エピローグ
リリィ達が王宮へ着いたのは、日付が変わろうとしていた頃だった。
「リディア様、ルナとリリィを保護し、ただいま戻りました。」
カイの言葉とともに、砂のベッドは消え去った。二人は地面にゆったりと着地した。
「雷神王……リディア……様。」
ルナの息を呑む音が聞こえる。上目遣いで反応を伺う。
リディアはリリィとルナの姿を認めると、両手を広げて屈み込み、二人を包み込んだ。
「よかった……二人とも、無事で……!」
アークはその姿を静かに見つめると、深々とした敬礼をして、その場を立ち去った。
(私は、まだリディア様の前に立てる人間ではない。しかし、いつかは……。)
ルナは、瞬く間にまるで泣きつかれた子供が、母親の腕の中で眠るかのように意識を失った。その表情にはもはや不安や恐れは読み取れず、安堵すら感じさせるものだった。
リディアは、真横にあるルナの顔をどこか遠い目で見つめると、カイに目配せをする。
「ルナをお願いできる?」
「はい、先に来賓室のベッドへと運んでおきます。」
カイが手をかざすと、そこにもう一度砂のベッドが形作られはじめた。
リリィは、リディアの腕の中で、そっとその胸に耳を当てた。小さく微かな、しかし確かな心音が伝わる。
「ごめんなさい……。私、もう二度とリディア様にあんなことしない。」
小さく震えた、しかし確かな声で伝える。
リディアはくすぐったそうに身を捩ると、リリィを抱きしめる手に力を込めた。そして、彼女は立ち上がると、出来上がっていた砂のベッドにそっとルナを横たえさせた。
リリィは、王宮の中へと消えていくルナとカイを見送ると、リディアの横に控えていたセレスに向き直った。
何も言わずに、籠の中に戻る鳥のように両手をぴたりと合わせて彼女の前に差し出す。
俯き、目を硬く閉じる。
その瞬間が来るのを待った。
しかし、いつまで経っても、その手が掴まれることも、首に冷たい刃が触れることもなかった。
代わりに、やさしい熱が、髪の隙間を伝い、頭の芯までじんわりと満ちていくのを感じた。それは、魔力の流れを凍らせたあの冷たい手ではなかった。
「よく頑張りましたね。今日はもう休んで、明日、お風呂ででもお話しましょう。」
リリィは顔を上げ、セレスの銀色の瞳を真っ直ぐに見つめる。
「……うん!おやすみ……!」
その日、ファルムの森の大部分が、無垢な雷によって消え去った。しかし、それはエレクシア全体を巻き込む動乱のほんの始まりに過ぎなかった。
──エレクシア建国記に曰く。
雷神は双柱と顕れず。
雷に目覚めし者、此の地に君臨す。
一人称視点の再構成版として今後投稿予定です。




