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3. 邂逅


神々しい美貌のルーカスを目にした私は、頭の中が混乱の渦に叩き込まれた。


「え……?ルーカス……?」


(ルーカスが、生きてる……?生きて、私の前に、立っている……?これは、夢?)


呆けた私の小さなつぶやきが聞こえたのか……ピクリと眉を動かしたルーカスは、ニコリと笑って私の顔を覗き込んできた。


「あれ、君とは会ったことあったかな?聖女様は、異世界から訪れるって聞いていたんだけど」


ルーカスからの問いかけに、私はハッとして焦って首を横に振った。


「い、いえ!初めて、お会いしました」

「……そう?じゃあなんで、君は俺の名前を知っていたの?」

「そ、それは、その……」


私は頭の中が真っ白になって慌てていると、横から先ほどの黒髪の青年が声をかける。


「ルーカス先生!先生こそいきなりこの世界に来られた聖女様に何を詰め寄っているんですか」

「いや〜、ごめんね。つい気になっちゃって」


あははと笑って手を差し出したルーカスの手に恐る恐る触れると、温かい感触。

私は、目を見開いた。


(温かい……。これは夢じゃ、ない……⁈じゃあ、ここは――)


立ち上がった私の瞳に映ったのは、地球上ではありえないくらい大きく青い双子月。

大好きなゲームのオープニング画面で光る蝶と共に描かれる、息を呑むほど美しい月夜の景色。


(ここは、『世界を繋ぐ光』の世界で……、私は、召喚、された……?)


爽やかな笑顔を浮かべて、黒髪の青年――リヒトが自己紹介を始めた。


「僕の名はリヒト・デュオ・ハーリア。ここルダニア王国のハーリア辺境伯領の領主をしています。そして隣にいるのは僕の護衛のルーカス。驚かれるかもしれませんが、貴女はこの国を救うために力をお借りしたく召喚されたのです。まず、貴女のお名前を伺ってもよろしいですか?」


リヒトの言葉は、あまり頭に入ってこなかった。なぜならば、手から伝わるルーカスの温もりに、意識の全てが持っていかれていたから。


(ルーカスが、生きている。私が、『瑞希』になれるなら……)


――ルーカスを、助けられるかもしれない――。



「私は、『瑞希』といいます」



***



先程の神殿のような場所から連れ出され、私はまず国王と謁見する事になった。


(ゲームの流れの通りだけど、王様との謁見なんて緊張する……)


そわそわと周りを見回す私は、いまだに自分の身に起きている事に現実感が湧かない。リヒトがこの国のことや結界について歩きながら簡単な説明をしてくれたけれど、正直しっかりと聞けていなかったと思う。なぜならば、リヒトの側に控えるルーカスの姿を視界に入れるだけでドキドキと心臓が暴れ出しそうだったから。


(画面越しでも凄くカッコよかったのに、現実で見るとほんとに、凄い……)


ゲームの主要キャラだけあってリヒトも他の仲間だって凄く容姿が整っているけれど、エルフであるルーカスの美貌は正直神がかっていると思う。飾り気のない魔術師の黒いローブも、まるで上質な貴族のマントのように誰よりも良く似合っていた。

そんな風に現実逃避をしていると、遂に国王の入場が告げられて私は慌てて頭を深く下げる。


「ほお、其方が光魔法の使い手、聖女殿か。面をあげよ」


そっと顔をあげると、正面の王座には贅を凝らした豪華なマントを纏った恰幅のよい壮年の男が座り私を見下ろしていた。


「其方は、我がルダニア王国を瘴気から守る大結界を維持するために必要な、結界石を浄化するために召喚されたのだ。まずは誠に其方に光魔法が使えるのか確認させてもらおう」


王座の横から従者のような人が小さいけれど重厚な箱を掲げて持ってきた。私は緊張で手汗を握る。


(大丈夫、なはず。『瑞希』はちゃんと、浄化できたもの。私もきっと、できる……よね?)


目の前で開けられた箱の中には、禍々しい色の小さな結晶が納められていた。瘴気の気配に後ずさりそうになったけれど、グッと我慢して私は恐る恐るその結晶を手に掴んだ。


(気持ち悪い。早く、浄化しなくちゃ。光の魔力は血液のように体中を流れているはず。それを手のひらから対象に向けて流す……)


ゲームでの描写を必死に思い浮かべて集中していると、ほわほわと動く身体の中の温かな魔力を感じられるようになってきた。よかったと安堵し、私はそれを手のひらから結晶に流し込む。するとカッと光がともり、身体から何かが抜け出たような感覚と疲労感。瞳を開けるとそこには透明なキラキラとした結晶が輝いていた。


「おお、本物だ」

「これが光魔法!」


(良かった。できた……!)


周りの貴族たちのざわめきが聞こえる。私はちゃんと浄化が出来たことにほっとして、安堵のため息をはいた。


「うむ。確かに光魔法が使えるようだ」


満足そうに結晶をかざした国王は私に命じる。


「結界石は国の東西南北の四ヶ所に設置されているが、瘴気の影響でどんどんとその機能が弱まっておる。百年に一度、光魔法での浄化が必要なのだ。やってくれるな?」

「は、はい」


従うのが当然というような国王の台詞に、私はびくりとして急いで是と答えた。


「余の代で面倒な事をと思っておったが、致し方ない。結界石は結界の外側にある。そこに辿り着く前に死なれては敵わんから、其方には護衛をつける。後ろにいるその辺境伯領の者共だ。そ奴らはいくらでも肉壁として使用するが良い」


ニタニタと下卑た笑いを浮かべる国王に、私はギュッと拳を握り悲しい気持ちになった。


(これも、やっぱりゲームと同じなんだ……)


ハーリア辺境伯領の半獣人たちは王国の人間達から“混ざりもの”として差別を受けている。それでも従わざるを得ないのは、食料を王国からの輸入に頼っているからだ。ルダニア国を瘴気から守る南の防波堤の役割を果たす辺境伯領は、その瘴気の影響で作物の実りが悪く、どれだけ手をかけたとしても領民全ての食料を賄う事はできない。

それでも腐る事なく自らも領民達と畑仕事に参加するリヒトやルーカス達のシーンを思い浮かべ、私は悔しさで唇を噛んだ。


(どうして、頑張っている彼らがこんな風に言われなければいけないんだろう……)


王の周りにいる貴族達も、後ろに控えるリヒト達を見下したような目で見ている。彼らは命懸けでこの国を守っているのだと、反論したかった。でも、ゲームでは『瑞希』がここで王に「なぜ彼らにそんな酷いことを言うのですか!」と反発した事で、リヒト達半獣人への侮蔑の言葉が集中砲火されてしまう事を知っていたため、私は拳を握りしめて黙っていた。ゲームでは、このシーンはこの世界の情勢を知るために必要だったかも知れないけれど、こんな事でリヒト達に悲しい思いはしてほしくなかった。




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