悲劇の発端
世界史大好き人間です。
ー頭に思い浮かんだものを
セリフや文章にして書いています。
…気が向いたら読んでやってください。
以上です。。
翌日、ドミトリィたち4人はルドヴィカの部屋を訪れた。彼女の横にユーゼフがいて、彼は涙ぐむ妻を慰めているところだった。
「ああ…けっこうな人数で来たね。嘆願しに来たのかい?」
来客の数を聞いて彼はそう言った。どうやら弔問と見えなかったらしく軽く笑っていた。
「もう。…お兄様ったら」
シャルロッテが眉をひそめる。
「この時期に嘆願はないでしょう」
「そうかな」
ユーゼフは妹にそう聞き返した。
ドミトリィは中の様子を見遣って聞いた。
「ー妃殿下とお話ししたいのですがお許し頂けますか?」
「妻と話をしたい?」
ユーゼフは尋ねた、ールドヴィカも顔を上げ外に目を向けていた。夫に聞かれ彼女は来てくれていいというようなことを言った。
「妻は構わないと言っているが、僕も横で聞いていいならそうしてくれ」
自分の立ち会いのもとでならという意味だ。
「それでけっこうです」
そしてドミトリィたちは塔の上部へ登った。
中にはユーゼフとドミトリィの2人が、外にイマヌエルとシャルロッテ、新婚夫婦2人が座ることになった。イネッサはあまりに申し訳ないと会いに行かなかった。
「今朝大公妃から聞きました。ーお従兄を亡くされたそうで…お悔やみ申し上げます」
ドミトリィは言った。
「皇太子とヴェストーザ公と、とても仲が良かったそうですね」
「…ええ」
ルドヴィカはそう答えた。
「前にご結婚なさった時にも、公爵は式に参列されたとか」
「していたと思います」
「公爵の姉上ですがー彼女がいつ頃他家へ嫁いだか、ご記憶にありませんか?」
ードミトリィは聞いてみた。
ルドヴィカはまた顔を上げた。
「ヴェストーザの姉…」
彼女は呟いた。
「ーはい、妃殿下」
「従姉のシルヴァーナのことね?あなたが聞きたいのは」
「はい。…もし良かったら、彼女が結婚した時期を教えて頂きたいのです」
「…シルヴァーナが結婚した時期を?」
「クラウス卿の亡くなった頃から弟も姿を消しているので、つながりがあるのではと」
ドミトリィは言った。ーなるべく軽く、目の前の人物に負担のないように。
「弟がクラウス卿のもとで仕官を決めたと父から聞きました」
「…あなたの弟が私の夫の下に?」
ドミトリィから話を聞いて、ルドヴィカは思い巡らすような様子を見せた。
「確かに見た記憶はあるわ。あなたとよく似た顔立ちの人を」
ー彼女は言った、
「私と弟君と、歳は一緒だったということでしょう?」
「ーはい」
いつ頃その人物をお見かけになったかお教え願えますか?ードミトリィも身を乗り出してしまった。
「結婚して少し経ってからだったわ。私がその人を見かけたのは」
ルドヴィカは言いー
「ほんの一時期だったけれどー確かに彼の顔立ちは公爵とよく似ていた」
そう、ドミトリィに話すのだった。
ー話を聞いて、不穏なものをドミトリィは感じ始めた。ー仕官して一時期主君のもとで過ごし、その後弟はどうしていたのだろう。何か悪い者に掴まったのではないだろうか。ー考えれば考えるほど脳裏にそういう構図が浮かんでしまい、ドミトリィも不吉な予感を拭い去れなくなった。
「一時期は確かにいたー確かに仕官してはいたということですね」
「…私の記憶違いでなければね」
ドミトリィの言葉にルドヴィカはそう答え、
「その少し後に従姉のシルヴァーナが夫の城を訪ねてきた。…どういうわけなのか」
それから少ししたらあなたに似た男性も城で見なくなった。ーと、続けたのだった。
「ヴェストーザ公の姉上はご結婚はー?」
「まだしていなかったと思うわ」
ルドヴィカは答えた。
「妃殿下からご覧になってあの方はいくつ上でしょうか?」
ドミトリィはさらに聞いた。
「私より6歳は上よ。…ただ、23際の頃まで婚約も決まらなかったそうよ」
「ちょうど殿下がご結婚なさる頃ですね」
「…そうよ。時期が重なり過ぎでなくて?」
普段は堅い口調で話すのに、ルドヴィカは身内と話すような口調で話していた。だが、従兄を亡くしたばかりの彼女を責めるような者もここにはいなかった。
「…卿とご結婚の決まった経緯を教えて頂けますか?」
ドミトリィが尋ねた。するとルドヴィカは
「少し長くなるから場所を変えましょう」とユーゼフに言ったのだった。
「今から私が話すことはあなたがたの胸に秘めておいてくださいな」
ーそうして彼女は最初の結婚が決まるまでのことを語り出した。
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ユーゼフは、妻の頼みを聞き入れ食事室を解放した。ここで水と軽食を取りながら話を聞くのだという。
「最初の夫と知り合いました頃、私はまだ
13歳でしたわ」
ールドヴィカは話し始めた。彼女は公人としての語り口を取り戻していた。
「私からの手紙を兄が読んでおりましたらそちらへ夫が通りかかりましたの。兄の笑い声を夫が聞いて、どれだけ面白いものを兄は読んでいたのかと夫が尋ねたのだそうです」
「…手紙に何を書いてらしたの?」
シャルロッテの言葉。
「ポロの試合にね」
ー皇太子もエンリコもポロに夢中で参戦していた。
「ヴェストーザが出場したのですけれど、負けて悔しがりまして」
ルドヴィカは微笑む。
「皇太子が試合に出てくれていたらーそうヴェストーザが申しまして。もし一緒に出ていたら今頃は大喧嘩していたでしょうと私はヴェストーザに話したのです。…そうしますとヴェストーザも静まってしまいました」
負けて地団駄を踏むか皇太子と大喧嘩するかーそれがエンリコの姿だったという。
「それを書き送りましたら、兄も笑わずにいられなかったそうで」
皇太子が手紙を読んでいると、クラウスから声をかけられた。
『殿下が声を立ててお笑いになるとはどれだけ面白い書物なのですか?』
そうクラウスは皇太子に尋ねー
「妹から、私から来た手紙だと兄は話したそうです」
それで皇太子は自分の妹を彼と引き合わせ、2人は文通を始めた。だが、当時は皇太子も2人が結婚するとまで思っていなかった。
「私は両親のもとを離れ伯父の領地で育ちましたから、兄とも長いこと会うことがなく手紙だけでやり取りしておりました。そこへ兄が夫を連れて参りましたの」
ー別の男と結婚しているのにルドヴィカはクラウスを〈夫〉と呼んだ。過去をまだ精算しきれていないか、または過去に自分の心が行ってしまったかどちらか。
「クラウス卿は妃殿下とは4つ違い」
「…ええ、そのはずです」
ドミトリィの言葉に彼女はうなずいた。
「すると皇太子とは1つしか違わないー」
イマヌエルは言った。
「本来なら年齢の離れた者同士が結婚まで進むことはそうありませんよね?舞踏会でも年の近い者と組みますし」
「そう、…それは間違いない」
イマヌエルにドミトリィも共感の意を示す。
「私と文通を始めてから、あの方はどこかご自分と近いものをお感じになったようで」
『殿下のお妹君とおつきあいしたい』
クラウスは皇太子にそう言った。彼はあまり社交界には顔を出していなかった。周りから悪評を囁かれて彼は気乗りしなかった。また皇太子もクラウスの姿は夜会などでほとんど見なかった。だがー
『妹君が社交界へ参加なさる時には、私が護衛をいたします』
とクラウスは皇太子に伝えたのだ。
「妃殿下と歳の近い貴族の子息が卿の他におりませんでしたか?」
「護衛も同年代か年上と決まっておりますから…兄も選びかねたのでしょう。その中にはヴェストーザの義兄もおりましたが、父にも叔父にも態度がひどくて私は見ていられず」
『あの人のところへは行きたくない』
ルドヴィカは皇太子にそう言った。ー彼女の家族も娘を彼に嫁がせる気はなかった。
「私が社交界入りする際の護衛をその方も申し出られたそうですが、兄が断ったと私は聞いております」
「それが、…今のアステンブリヤ公ですね」
「…ええ」
なぜ嫌われるか解らないと彼は侍従や執事に漏らした、だが自身の考え方が原因だと彼は最後まで気づかなかった。彼はやがて皇帝の姪、つまりルドヴィカの従姉と結婚したので戸籍上は彼もルドヴィカと親戚になる。ただ彼を皇族の一員と見て敬う者はいなかった。それも先代当主がその原因を作っていた。
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アルヴァロ閣下ー息子に家督を譲った今、この人物はそう呼ばれている。アルヴァロ・アルマンド2世。彼はアレッシオの父親で、2年前までは彼がアステンブリヤ家の当主だった。宮廷で彼を見かける者も決して少なくないが、皆が彼と話すのをためらうほどその気位は高かった。皇帝やその家族にさえ彼はその傲慢さを表した。特にそれが色濃く出たのが、フェルディナンドが養父に伴われ登城した時だった。
フェルディナンドが14歳の時、彼は皇女の許嫁として皇帝に謁見した。ー娘の配偶者にふさわしいかどうか見定めるため、彼を連れ登城するようにと皇帝がサヴァスキータ侯を呼び出したのだった。この時はまだ皇太子も健在だった。
皇太子も少年の頃から伯父の領地に出入りしていた、それでフェルディナンドとも直に話したことがあった。なので、彼が妹を気に入っても、皇太子も父親同様、歓迎こそすれ問題視はしていなかった。彼を気に食わないと言ったのは皇太子の婚約者だ。
『もう決めてしまわれたのですかー私にはお話しもしてくださらないで』
彼女は皇太子に言った、
『…一言くらいはお声をくださっても』
『なぜそれを望む?ー妹の婚約者を我々が決めて何が悪い?』
皇太子は不機嫌になった。
『ーお前はものを聞くのでも私より実家に目を向けるだろう。だから私も話したくないのだ』
『皇族に身を置いていてもですか?』
『自分でそう言うのなら、それらしく振る舞ってもらいたい。祖父が亡くなった時すらお前たちは葬儀に出なかっただろう。それで私の妹の縁組には難をつけるのか?ずいぶんいいご身分だな』
だが一度会わせてくれと彼女がせがむので、皇太子も仕方なく侯爵が謁見に来る時に引き合わせることにした。それで彼女は皇太子の義弟となる少年に会ったがー瞳の色が違うと言いやめろと言い出した。
『…何を言いたいのか解らない。お前の夫となるわけでないから余計なことを言うな』
『ですが、殿下ー』
それきり皇太子は彼女と話さなくなった。
フェルディナンドが辺境伯の息子だということはルドヴィカも知っている。だが母親は庶民の娘で、父親の代から祖先と伝えられる王女の時代まで、何世代も間が空いていた。それで自分の産んだ子が本当に王女の子孫と呼べるかどうか母親も不安でならなかった。
その母親に侯爵は言った。
『お前の子を養子にしてやる。息子の手を引いてわしの城に来い』
その時はまだ姪と許嫁にしようとは侯爵も考えていなかった。それを彼に提案したのは娘婿のアンドレアで、彼の両親は串刺し公とアザリカ王、2つの名家の血を引いていた。ちなみにハフシェンコ伯爵夫人は彼の従姉になる。
ーアンドレアは義父にこう言った。
『彼なら皇女の配偶者にふさわしいのではありませんか』
それで侯爵は皇帝に打診した、皇帝、皇后、さらに摂政大公もアンドレアの案を受け入れ話は順調に進むかに見えた。だがそれを聞き皇帝に異議を申し立てた者があった。それがアレッシオの父親の先代アステンブリヤ公爵だった。外戚とは言え皇女の連れ合いに養子を差し出すとは!ーそれで公爵は縁組に待ったをかけたのだ。公爵は娘から話を聞き動き出していた。
『皇女のお連れ合いにということは、その方のお身元も確かなものとお見受けして良いのでしょうな』
公爵は言った、
『皇家の御息女ともなれば、婿をお取りになるにせよご降嫁なさるにせよ、それ相当のお家柄からお相手をお選びになるがよろしいかと。ー当方は遠縁でもありますゆえ、その筆頭に挙げて頂いても差し支えないかと存じますが』
ここで公爵は言葉を区切った。次に皇帝を見上げ、フェルディナンドについて
『皇后様ご実兄のご推挙とあれば疑う余地などないと申し上げたきところでございますが、侯爵に御子息のないことは皆が承知しておりますところ。跡継ぎにと指名されたその少年の身元は、陛下、いかにお確かめ遊ばしましたか?』
と問い質した。
『亡き辺境伯の忘れ形見と、余は侯爵より伝え聞いておる』
皇帝が言うと、
『ほう、辺境伯のー?して、そのお母上はどちらのご出身でしょう』
少し面白そうに公爵は尋ねた。
『辺境伯ご逝去の際、奥方が愛人と逃げたという噂も漏れ聞こえております。もしかの噂が誠にございましたら、ご検討中の事案は棚上げなさった方が良いかと存じます。それというのも、奥方が息子を伴って逃げたとも私は聞いてございますので』
『仮に妾腹にしても父親の身元は確かだ。それに貴公は異を唱えるのか?』
摂政大公は公爵を睨んだ。ー公爵は言った、
『既に辺境伯は他界しましたゆえ、故人の子供と騙って名乗り出たやも知れません』
『そなたは、他人の身元となるといよいよ疑い深くなるのだなーアステンブリヤよ』
そこで皇帝との謁見は打ち切られた。妻にさんざん苦情を言われながら公爵は退出したが、やはり気が済まないので皇太后に会いに行った。謁見がかなうと公爵は言った。
『皇女殿下のお許嫁にと皇后陛下の兄上が推されたのは、辺境伯の子息でしたがー彼の身元は不確かです。…今一度お調べになるよう陛下にご諫言を』
ー皇太后が父親と親しかったことを、前に公爵は聞いていた。それで皇太后を頼ったのだが、その作戦はあたった。皇帝と摂政大公2人の息子に皇太后が待ったをかけ、縁組は結局振り出しになった。
ーここまでがルドヴィカの話の中身、夫となったクラウス・アルフレートとの出会いと皇家とアステンブリヤ公爵家の確執について彼女の覚えている全てだった。
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「…妃殿下の初めのご結婚と、ほぼ同時期にお従姉もご結婚なさった。ーそう考えて構いませんか」
ドミトリィはルドヴィカに聞いた。
「それで合っていると思います」
「クラウス卿は妃殿下とご結婚、そのすぐ後にお従姉のシルヴァーナ姫がご結婚されたということなのですね」
「…ええ、ええ。お察しのとおりですわ」
ルドヴィカは言った、
「しかし妃殿下、ーなぜ殿下のお従姉は、アルヴァロ閣下のご子息に嫁がれたのでしょう?そこまでお2人が親しかったとは聞いておりませんでしたが」
ドミトリィはまた尋ねた。
「…私への鞘当てだと思います」
ールドヴィカは彼にそう答える。
「従姉は兄と結婚したかったらしく…両親も兄本人も乗り気ではなかったのですけれど…」
「確か亡くなった皇太子は、私の幼馴染と結婚したいとおっしゃっていた」
「ええ、…兄もそのつもりでした。祖母から反対されるまではイネッサ嬢が兄と婚約するはずで」
ルドヴィカが言った。ードミトリィはそれを聞いてユーゼフと顔を見合わせる。
「ーお父上のカテルイコフ伯爵は確か…」
ドミトリィは呟くように言った。すると彼に
「辺境伯の奥方と兄妹だった。だが奥方は息子を連れこちらへ逃亡している」
ユーゼフは言った。それから彼は妻に
「ー君のお友達も辺境伯の息子だったね」
と話した。
「代々家宝とされてきた品が辺境伯の家にあるそうだが、聞いたことがないかい?」
「それは私も耳にしておりました。王家の長子が受け継いできたものだとか」
ユーゼフに聞かれルドヴィカもうなずいた。
「ーその話は誰からお聞きに?」
イマヌエルが尋ねると、
「友達、…いえ伯父の養子からですわ。彼のお祖母様がお持ちだったそうで」
亡くなる直前、先代の夫人は息子を呼び寄せこう言った。
『これをシルヴィアの産んだ子におやり。一番好きな女性に渡すようにと』
シルヴィアはフェルディナンドの母親の名で今のサヴァスキータ侯爵夫人を指す。夫人は自分が妾でしかないと半ば自嘲していたが、主人母子には正妻と認められていたのだ。
「そう言えば、卿と結婚式を挙げた時君は首から長い鎖物をかけていたね。ーひょっとしてあの鎖がそれかい?」
ユーゼフはルドヴィカに言った、
「ええ。…あの日私のしていたものがお話しした首飾りです」
「…結婚式で着けておいでになった首飾りを我々に拝見させて頂けますか?」
ドミトリィはルドヴィカに聞いた。だが
「こちらにはありません」
とルドヴィカは言った。
「あれは形見の品と聞きましたので隠して持ち運びすることもできず、前の夫と住んでいた城に置いてきましたから」
「ークレステンベルクにその首飾りが?」
ユーゼフは驚いた。ーこちらまで持ってきたわけではなかったのか…。
「前に結婚した時は、クラウス卿にお話ししてありましたからそのままつけて過ごせたのですけど…今回は事情が違うので」
「ー卿の城に参りましたら、我々も実物を拝見できるでしょうか」
「前夫の書斎にあるはずですわ。結婚した当時のままでしたら」
ーそう言って、ルドヴィカは義妹とその夫を
見つめた。
「前夫の領地をご覧になったのでしょう?…城の中へもお入りになって?」
「入って参りました。ーですが、妃殿下のお話にあったような首飾りはどこにも」
イマヌエルが言った、するとユーゼフは
「なかったというのか?」
「…残念ながら」
イマヌエルが言った。
「妻と城内を拝見いたしましたが…、書斎は空にされていて」
「…あれから誰か中に入ったんだわ。そうとしか考えられない」
彼の言葉にルドヴィカは呟いた。
「首飾りがなくなったのは、卿の死と何か関係があるだろうか」
「ないとも言い切れませんわ。王家伝来と知って、従姉が見せてくれと言ってきましたから」
ルドヴィカは夫に告げた。
「…妃殿下の従姉ーあの公爵夫人か…!」
ドミトリィはたまらなく嫌になってきた。
「それにしてもお義姉様」
ーシャルロッテは聞いた。
「その首飾りがなぜそこまで問題に?」
「ー『なぜそこまで』とは?」
ドミトリィは彼女に尋ねた。
「もう王国は残っていないのだし、持っていたとしても特にそれで何かできるわけではないと思うわ」
シャルロッテは言う。
「…叔母がアステンブリヤ家の出身で」
ルドヴィカは言った。
「アステンブリヤ家は、アザリカの王家と浅からぬ因縁があるのです」
ードミトリィも言った。
「我々の先祖は主家と反目し自ら投降したと聞かされています」
カダルシェフ公爵家とカテルイコフ伯爵家、2つの名家が帝国に入ったのは5世紀前だ。そのきっかけを作ったのが、アザリカの王女ジャニスを巡る皇太子と辺境伯の争奪合戦。これが引き金となり、アザリカだけでなく、アステンブリヤも地図から消えた。
「何だか凄い悪意が…」
シャルロッテは呟く。
「首飾りを取り上げることで、もう復興は諦めろと言いたかった…?」
「そうかも知れませんわね」
義妹の疑問にルドヴィカもそう答えた。




