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チート級転移能力で無敵の敵国王の懐に潜入した少女スパイ~友情を裏切り王を討つ日~  作者: 重井 愛理
一章

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17話:訓練

 翌朝、リリィは、早い時間から王宮を歩き回っていた。まずは、王宮内部の構造を覚えるところから始めていた。


 そのとき、ちょうど向かいの廊下の曲がり角からリディアと側近の二人が現れた。


「おはよう。リリィ。王宮内を探検をしてるのかい?」


 カイが優しく話しかける。


「おはよう。えっと…自由に歩いていいんだよね?」


リリィは半歩後退りしながら尋ねた。


「うん、昨日言った通りだ。機密情報は厳重に管理してるからね。自由に探検してもらって大丈夫だよ。行き先は分かるように監視もしてるしね。」


カイは砂のリングが付けられた彼女の右腕を指差す。


リリィは自分の腕を見つめる。砂が僅かに動いた気がした。


カイは得意げに続ける。


「あぁ、心配しなくても大丈夫だよ。君も女の子だからね。砂には目も耳もない。その辺りのことは配慮しているよ。」


「カイ…それを本人に言うところが、”配慮できてない”んですよ…。」


セレスは、昨日と同じ呆れた顔をしていた。


「そうじゃなくって。むしろこの程度でいいのかなって。だって私は…」


リリィは、無力な少女として扱われることに、戸惑い続けていた。



「君にも事情があるんだろう?うーん…そうだな。私達みたいな人間は、あれこれ考えるより、体を動かした方がいい!」


カイの思いつきで、一同は王宮の隣にある修練場に向かった。

兵士たちの訓練で、修練場には砂埃が舞い、兵士たちの熱気が立ち込めていた。

木剣のぶつかる鈍い音が絶え間なく響き、雄叫びや号令が入り混じる。汗と土の匂いが立ち込め、鍛え上げられた兵士たちの肉体から発せられる荒々しい気迫が肌を刺すようだった。


「皆!リディア様がお見えだ!敬礼!」


教官の声で、兵士たちはピタッと訓練を中断すると、一糸乱れぬ動きでリディアに深い敬礼をした。

リディアが威厳に満ちた声で語りかける。


「皆、朝から熱心に訓練されていますね。

エレクシアの民を守らんとする心意気に感謝します。どうぞ私達には構わず訓練を続けてください。」


兵士たちは訓練を再開する。今は一対一で模擬戦闘をしているようだった。

カイはその中で一人、刀の素振りをしていた若い兵士を呼び出した。


「アーク!」


赤みがかった黒い短髪の青年は彼のもとに走ってくると、敬礼をした。


「カイ様、私に何か御用でしょうか?」


「お前は皆と模擬戦闘はしないのか?」


カイは他の兵士たちを見渡しながら尋ねる。


「はい!既に私のグループは皆が倒れましたので。教官殿からアークも少し休むようにと。ですが、まだ体が温まりきっていません。もっと汗を流そうと、一人で剣を振っておりました。」


アークは修練場の隅で力なく座り込む五人の方を指差した。



「流石だな…。それなら、リリィの相手をしてやってくれないか?」


「はい!町の外れの倉庫で保護した少女ですよね?命令であれば従いますが、このような少女に訓練と言えど剣を向けるのは…。」


アークはリリィの顔を一瞥して言った。その精悍な顔つきには、確かな躊躇が見られた。


「大丈夫。この子は、セレスの拳も受け止めていたぞ。」


カイはアークを挑発するようにニヤリと笑った。


「セレス様の…!?それでは、このアークが承ります!」


アークは彼女の体を射抜かんばかりの鋭い眼光で観察すると、闘争心を隠そうともせず赤い目をギラつかせた。

リディアはリリィに顔を寄せて耳打ちする。


「カイの勝手な思いつきに無理に付き合わなくてもいいのよ?」


リリィは彼女から少し距離を取ると、軽く屈伸をしながら答えた。


「ありがとう…。でも、私もちょうど身体を動かしたいと思ってたところだから大丈夫!」


怪我でなまった体が、彼女の焦燥感を駆り立てた。


「それではこちらに。武器の指定はありませんので、お好きなものをどうぞ。」


アークは一切無駄のない動きで、リリィを訓練用の武器の置き場に案内した。


刀、盾、斧、槌、槍、様々な木製の武器が整然と並べられている。リリィは真剣な表情で、一つ一つ吟味した。そして、手に馴染んだ短剣と似た形状をした、短めの木剣を手に取った。


リリィがアークに向き合う。


「能力は使ってもいいの?」


「訓練の内容にもよりますが、本日は能力の使用も想定した戦闘訓練です。ですが…私はカイ様に、緊急時以外使用を禁じられていますので、これでお相手します。」


彼は刀の形状をした木剣を構える。

一切隙のない構えから、リリィは一瞬で悟る。この青年は、ただ者ではないと。それでも…


「それなら私も能力は使わないよ!」


木製の短剣を構えながら、堂々と宣言した。


「素晴らしい心がけです…が、戦いに卑怯などありませんから、いざとなれば遠慮なく使用してください。」


彼の声には揺るぎない自信が滲んでいた。


「はじめ!」


教官の野太い声が修練場に響いた。

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