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7. 北の結界石(2)


北の結界石までは徒歩でおよそ二日ほどかかる位置にある。そのため、私たちは森の中で野宿をする必要があった。


「聖女様、これをどうぞ」


野営の場所でリヒトに渡されたのは、干し肉と少量の野菜の入ったスープと固いパン。焚火のもとでリヒトとマイクがルーカスに教わりながら作ったものだ。せめて手伝いたかったけれど、歩き慣れていない私はその時もう体力が限界で、皆から離れた場所でポツリと座り込むことしかできなかった。


「ありがとう、ございます……」


受け取ったものの、私は固いパンを一口食べたところで手が止まってしまった。そんな私に、ルーカスが話しかけてきた。


「ねえ、その食材はさ、歪みの影響で土地が荒れた辺境伯領で、それでも住民たちが必死に育てた食物が入っているんだよ。それを残すの?」

「ご、こめんな、さい……」

「ルーカス先生!そんな言い方は」

「ごめんごめん、ただ明日以降の為にも聖女様に食事を摂って欲しかっただけだよ」


ルーカスの言葉に、私は頭から冷水をかけられた心地がした。貴重な食糧を無駄にしようとしている私を見下ろす瞳に、軽蔑の色が宿るのに泣きそうになった。


「ごめん、なさい……」


私はスープに固いパンをつけ、ふやかしたものを何とか胃に詰め込んで用意されたテントに引っ込んだ。女性という事で、私だけ小さなテントを用意してくれていたのだ。しかしそれさえも今の私には申し訳なくて仕方なかった。



皆が寝静まった夜に、私はそっとテントを抜け出しすぐそばを流れる浅い小川に足を浸した。

旅慣れない私は、森の中の行程でみんなについていくのが精いっぱいだった。早い段階で足は悲鳴を上げていたけれども、無理やりに足を動かし続けた。


(役立たずの私がこんな事で迷惑かける訳にはいかないもの……。大丈夫、痛みには、慣れているから)


足の皮がぐちゅぐちゅに破れた部分から流れ出た血が細い糸のように川の流れに消えていく。ぽろりと涙が零れるのを、膝を抱えて必死にこらえる。


(この涙は、痛みのせい。それだけ……)


「けほっ」


ずきりとした胸の痛みと共に、呼吸が苦しくなる。手についた見慣れた赤い色に、私は泣きそうな笑みを浮かべる。


(ああ、やっぱり私は、『瑞希』にはなれないんだ……)


だって、『瑞希』は元気で、健康な女の子だった。明るくて、周りみんなを笑顔にしてくれる太陽のような素敵なヒロイン。

比べて私は、この一年病院食しか口にしていないせいで食事さえ満足にできず、久しぶりの固形物に胃が悲鳴を上げている。こみ上げてくる吐き気を、両手で口元を押さえて必死に耐える。

辺境伯領の人たちが育てた大切な食糧を無駄にしないように、私は真っ暗な暗闇の中でうずくまり吐き気に耐え続けた。



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