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チート級転移能力で無敵の敵国王の懐に潜入した少女スパイ~友情を裏切り王を討つ日~  作者: 重井 愛理
一章

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18話:勝負

 乾いた木と木がぶつかる甲高い音が響き、二人の影が修練場を駆け抜ける。

 アークは、大地を揺るがすような力強い踏み込みで間合いを詰めた。その木剣は、まさに嵐の如く、一瞬の隙も与えずにリリィの頭上から振り下ろされる。しかし、彼女はそれを紙一重でかわし、舞いを思わせるしなやかな体捌きでアークの死角へと回り込んだ。


 アークは、彼女の予測不能な動きに翻弄されながらも、落ち着いた表情で彼女の反撃を捌く。

リリィは、彼の木剣が繰り出す重い一撃を捌くたびに、身体の奥まで響く痺れに顔を歪める。

 互いに一歩も譲らない激しい攻防が続く中、両者の息が白くなる。

 やがて、リリィの動きに疲労が見え始める。

 その時、アークは一瞬姿勢を崩し、隙を見せた。


(ここで決める…!)


 長期戦の不利を悟ったリリィは、彼の懐に飛び込むと、短剣を横に鋭く薙いだ。しかし、その瞬間、アークは、姿勢を立て直し、地を這うように低く構えた。リリィの短剣が空を切る。


 アークは縮めた体をバネにして地面を蹴ると、居合の要領で木剣を左下から右上に向かって鋭く斬り上げた。その太刀筋は、彼女が左手に持つ短剣を正確に打ち抜いた。

 短剣が宙を舞い、コンと音を立てて地面に転がった。


(今の動きは…カイさんの…!!)


「そこまで!」


 教官の野太い声がもう一度修練場に響いた。


「凄いですね、リリィさん!これほど研鑽をつまれた方と手合わせをしたのは、カイ様を除くと初めてです。」


 アークは、真っ直ぐにリリィを称えた。


「あなたも強いね…もう一回!次は負けないよ!」


 二人は向き合うと二度目の打ち合いを始めた。



 若い才能が激しくぶつかるのを眺めながらリディアが声を弾ませて言った。


「ねぇ、そういえばカイとセレスも最近忙しくてなかなか時間取れてなかったわよね?二人の立ち会いを久しぶりに見てみたいわ。」


「カイは護衛の要です。今、負傷させても大丈夫でしょうか?」


 セレスが普段の冷静さからは考えられない、いたずらっぽい笑みを浮かべる。


「大丈夫よ。ここには大勢の兵士がいるもの。思いっきりやっちゃいなさい。」


 リディアも、まるでセレスと双子のような表情を見せる。


「私が負けると決まっているかのような言い草ですね。セレス、受けて立ちましょう。」


 カイは既に木剣を構えていた。


 カイとセレスは激しくぶつかり合った。二人の剣が交わるたびに、火花が散り、剣戟の音が響き渡る。その圧倒的な実力差に、リリィは横目で、ただ見とれるしかなかった。



 カイの研ぎ澄まされた剣術に対し、セレスは、剣と体術を織り交ぜた動きで応じる。

 その時、セレスの蹴りが、カイの胴体に入った。カイはたまらず倒れこむ。


「く…相変わらず強いな…」


「砂を使えば、勝負はわからなかったと思いますよ。」


 セレスは、体を屈めて右手を差し出す。

 しかし、彼の右手は、木剣を折れそうなほどに握りしめたままだった。


「いーや。いつか正々堂々とこの剣で勝ってやる。」


「いつでも挑戦は受けますよ。」


 セレスは、伸ばした右手でカイの肩をそっと叩くと、リリィとアークの方を見やった。


「そこまで!」


 教官の声が響く。アークの木剣がリリィの喉元に、リリィの短剣がアークの心臓に添えられていた。

 リリィは、その場に座り込むと、荒れた息を整える。


(今度は相打ち…!でも…。アーク君は近衛兵じゃなくて一般兵だってカイさんが言ってた。エレクシアにはもっと強い人がまだ何人も…)


 アークは息一つ乱さずに、木剣を握る自分の手を見つめていた。ふぅ、と息を吐くと、彼は木剣を腰に収めた。赤い目を闘志に燃やしながら、リリィに話しかける。


「リリィさん!ぜひ明日も私と勝負しましょう!」


 仏頂面を貫いていた教官は、顔をほころばせてゆっくりと頷いた。


「あのアークと引け分けたぞ!それもあんな少女が!」


「君、大人になったらうちの部隊に入らないか?」


「どうやって鍛えてるんだ?」


 あっという間に、リリィは兵士達に取り囲まれた。



 セレスが兵士たちの間に割って入る。


「リリィ。疲れたでしょう?少し休憩にしましょうか。」


 修練場の端っこに移動した二人にリディアが労いの声をかけた。


「お疲れ様。二人とも洗練された見事な動きだったわ!汗もかいたことだし、お昼ご飯の前にお風呂にしましょうか。」


 リリィは勢いよく頷いた。


「セレス。リリィをお風呂に案内してあげて。私はカイが動けるようになるまで、もう暫くここで皆の訓練を見ているわ。」


 リディアの瞳は、倒れ込んだままのカイを見つめていた。


「はい。お任せください。」


 セレスは抑揚のない声で答えた。


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