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私の可愛い中村さん  作者: おとうふ
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1、中村さんってなんか可愛いかも?

「綾瀬さん、今日も可愛いね。」

「綾瀬ちゃん!今日一緒に飲みに行かない?もちろん2人きりで…。」

「可愛い…俺の天使…。」


今日も職場の男性社員からのアプローチがすごい…。

可愛いと言われるのは…正直言って嬉しい。

しかし、内心悲しくもある。


「あの…あ、綾瀬さんっ!きょ、今日ですがっ!僕と一緒にお昼ご飯行きませんかっ!」

顔を赤らめ、モジモジとしながら意を決した様にそう言う彼は、普段と違いとても愛らしいと思った。

「あっ、中村さん、私今日お弁当持ってきちゃって…。」

「あ…そうなんですか…。じゃあ、また今度一緒に…。」


あからさまにショボンなってて可愛いなおい。


「あ、中村さんっ。明日じゃ…ダメ…ですか?」

左手で彼のスーツの袖をクイっと引き寄せ、右手はぶりっ子ポーズで上目遣いで見つめる。


「だっ!大丈夫でしゅっ!あっごめっ噛んじゃった…はず…。」


うん、可愛い。推せる。

顔真っ赤っかにして小刻みに震えてるのとかウサギかよ。


「ふふっ…。明日…楽しみにしてますね♪」

「は、はいっ!」


♢♢♢

帰り支度を済ませ、隣のデスクで作業する彼に向かい挨拶をする。

「中村さん、お疲れ様です♪お先に失礼します。」

「あっ、綾瀬さんお疲れ様です。気を付けて帰ってくださいね?」

「ありがとうございますっ。じゃあ、また明日。」

小さく手を振り背を向け歩き出そうとした瞬間、右手を急に掴まれた。

突然のことに驚き後ろを振り向くと、赤面した彼が上目遣いでこちらを見つめ、その瞳は少しだけ潤んでいた。

「あ、あのっ…僕も、明日楽しみ…です。」

手のひらは少し汗ばみ少しだけ震えていて、縋るようにきゅっと力が込められる。


……やばいな…。かわいすぎかよ。

可愛いの化身かよ…。

え…?ちょっと待って??

何?ウチのこと好きすぎかよ。

毎日チラチラ隣から視線感じるなーとは思ってたけどそういうこと??

え?もしかしてお持ち帰りできr

「ふふっ、明日たくさんお話ししましょうね♪」

頭の中の思考を打ち消しいつも通りに微笑む。


そっと手が離れていくのに少しだけ寂しさが残る。

あーもうっなんでかな…

離れた手を強引に引き戻したくなる。

昔からの悪い癖だ。

これがバレたらまた同じことの繰り返しだ…。


「綾瀬さん…それじゃまた明日…。」

気恥ずかしそうに顔を赤らめ、目元をクシャッとさせて笑顔になる彼に思わず目が離せなくなる。

「そんな顔で笑うんだ…。」

ぼそっと思わず本音が出たことに焦る。

「?」

「なんでも無いよ!じゃまたね!中村さん!」

誤魔化すように急いで会社を後にする。


♢♢♢


「あー疲れたー。」


お風呂から出た後、冷蔵庫を開け缶ビールを手に取りすぐさま喉にブチ込む。

「あー、この一杯のために生きてるわー。」


帰り道コンビニで購入したおつまみを机に出し、気になっていたホラー映画を見ながら晩酌する。

誰にも邪魔されない至福のひととき。


会社では、本性がバレないように気を付けているため、過剰にぶりっ子しているせいで疲労感がすごい。


疲れるならそんなことやめたらいいのでは?と思うのだが、それが出来たらどれほど楽だろうか。

これは、自分のためでもあるのだ。


私がまだ子供の頃、それはそれは元気な野生児だった。

実家がかなり田舎で、山と畑ばかりしか無い所では、遊び場はいつも山で、近所の友達と一緒に走り回ったり虫を捕まえたり木に登ったり、すごく楽しかったのを今でも鮮明に覚えている。


私の住んでいた地域が少子化のため通っていた学校が廃校になるのを境に、中学からは、隣の学区にある学校へと通うことになった。


登校初日は、それはもう浮かれてワクワクが止まらずはしゃぎ倒した。

友達100人作るつもりで男女関係なく挨拶して一緒に遊んだらみんな友達みたいなのを期待していたのだが、ここでは違った。


私が男子に話しかけようものなら、〇〇君のこと好きなの?だとか付き合ってるの?だとか恋愛の話に勝手に誘導されるは、男子は男子で私が近付くとちょっと距離を感じるし…。

極め付けには、「綾瀬さんって見た目可愛いのに性格男子みたいだよね〜」「ねー、なんかギャップ凄すぎてむしろ猿じゃんw」と、クラスの女子に笑われた。

小学生だった頃には感じたことの無かった違和感に、心が追いつかず、次の日私は学校を休んでしまった。


私が女の子らしく無いから

私が男の子と話すから

喋り方、性格、気持ち、全てを否定された気持ちになった。

私が女の子らしかったらこんな事言われなかったのかな…。

でも、可愛い物よりカッコいい物の方が好きだし、本を読んだり服とかメイクの話をするより、外で走ったりドッジボールしたりする方が楽しいんだもん…。


女の子とも男の子とも壁を感じた。

私って何なんだろう。


結局本当の友達は出来なかった。


高校に上がる頃、私は、決心した。

みんなが望む私になろうって。


メイクやファッションを勉強して流行ってるアイドルの曲を聴いてみたり、女の子の研究をした。

そしたらどうだろう…。


めちゃくちゃモテた…。


それはもうモテた…。


何でだよっ!!

言葉遣いや仕草、髪型とメイクを女の子らしくしただけで手のひら返しするみたいに擦り寄ってくるなんて…。


気持ち悪い…。


「綾瀬さんって本当に可愛いよね〜!天使みたい!」

「綾瀬さん!俺、前から君の事が気になってて!付き合ってほしい!」

「綾瀬さん!」

「綾瀬さーん!」


うるさい…。


「やっぱり綾瀬さんは可愛くなきゃ〜」

「好きだよ。綾瀬」


うるさい!!!!


私は私なのに…。

どうして誰も本当の私を見てくれないの?

カッコいいものが好きでも良いよって

走り回って大きな口開けて笑っても良いよって

あなたはあなたのままでいれば良いんだよって

何で誰も言ってくれないの?


私が違う私に塗り変わっていく

もう、前みたいに純粋に野山を走り回る子供なんて存在しない。

私が私を変えてしまったんだ。

1番の理解者である私自身が…。


ごめんね…。


ぽつりぽつりと大粒の涙がテーブルに落ちた。

「えー何で泣いてるの?もう克服出来たと思ったのになぁ…。昔の事なんて早く忘れよう…。忘れたいのに…。」


テーブルに突っ伏し唸り声を上げる。


「あー!!!もうやめやめ!楽しい事考えよ!!!」


頭から過去を消し去り今日の中村さんのことを考える。


『あ、あのっ…僕も、明日楽しみ…です。』


「あー、顔赤くしてる中村さん可愛かったなー。」


今まで、彼の事を意識したことは無かったし、彼も私の事に好意を持ってるとは思わなかった。


たまに視線は感じたが、行動や言葉で表現されたのは、今日が初めてだった。


なんか、他の男性社員と違って下心というかそういう物が感じられないんだよなー。

なんか、小学生が告白するみたいなピュアな感じ…?


視線とかも嫌らしさを感じないというか…。


まあ、直接好きって言われたわけじゃ無いから分からないけど。


「…はぁ。もう寝よ。」


明日中村さんがランチの時どんな表情で私と向かい合うのか考えると、少しだけ沈んでた気持ちが軽くなった気がした。




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