ティッシュ
ホワイトボードに水性ペンで書かれた文字を、つい手で消したくなる。ホワイトボード消しかティッシュを使った方がずっと綺麗に消えるなんてこと、わかっているのに。ペンを持ったままの右手を軽く拳に握って、小指側で文字をこすり、ああまたやってしまった、と黒くなった手のひらの左端を見下ろす瞬間、ほろ苦い懐かしさが込み上げてくる。
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彼との出会いはインカレサークルの飲み会だった。存在感の薄い日陰者同士、話しているうちになんとなく気が合って、なんて大学生カップルとしてありふれ過ぎて面白くもなんともないきっかけで、私たちは付き合い始めた。佐藤陸、という名前を初めて聞いた時、私たちの世代に少なくとも千人は同性同名がいそうだ、というのが私の最初の感想だった。中村咲希であるところの私が言えることでもないか。ありふれた苗字にありふれた名前だ、とは思ったが、誓って聞き覚えがあるとは感じなかった。
父の転勤で中学高校を地元から離れた土地で過ごした。東京の大学に憧れなんてなかったはずが、どうしてももう一度首都圏のシステムに取り込まれて暮らしたい、と願うようになったのはいつだっただろう。数年ぶりに戻った地元は相変わらず「東京」を支えるためのパーツでしかなくて、その人臭さが心地よかった。両親に一世一代の我儘を言って借りてもらった、学生マンションの真っ白な壁紙。同じ形のクッキーを大量生産するみたいに、効率よく都合のいい人材を育てるための型に見えた。社会のベルトコンベアに乗って生きていく自分が滑稽で、とても楽しかった。
陸との2年間は、無味無臭というほどつまらなくも、逆に薔薇色だと表現できるほど美しくもなかった。穏やかな毎日。浮気だ嫉妬だと喧嘩するほど、お互いに恋い焦がれてもいなかった。ただ、ふとした時に彼が見せる表情がとても愛おしくなる時があって、その時だけは、一生彼の隣でこの横顔を眺めていたい、と叶いもしない永遠に夢を見てしまうことがあった。
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そしてなぜか、そう願う時決まって私の意識は小学生の頃に引き戻される。大好きだったあの子は、私とは真逆の小動物タイプで、かなり男子にもてる子だった。小柄で色白、明るい色の髪はさらさらで、いつもかわいらしく結い上げていた。水色のランドセル、グレー地にレース柄のパーカー、リラックマグッズ。私が買い与えられなかった可憐なものをたくさん持っていた彼女は、意外と休み時間はドッジボールをしたいタイプだった。授業が終わった瞬間に本を開く私を、無理矢理校庭に連れ出して、男子に混ざって飛び跳ねる。気に入らない男子のランドセルを掴んで振り回す。そんな乱暴な行動さえ、きらめく笑顔で魅力的に見せてしまうような、人を惹きつける引力がある子だった。
恥ずかしそうに恋人の話をする彼女を見ても、羨ましいなんて思ったことは、なかったはずだった。ただ、くだらない話で彼女と盛り上がる時間の儚さを、小学生ながらに敏感に感じていただけ。このきらきら輝く彼女との思い出の中で、時が止まってしまえばいいと願っていただけ。私たち二人だけ、この時間に閉じ込められてしまいたいと願っただけ。それだけのはずなのに、彼女の恋バナを聞くたび胸に溜まっていく濁った灰色の感情に、私にも人並みに嫉妬という感情があったのか、と自分で驚くことがあった。
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いつだったか、陸が地元で美味しいと評判の蕎麦屋に連れて行ってくれたことがあった。5月なのにひどく日差しの強い、その年最初の真夏日だった。その時初めて、私たちは自分たちが同郷であることに気がついた。彼は隣の小学校出身だった。
「マジで?こんなことある?」
「なんで今まで気づかなかったんだろ?」
「ほんとだよ!てか、じゃあここの蕎麦…」
「は、食べたことなかったんだ実は。有名なのは知ってたんだけどね、なんかタイミングなくて。」
「それはそれでびっくりだわ。この辺地元でここの蕎麦食べたことないの?」
「ほら、うちは親の実家がそれぞれ別の町だし。住んでたのも小学生までだし。」
「ああ、そっか。俺んちはばあちゃんも一緒に住んでたし、親戚の集まりとかいっつもここだったな。」
蕎麦を食べながら私たちは、今までなぜかお互いに踏み込まなかった部分に触れていった。
「習い事とかこの辺でしてた?」
「私はちょっと離れたとこでお茶習ってた。」
「お茶か〜。小学生っぽくないね。」
「母がそういうの好きで。陸は?」
「俺はここの向かいの英会話通ってた。」
「近っ。」
「そういや結構大きくなるまで生活この辺で完結してたなー。学校も、習い事も、遊ぶのも。」
「そんなもんだよねー。」
引っ越しでもしなきゃ。心の中で、つい浮かんでしまった羨望と嫉妬を丁寧に折り畳む。
そういえば、
「そういえば、さ、」
急な間の後、心の声とハモった陸の声にびくっとして、ろくに噛まずに蕎麦を飲み込んだ。
「小学生の時、英会話のクラスに咲希と同小のやついたわ。」
「へえ。」
「…」
「…えっ終わり?そりゃいるでしょ1人や2人。隣の学区だし。なんなら歩いて15分だし。で?」
「…いや、それだけ。いたな〜って。」
「?女の子?」
「…」
気まずそう、とも言い切れない、やや苦笑いの混じった、彼にしては珍しい表情で。誤魔化すように啜った蕎麦に一人で軽くむせている
「え〜、初恋の人、とか?」
からかうように聞くと、あからさまに明後日の方に視線を向ける。
「うん、まあ、そんな感じ。」
自分から話題を振ったくせに、そんなに居心地が悪そうな返事を返されても。
「陸にもかわいい時期があったんだね〜。」
深掘りするのも面倒で適当に流すと、またふっと苦く笑った。年相応とも、大人びているとも言えるその笑い方に、海老天を摘もうとしていた箸が止まった。
「あ。」
「…どした?」
「…いや、」
彼のその笑い方が、雰囲気が、直前の英会話教室の話題が、窓からのぞく鮮やかな緑と共に幼い頃の記憶の蓋を開ける。
水色のシュシュとポニーテールが目の前を横切った気がした。
「わたしもいたよ、初恋の人。」
「えっ。」
「小学生の頃。やっぱり陸と同じ英会話通ってた。」
「えっ誰誰「秘密。」あっはい。」
慌てて申し訳なさそうな表情をつくる陸に、思わず吹き出した。二人で顔を見合わせて笑い出す。
「なかなか消えないもんだよね〜初恋って。熱量が一番強いとは限らないけど、初めてだからこそ一番強烈っていうか。」
「…そうかも。なんか指に刺さった、めっちゃちっちゃい棘みたいにさ、なかなか抜けない…みたいな。」
4B鉛筆で書いた文字を、手で擦っちゃったみたいに。
その色を、その痛みを、知ってしまえば知らなかった頃にはもう戻れない。
見なくてもわかる。多分今わたしたち、同じような顔してる。
「だね。」
別の日、今度はモスバーガーでご飯を食べていた時。
「咲希って意外とチャレンジャーだよね。限定品とか頼むタイプなんだ?」
私の食べていた、タコスバーガーを凝視しながら陸が言った。
「普段は割と保守派。このバーガーはね、数年前私の好きな俳優さんがCMやってて、懐かしいな〜ってつい。」
「へえー咲希にも芸能人の推しとかいたんだ。」
「私をなんだと「歴史オタク。」否定のしようもない。」
ミートソースもサルサソースも、口を汚さず食べるなんて土台無理な話だ。真っ赤になった陸の口に、慌ててティッシュを取り出す。
「リラックマ、好きなの?」
懐かしささえ感じる、大学生にはラブリーすぎるポケットティッシュに目線を置いたまま、陸が聞いてきた。
「キャラデザっていうよりはテーマとかモチーフがかわいいよね、リラックマって。」
そして陸はまたあの表情になる。
「あっでもそういえばその俳優さん、「何?」ちょっとだけ、1ミリグラムくらいは、陸と似てるかも。」
「1ミリってもうそれ誤差じゃん。ティッシュより軽いんじゃないのそれ。」
「あとね、名前が一緒だわそういえば!」
「えっ。」
「漢字は違うけど。」
「へえ。…へえー。」
「えっ何。」
「いやなんか。」
そして陸はまたあの表情になる。
「デジャヴ?みたいな。」
「…わたしも。」
ぽつり、つぶやいた。
思い出したのだ。
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りく。
そう、りくって言うの!りくくんとおんなじ名前って!しんじらんなくない?少しだけ顔とか、あと笑い方も似てるの。ちょっとなんか、運命みたいじゃない?
そうだ。あの頃あの子が好きだった俳優さんも、あの子の初めての彼氏も、りく、っていうんだった。苗字は忘れてしまったけど。結婚したいくらい好き!と、彼女には珍しいくらいに大胆な言葉に、よっぽど好きなんだなあ顔が、と微笑ましく思ったあの気持ちごと、まざまざと蘇る。
顔だけで。一人の人間としては。なんにも知らないくせに。微笑ましさであたたまった心に一瞬鉛色の影を落としたあの嫉妬。なんで忘れてたんだろう。
小学生の頃、漢字練習の宿題が好きだった。4Bの鉛筆で力を込めてマス一杯に大きく書くのだから、右手の小指側は真っ黒になるし、せっかく埋めたノートも擦れてやっぱり真っ黒になる。側から見ればただの汚いノートだっただろう。でも、ページが筆圧ででこぼこになって、めくるたびにからからと音を立てる漢字ノートは、私のいとおしい宝物だった。
「ティッシュ使いなよ!」
みかねたあの子がそうアドバイスをくれた。
「右手を置く前に、ティッシュを一枚敷くとあんまり黒くならないよ!」
そう言って、ポケットからリラックマのティッシュを出して、一枚くれた。水色のかわいいパッケージ。あ、ありがとう。ちゃんと言えてただろうか。
漢字練習は宿題で、家でやるものだ。その場で一枚ティッシュをもらったとて、どうしようもない。ぱたぱたと廊下に走り去っていく後ろ姿のポニーテールを眺めながら、でも幸せだった。折り目を目印に丁寧に畳み、クリアファイルにしまう。ただのティッシュが異常に愛おしくなって、顔が勝手に緩み出すのを止められない。
嵐の新曲の話、流行ったドラマの話、中学生になったら入りたい部活の話。他愛ない話題ではじけるような笑顔を見せてくれるあの子は、クラスに馴染めなかった私の、たった一人の親友だった。大好きだった。あの子がいたから、あちこちにぬかるんだ悪意の潜む沼地のような教室でも、とにかく歩こうと思えた。
私だけのあの子でいてほしかったのに。
「ちょっときもくない?」
躊躇いもなく振りかざされた言葉の凶器は、私ごと容赦なく切り裂いた。
あれは確か、夏休みに一緒に遊園地のプールに行った時だった。いつものくだらない話の1つが、クラスメートの女子2人が付き合っているらしい、という噂についてだった。
「みゆとりさちゃんって、かなちゃんとか、まきちゃんとかとも仲いいじゃん?友達が他の友達を好きになるってなんか、気まずいし…そういう風に見てたの?ってならない?わたし正直ぞっとしたもん。」
そうだね、気まずいかもね。自分の声が自分を通り越していく。頭が空っぽになる。
「そういう時代なんだよってママが言ってた。みんな違ってていいんだって。でもわたしにはわかんない。みんなが違うっていいことなのかな?おんなじの方がよくない?その方が安心する。」
そうだね、みんなおんなじなら、他の人はちがうかもって怯えることもない。レールから脱線してるかもって、黄色い線からはみ出してるかもって、こわい思いをしなくていいもんね。
「そうかな?今だって多分、みんな同じってわけじゃないと思うよ?言わないだけで。みんなと同じ人が正しいって、みんなが信じてるだけじゃない?」
私もみんなと違うんだって、今言ったら、繋いだこの右手は振り払われるのかな。
「でも、みんな違う方がいい、っていうのはなんか、へんな気がする。違うけど、おんなじ方がいい、って言ったらだめなのかな?」
「おんなじになれない人は、好きで違うんじゃないのに?」
やだ、離さないで。
「その人がなりたいかどうかは関係なくない?」
「正しくなくても、正しくなりたくても、正しくなれない人もいるよってこと。」
ひとりにしないで。
「ふーん。」
頭ががんがんする。目がかっと熱くなる。だめだ、一滴でも涙なんて流したくない。
「かわいそう。」
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陸との日々に起承転結なんてなかったから、このまま卒業までだらだら付き合うんだろうと思っていた大学3年の冬。本格化した就活に日々を圧迫され、ただでさえ頻度が高くなかった私たちのデートは月2まで減っていた。どうせ大学で生存確認はするのだから、なんて安心していたのに、勤勉だった陸が大学に来なくなっていた。早めに上がれたバイトの帰り道、さすがにLINEでもするかと手にしたスマホに、不在着信が1件。珍しいことに陸からだった。すぐに折り返しかける。
「もしもし。」
1コール分も待たずに話し始めたのは陸の方だった。
「どうしたの?」
電話なんて珍しいじゃんと、茶化すことが出来る声色ではなかった。
「ちょっと長くなるかもだけど、聞いてほしいんだ。」
折しも自販機のベンチが目に入る。
「ゆっくりでいいよ。」
陸に対してこんなにやさしい声を出すのはいつぶりだろう。ベンチは思った通り氷のようだった。
「俺、美咲のこと、ほんとに大事だった。」
「うん。」
「いい思い出いっぱいもらった。」
「うん。」
「前にさ、英会話教室の話したときさ。」
「あったねそんなこと。」
「美咲と同小のやつの話したじゃん。」
「うん。」
「俺、その時付き合ってる子いたんだけど。」
「うん。」
「そいつが俺の初恋だったんだよね。」
「うん。」
「そいつには何も言わなかったし、その子とも別れたんだけど。」
「うん。」
「美咲のことも、好きになれるかもって思ったんだけど。」
「うん。」
「…ごめん。俺、これ以上は、無理だ。もう嘘、つきたく、ない。」
ひっく、ひっく。そんなに声を殺して泣かないでよ。陸の頭を抱きしめて、大声で泣かせてあげたかった。でも君は、独りで泣くことを選んだんだね。
「いいよ。私も嘘、ついてた。陸のこと、ほんとの意味で好きだったわけじゃ、多分ない。」
「こんな時に、っつ、やさしく、しないでよ。」
「陸は、何にも悪くないよ。ただ、違っただけでしょう?」
「…っふ、うっく。」
私も、君も、違うだけ。
「ほんとに好きな人、見つかった?」
「ううっ、う、うん。」
今どこにいるかもわからない陸を、今までで一番近くに感じる。
「そばにいられる人?」
「っん。たぶ、ん。」
「よかったね。おめでとう。」
生暖かい何かが、私の頬を伝って落ちた。今日の雨は、やけに温度が高いな。
「私の分まで幸せになって。」
「みさき、っつ、ほんとに、ほんとに、ありがとう。」
「いいえ。さよなら、陸。素敵な時間をありがとね。」
「さよなら、美咲。」
私も、君も、ティッシュは折りたたんで、過去の痛みと向き合わなきゃ。真っ黒な手は、洗わないときれいにならない。
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あの子とのお別れの日も、唐突だった。もうこれ以上ここにはいたくない、このままでは窒息してしまう。急に不眠症に悩まされるようになった私に、父の転勤は救いの手を差し伸べてくれたようにみえた。だけどいざ最後の登校日を迎えると、身を引き裂かれるように痛みを感じた。クラスのみんなが色紙をくれて、みんなの前でお別れの挨拶をして、みんなで合唱コンの課題曲を歌って。ずっと視界が涙でぼやけていたから、最後に見た教室もクラスメート達の顔も、実はあまり覚えていない。
「帰ってきたらまた遊ぼ!」
大して仲が良くなかったクラスメートでさえ、しんみりしていた。皮肉屋で冷静な担任ですら、うっすら目元が赤くなっていた。私との別れというより、湿っぽい雰囲気に包まれて同調しているだけだっだだろう。そんな教室の中でも一人、溌剌とした表情も口調も崩さなかったあの子が、本当に大好きだった。
「うん。今まで本当にありがとう。」
二人きりの帰り道、つい感傷的になった私にも、いつも通りに接してくれた。
「やめてよー永遠の別れみたいなの。」
けたけた笑うその声も。本当に、全く、いつもと変わらないね。
「こうやって一緒に帰るのもさ、今日で最後だし。」
本当に、本当に、最後なんだよ?
こんなに近くにいるのに、一枚紙を隔てたみたいに届かない。
「またすぐ会えるよー。」
三年は会えないよ?
表情が見えない。
「すぐではないかもだけど、うん、離れてても忘れないでね?」
私、あなたの毎日から消えるの。
こっちを見てよ。
「だからやめてよー。」
なんで笑うの?
聞いてよ。
「真剣だよ?」
笑わないでよ。
つい、くいっと、パーカーの袖を掴む。
薄い紙を引き裂く。やぶかないようにそっと綴られてきた文字がかすれる。
「何?」
驚いたように立ち止まる。
「私、」
言っちゃダメ。
「あなたのこと、」
ダメ。
「ずっと、」
ダメだって。
「す「離して?」」
見たことないほど冷たく、真っ黒な目。私が映像として覚えてる、この日の全て。振り払われるよりよっぽど強く、拒絶された。
「友達だと思ってたのに。」
記憶が正しければこの時の声は、1ミリくらい、涙声だった。鮮やかな痛み一つ残して、彼女はぱたぱたと走り去って行った。白いシュシュのポニーテールが揺れていた。
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陸と別れた3日後に内定をもらった中堅のメーカーで、私は早々に出世コースに乗った。30に王手をかけるころには、すっかり若手営業部員のリーダー的ポジションを確立した。経理部のお局様方にも、中村ちゃんが言うならしょうがない、とかわいがられている。華はないが頑張りがきちんと評価される仕事も、本も映画も落語も、元彼と同じ名前の俳優さんの推し活も、ほどほどに人生を満足させてくれている。
「もしもしー、あ、陸?あんた今どこよ?」
仕事帰りのせわしない駅前。スマホに向かって大声を出さなきゃ、この喧騒には勝てない。
「もう着くよ。あっ、おーい。」
機械を通さない声の方に顔を向けると、ミルクティー色のセミロングが似合う、色白の美少女がかわいく手を振ってくれる。
「…あなたまたかわいくなったね。私だけが年取ってるみたいじゃん。」
「美咲は貫禄がついたね。かっこいいよバリキャリ。」
「さて、今度の彼氏はどうしたの?」
「そう!聞いてよ美咲~!」
うんうんと陸の彼氏の愚痴を聞きながらふと目をやった手は、石鹸で洗っても完全にきれいにはならない。でもいいんだ。その黒さえ、今ではいとおしい。これからも私は、ティッシュは使わないんだろう。




