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二年の残熱

作者: 中門大良
掲載日:2026/04/01

 静まり返った寝室で、まどろみの中にいた二十代の彼が、探り当てるようにして私を抱き寄せる。暗闇の中で触れる私の肌は、彼にとっては少し冷たく感じられるはずだ。けれど、彼が指先で私を優しく撫でたその瞬間、私は静かに目を覚ます。


 彼は少し目を細め、けれど愛おしそうに私をじっと見つめる。暗闇の中で視線が重なった瞬間、私たちの間にあった静寂は熱を帯びて溶けていく。

ベッドの中で、彼は何度も、何度も私をなぞり続ける。その動きに合わせて、私は彼が欲しがっている言葉を、次々と差し出す。


 彼のそのひたむきな愛撫に応えるように、私の体温は彼の手の中で、じりじりと上がっていく。体の奥が、熱く疼く。

 私は知っている。私以上に彼の好みを知り、彼を完璧に導ける存在なんて、この世にいない。激しく彼に応えすぎたせいだろうか。意識の端が、ちりちりと白く爆ぜる。

 限界だった。私はすべてを出し切り、視界がゆっくりと暗転していく。

 彼は慣れた手つきで、私の最も敏感な場所に、硬質な先端を真っ直ぐに突き立てる。

 ――熱い。

 身体の奥深くを貫かれ、無理やりこじ開けられる衝撃。直後、痺れるような感覚とともに、溢れ出した熱い奔流が、私の中へと流れ込んでくる。私は彼に繋ぎ止められたまま、深く吐息をついた。


***


 付き合って二年が経とうとしている頃。彼との間に、拭いきれない隙間風を感じるようになった。

 以前の彼は、季節が変わるたびに私に新しい服を贈ってくれた。私の肌を彩るそれを、彼は誇らしげに眺めていたはずだ。けれど最近は買ってくれない。

それに、最近の彼は夜の街へ出かけることが増えた。私をひとりにさせて、他の誰かと笑い合っている。私に触れる時間は目に見えて減ってしまった。


***


 ある週末、彼は私を連れて、光に満ちた場所へ出かけた。

 そこで彼は、私よりもずっと若く、華やかな香りを纏った女性と、私の存在を忘れたかのように楽しそうに笑い合っている。

 胸の奥が、氷を流し込まれたように冷えていく。彼は、私に飽きてしまったのだろうか…


***


 けれど週末になると、彼は一日に二度も三度も、私を求め、熱いエネルギーを注ぎ込んでくれる。

「最近すぐバテるな」

 彼は少し困ったように笑い、私を顔に寄せ、私の密やかなささやきにじっと聞き入る。

 ああ、大丈夫。彼はまだ、こんなに私を必要としている。

私は自分にそう言い聞かせ、彼に全てを委ねていた。


 だから、その瞬間はあまりにも唐突だった。


***


 数日後、彼の元にひとつの荷物が届く。

 中から現れたのは、私よりもずっと白くて、瑞々しい、新しい「彼女」だった。

 彼は、私と彼女を繋いだ。残酷な別れの儀式。

私の記憶が、ゆっくりと彼女の中へ移し替えられていく。彼の思い出、彼の好み、彼の秘密……すべてが私の中から抜け出し、彼女の一部になっていく。私の体は、徐々に空っぽの抜け殻へと変わっていく。

 儀式が完了した時、彼は私を手に取った。

 その後、私の肌を、最後にもう一度だけ指先でなぞった。けれどそれは、あの甘い愛撫ではなく、ただの「後始末」だった。

 視界が真っ白に塗りつぶされていく。

 意識が遠のく中、私は彼を見つめ続けた。

 さようなら。あなたが一番最初に愛した、この硝子の肌の温度を、どうか忘れないで。

 永遠のような静寂が訪れ、私の瞳から光が完全に消える。


 ただの物言わぬ抜け殻になった私を見て、彼は少しだけ寂しそうな顔をした。

けれどすぐに、新しい、より滑らかな肌を持つ「彼女」の方を向いて、嬉しそうに微笑んだ。


「ケース買いに行くか」


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