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チート級転移能力で無敵の敵国王の懐に潜入した少女スパイ~友情を裏切り王を討つ日~  作者: 重井 愛理
一章

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15話:招待

 王立治療院の一室、消毒薬のツンとした匂いが漂う白い空間で、カイはリリィの取り調べを行なっていた。窓から差し込む午後の光が、彼女の顔を照らし出す。その頬はまだ青白く、ベッドの軋む音が、微かに彼女の緊張を物語っていた


「率直に話そう。一週間ほど前、王宮に侵入者が入った。フードを被っていたため正体は分からなかったが、私はそれを君だと確信している。」


 カイは一息置いて続ける。


「君は、何の目的で 王宮に潜入した?」


 リリィは、きつく唇を結んでうつむく。何と答えるべきかわからなかった。


「話したくないのかい?場合によっては……ルナにも尋問が及ぶことになる。」


「目的は……言えない。でも、ルナは関係ないよ。」


 リリィはシワができるほどにシーツを強く握る。

 カイはその言葉に小さく頷いた。


「デュランの証言によれば、君の体捌きは訓練を積んだ人間のそれだ。だが、軍の養成所の名簿に、”リリィ”という名前はなかった。誰に戦い方を教わった……?」


「それも言えない。」


「それで私が納得すると思っているのかい?このままでは、君を拘束するしかない。」


 カイの声が低くなる。


「……私の能力はもうわかってるんだよね?私には拘束なんて無意味だよ。今は、助けてくれたお礼にお話を聞いてあげてるだけだから。」


 強気な言葉とは裏腹に、リリィの手は小さく震えていた。


 カイはベッドのそばで膝を曲げて、リリィと目線を合わせた。


「強がらなくてもいい。君はまだ子供で、守られるべき存在だ。自分の意志で王宮に侵入したとは、考えていない。君に指示をした人から、酷いことはされていないか?」


 声が一転してやわらかく、穏やかな響きを帯びる。


「ありがとう……でも、そんな誘導尋問にはのらないよ。バカにしないで。」


 リリィは、彼の目を見もせずに答えた。


 カイは、大きく息を吐いた。恭しく跪き、手を差し伸べる。


「それでは君を……デュラン一味討伐の立役者として、王宮に招待しよう。……君は王宮に目的があったんだろう?もし危機を感じれば能力を使って逃げればいい。反対する理由はないね?」


 リリィは耳を疑う提案に、目を見開く。


「どういうつもり?」


「君は、傷だらけの身体で必死にルナを守り抜いた。私たちにも君を守らせてくれないか?」


 カイは真っ直ぐにリリィの目を見つめて言った。


 リリィの心に大きな波紋が広がる。


 一方で、帝国のスパイとしての彼女が、今の状況を整理する。この手を取らずとも、自身が侵入者であると露見した事実は変わらない。それならば、誘いに乗って王宮の情報を得るほうが勝算がある、と。


「わかった……」


 リリィは、彼の手を取ろうとして、寸前で、その手を止めた。


「でも……その前にルナとちゃんとお別れがしたい。」


 少女の最後のお願いに、カイは静かに頷いた。

 リリィは今度こそ、彼の手を取った。



 ルナは王立治療院の中庭にあるベンチに腰掛けていた。


「リリィ……」


 ルナは、ベンチから立ち上がると、リリィの顔を不安げに見つめた。


「あのね!ちょっと事情があってね、暫く会えなくなりそうなんだ!……だから……」


 リリィは言葉に詰まりながらも、いつもの明るい声で紡いだ。

 そんな彼女の言葉を、ルナは遮った。


「……来週!満月の中でも、一年で一番大きく見える日なの。天霆の大樹の下からだとすごく綺麗に見えるんだ……。私…………リリィと……」


 その声は、段々と消え入りそうなほど小さくなっていった。


 リリィは、後ろで壁にもたれかかるようにして立っていたカイをちらっと見た。彼は小さく首を縦に振った。


「うん、わかった。じゃあ約束!来週の満月の夜に、大樹の下でね!」


 リリィは頬の筋肉が強張るのを感じながら、精一杯の笑顔で笑った。


 ルナの赤い髪飾りが、一瞬、希望の光を放った気がした。



 リリィは、馬車で王宮へと向かった。馬車の中は、重厚な革の匂いと、柔らかなクッションの感触がした。カイは、閉塞感を感じさせない大きな窓から、町並みを眺めていた。

 リリィが尋ねる。


「ねぇ……ルナの髪飾りはあなたが……?」


「あぁ。君が消えた場所に、地図と一緒に落ちていたからね。拾って……君が目覚めるのを待っている間に彼女に返しておいたんだ。」


 カイはその時のルナの表情を思い出して微笑む。


 馬車がゆっくりと揺れる。その緩やかな振動が、リリィの割り切れない感情を助長していた。


「私の能力の媒体ってわかってるんだよね?目の前に突然私が現れて、あなたを斬りつけていたかもしれない……!」


 その声は非難の色を帯びていた。

 カイは町並みを眺めるのをやめて、リリィに向き直った。

 彼女は責め続ける。


「危険だと思わなかったの?どうして壊さなかったの?」


「君はセレスみたいなことを言うね。大切なものだと思ったから拾った。それでは答えにならないかな?」


 カイは眉を下げて笑った。


「あぁ、セレスってのは君に蹴りを入れた女の人で……セレスもそういうことを言いつつも結局拾うやつなんだ。だから怖がらなくても大丈夫だよ。」


 ククッとこらえるように声を漏らす。


「……ありがとう」


 倉庫で見せた苛烈な表情とは違う、穏やかに微笑み続けるカイの姿に、リリィは視線を泳がせながら感謝だけを述べた。

ご覧いただきありがとうございます。

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