならチートもつけてくれていい」


男は、神と呼んだ相手を睨みつけながら言った。

今にも掴みかかりそうな気配であったが、

ぐっと堪えているようであった。


それでも神と呼ばれた存在は、

物憂げに黙り込み、すぐには何も答えなかった。


痺れを切らし、

男が再び神に詰め寄ろうとした瞬間、

ようやく神が口を開いた。


「お前はここが、

どういった場所か、分かっているのか?」

声ともいえぬ声で、男に問うた。


男は、心に直接響くその声にしばらく黙り込み、

そして口を開いた。「ああ……ここは貴方に

次の転生の手配をしてもらう場所だろう?」


「……では、お前はなぜそれを知っている?」


「……?」

神から問い返され、男はまたしばらく黙り込んだ。


(今回の人生は、何をやっても上手くいかなかった。

だから、次の人生こそは幸福な…… ――

そもそも、俺はなぜ、目の前の存在が神であると

いうことを知っているんだ? 直感?

いや、俺は彼のことを確実に「知っている」。

それは……!)


「……ようやく思い出したか。アルフォンソよ」


男が、震えはじめた。

死は、今回が初めてではない

ということに気付いたためであった。


男には、今回の死の前にも前世があった。

中世ヨーロッパで、不遇な生活を強いられ、死んだ

小作人のアルフォンソとしての過去生があったことを

ここにきて、ようやく思い出した。


アルフォンソは、最初の神との邂逅で、こう願った。

――

自分は、それなりに能力のある人間だったが、

小作人という奴隷のような待遇により、

ろくな人生を過ごせずに死んだ。だから、

次の人生では、せめてそれなりの家庭に生まれ、

皆と平等な立場からやり直させてほしい。

―― と。


神は、その願いを受け入れ、一度だけチャンスを

与えることにした。彼の言うとおりの境遇で。


すべてを思い出した男は、泣き崩れ、膝をついた。

アルフォンソとして生きた過去生よりも、

はるかに恵まれた環境から始まった今回の人生を

自ら毎日、踏みにじるように生き、結果、

再び、ろくでもない終わりを迎えてしまったことに

心底絶望した。


「……それで、次の生では何を望むと?」


神は、問いと同時に目を閉じた。

アルフォンソであった男の答えが

初めから分かっていたからであった。


アルフォンソだった男は答えた。

「いいえ……もう結構です」


短い言葉に、

様々な悔恨の念が透けて見えたが、

神は左手をかざし、

アルフォンソだった者の魂を分解し、

息吹によって、霧散させた。


そして、次の死者の訪れを静かに待った。

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