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チート級転移能力で無敵の敵国王の懐に潜入した少女スパイ~友情を裏切り王を討つ日~  作者: 重井 愛理
一章

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25話:慟哭

 ゆっくりと、その場に倒れ込むリディアをセレスが抱きとめた。リディアの顔は青白く、額には玉の汗が滲んでいた。


「わたしがね、雷神王として在れたのは、セレスとカイがいたから。」


 リディアは、その腕の中で、誰にも知られてはならない秘密を告白するかのように囁いた。


「彼女は、あの日のあなた達と同じ目をしてた……。今、ルナにはリリィが必要よ。」


か細い吐息が耳にかかる。

セレスは、リディアを支える手に力を込めた。




 リリィの視界に飛び込んできたのは、雷の力によって焼き払われたファルムの森だった。

 魔力を込めていた石はかろうじて、雷撃から逃れていた。やがて、焼け野原の中のポツンとした一つの影に焦点が定まる。


 それを見た瞬間、リリィは自身の大きな勘違いに気づいた。

 ルナは無事かもしれない?いや、無事に決まっている。先ほどの雷で、ルナが危険に晒されるはずがなかった。


 雷の残滓が、空間に線を描くようにバチバチと光る。少女は、その”中央”に無傷で茫然と立ち尽くしていた。


 リリィは考えるよりも早く走り出していた。


 足を踏み出すたびに、空間に満ちた電気が、ガラスのように砕け、その破片が肌を刺す。静電気で栗色の髪が広がり逆立つ。電気が、髪だけでなく、顔に、腕に、そして、心臓まで痺れをもたらす。

 それでも、リリィは意にも介さず、前に進む。


「ルナ……!遅くなってごめんね!」


「……リリィ…………。私、何もわからなくて……。急に周りが……。」


 ルナは、ただ怯えていた。



 リリィは、ついにルナの元までたどり着くと、彼女を強く抱きしめた。


「ルナ。もう大丈夫だよ。」


 しかし、その体に直接触れたことで、雷の残滓が、その肌を一層強く灼き、チリチリと全身に痛みを走らせた。

 リリィは体を痙攣させ、ほんの僅かに顔に苦悶の表情を浮かべた。


「っ……!!」


 ルナの悲鳴にも似た声。

 リリィの胸を押し返そうと、震える腕で必死に彼女を突き飛ばした。


 それでも、リリィは決して離さなかった。少女の小さな体を更に強く抱きしめ、熱と電気を帯びた彼女の背中を優しく撫でた。


「大丈夫……ルナ。もう大丈夫だよ……。」


 ルナはリリィを突き放そうと、その小さな体を必死に動かしていたが、押し返す腕の力は段々と抜けていった。


「う……ぅ…………ふぅ……ふぅ。」


 ルナは、震えながらも、そっとリリィの背中に手を回し、しがみつくように抱き返した。肌から伝わる体温と心音が張り詰めた心を溶かしていく。


 そして、リリィの温かな肩越しに彼女の視界に映ったのは、命の失われた灰色の世界だった。


 その落差が、何もかもを燃やし尽くしてしまった喪失感を増幅させた。堰を切ったように溢れ出す。

ルナの喉から、こらえきれない嗚咽が漏れる。そして、一度溢れ出した感情は止まらなかった。


「うわぁぁああああん……っ!」


 ルナは、幼子のように声を上げて、わんわんと泣き始めた。

 リリィは、彼女の嗚咽が落ち着き、静かな呼吸を繰り返すようになるまで、優しく背中を撫で続けた。




 ――その頃。


(リリィが能力を使った。リディア様の判断か……それなら、今、俺がするべきは……!)


 天霆の大樹の元に急行していたカイは、立ち止まって周囲を見渡す。雷による火災は森に広がり続けている。

 彼が両手をあげると、その意に従うように地面から砂が浮かび上がった。砂は木の周りにまとわりつき、延焼を食い止める。




 ――その頃。天霆の大樹の下。


 大気に満ちた雷の残滓が消え始めた頃、二人の近くで物音がした。


「リリィ……」


 ルナがリリィの服の裾をきゅっと掴んだ。


「大丈夫だよ。多分……この足音は、カイさんだと思う。」


 リリィは落ち着いた声で言った。


 焼け焦げた木の影から現れたのは――


「アーク君!あのね!ルナが……!」


 リリィは見知った顔に胸を撫で下ろす。


 彼はリリィを一瞥すると、刀を抜いた。黒い軍服と、右肩に覗く稲妻の紋章が、彼の正義の執行を待っていた。刃が、夜の闇に妖しく光る。


「雷の能力者は、この世界でただ一人、リディア様です。偽物は排除します!!」


 アークは、大きく踏み込んで、宙を駆けるように接近し、ルナに横一文字に斬りかかった。

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