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9. 誓約魔法


少し離れた場所で座り込んだままの私のもとに、リヒトがやってくる。


「聖女様、結界石の浄化、誠にありがとうございました。お体は大丈夫ですか?」

「は、はい」

「一応聖女様も診ておこうか」


そう言って差し伸べられたルーカスの手を取ろうと手を伸ばしかけたところで、私は先ほどのマイクの傷ついた場面を思い出して手をびくりと止めた。

私のせいで誰かが傷ついてしまう可能性に恐怖がよみがえる。


(もし、何かの拍子に額に触れられてしまったら……)


「どうしたの?」

「やっ」


触れられそうになったルーカスの手を、とっさに振り払ってしまう。怖かったのだ。ルーカスに少しでも自分の記憶を読まれてしまう可能性があることが。そのせいで、彼が自分を犠牲にして死んでしまう事が――。



「……へえ、聖女様は俺に触れられるのも嫌みたいだね。それは俺に記憶を読まれて歪みの消滅方法を知られたくないから?君が交渉で使える最高の手札だもんね?その情報があれば、君はこの世界でどんな望みも叶えられるだろう」


せせら笑うルーカスの言葉に、浄化の完了で弛緩していた空気が凍り付く。


「でも困ったなあ。俺は浄化の旅での回復担当でしょ?もしもの時に聖女様が怪我でもして旅が続けられなくなっちゃったら俺が怒られちゃうんだけど。どうすれば君は安心して俺の治療を受けてくれるかな?」


おどけるような調子で肩をすくめるルーカス。口調は軽くても、その瞳は笑ってなどいなかった。

私は回らなない頭で、とっさにある言葉が口をつく。


「……誓約魔法を……」


ぴくりと、ルーカスの眉が寄せられる。それでも、私は言葉を続けた。


「私の記憶を読まないと、誓約魔法を、かけてください……」

「それは……!」


私の言葉に、リヒトが思わずというように口を開く。


「へえ、さすが聖女様は誓約魔法のことも知ってるんだね。その代償も分かって、言ってるんだ?」


誓約魔法は属性もなく、ある程度の魔力がある者なら誰でも使う事は出来る魔法だ。それでも、歴史をみても誓約魔法は滅多に使われることはなかった。なぜなら、誓約魔法は神に誓いを立てる魔法だから。神が実際に存在するこの世界で、それを破ることは死を意味する。あまりにも代償が大きすぎるそれは、求める事すら不敬とみなされていた。


「いいよ、聖女様のご命令ならね」

「ルーカス先生、しかし、誓約魔法は危険すぎます!」

「聖女様の身が危ういと、浄化の旅ができない。そうなると、この国は瘴気に覆われてしまうよ。聖女様は、国を救ってほしければ誓約魔法をかけろと言っているんでしょ?」

「そんな……」


顔を青くするリヒトの視線が私を向く。否定をしたくとも、その言葉が出てこない私は俯く事しかできない。そんな私の態度は、肯定したも一緒だ。

グッと拳を握るリヒトに心配ないよと笑いかけたルーカスは、その場で神に祈りを捧げるように跪き、両手を握りしめる。そしてその手に魔力を集め、誓約の言葉を述べた。


「『この地を守りし神に誓約す。我、ルーカスは異界の聖女に対し、緊急時と治療以外で彼女の許可なく魔法を行使しない事をここに誓う』」


神聖な光が空から降り注ぎ、そこに誓約が結ばれる。その美しい光景に息をのんでいた私を、立ち上がったルーカスが見下ろした。


「――これで満足?」


凍りつくような視線に、私は震えながら頷いた。

きっと、私は聖女の立場を利用して誓約魔法を強制した強欲な人間だと思われているのだろう。分かっていた。それでも、馬鹿な私はルーカスに記憶を見せないためにはそれしか考え付けなかったのだ。



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