城と居住者
黙祷の後で皆は食事を摂り、それぞれ城や宮廷へ戻った。ついにカフトルツ侯爵は姿を現さなかった、ただハフシェンコ伯爵夫妻は所用で遅れると言って来た。だが伯爵夫妻についてはそれでいいことにし、披露宴は後日改めて行うとカルナッハ公爵は伝えさせた。
ーエンリコの訃報もあまり急なので対応のできた者はほとんどいない。ユーゼフたちが結婚した時も喪中の夫婦を舞踏会で祝った。ルドヴィカはそういうこともあるのかという程度の反応だったがーさすがに自分の従兄に死なれては、彼女も踊る気にはなれなかったという。
「これから登城してみる」
ドミトリィは言った。
「ユーゼフ様にお話を伺いたいのと喪中のお悔やみを申し上げたいのと」
「私たちも一緒に行っていいかしら」
シャルロッテは彼に言いー
「兄のことについて聞いてみたいの」
そう話すのだった。
「ークラウス卿のことですか?」
ドミトリィは頼んでみると彼女に答えた。
「すぐお話し頂けるか解りませんが、こちらから伺ってみます」
クラウスとユーゼフは兄弟ではなかった。だがクラウスとシャルロッテ、2人は実際に兄妹なのだ。父親はともかくとして、母親は同じだったのだから。幼いアンゼルム少年はそういう意味でシャルロッテにはごく大事な存在となっていた。
「…兄は何歳まで生きていて?」
シャルロッテは聞いた。
「確か22だったかと」
ドミトリィの口調も少し沈んでいた。
「お子が生まれた直後で…私も家庭が持てたと喜んでおられました」
「22で亡くなるって…何があったの?」
シャルロッテも気絶しそうな様子。ーそれでドミトリィは、
「私もそれを探ろうかと」
と言った。
「卿の亡くなる前後に私の弟がいなくなりました」
「つまり3年前に弟君も消えたとー?」
「そういうことだ」
だから自分の体で真相を確かめたいと思っている。ードミトリィは答えた。
「あの城はきれいなままだった。…手入れはどなたがしてくださったの?」
「…父だと存じます」
ドミトリィは言った、
「弟の奉公先だったそうで。多少なりとも責任を感じたのでしょう」
「すると、…ルドヴィカ様も閣下の弟君とは会われたかもしれませんね」
「私もそう思う。ー確信はないが」
「弟君はおいくつだったの?」
シャルロッテが尋ねた。
「18です。ー兄弟の一番下で」
ードミトリィには、弟と妹がそれぞれ1人いた。すぐ下にカフトルツ侯爵に嫁いだ2つ下の妹サーシャ(アレクサンドラ)、そして一番下が4つ下の弟ウラディスラフだった。
母親は病弱のウラディスワフを最期まで気にかけていた。クラウスが結婚すると同時に、ウラディスラフ(愛称ヴラド)は彼のもとへ仕官が決まり働き始める。だが僅か1年後にクラウスは襲われ、22歳でその生涯を終えたのだった。
「よほどのことだったんだわ。人が2人もいなくなるなんて」
「本当だ。…何が起きていたんだろう」
イマヌエルとシャルロッテは顔を見合わせ、心痛に耐えていた。
「それで城だけはきれいなまま…」
シャルロッテが呟く。ードミトリィはそれを聞いて何か感じ取った。
「城も見ていらしたのですね」
ドミトリィは彼女に言った。
「ええ、…夫からも話を聞いて」
「内装はご夫妻で決められたそうですよ」
「城の中全部を?」
シャルロッテは息を呑んだ。
「あれほど光に包まれる部屋も、生まれて初めて見たわ!」
ードミトリィは少し微笑んだ。
「お妃の気持ちが暗くならないようにそう配慮なさったそうです。ー帝国から、それも森林地帯からこちらへ見えたので」
「そういうことだったのですね」
イマヌエルもうなずいた。
兄の死の真相はもちろん、城で起きていたことも、シャルロッテは聞いてこなかった。まだ子供だからと隠されてきたかも知れないのだが、自分が大人に近づいた以上は覆いを剥がしてしまうつもりだった。
「目に触れて耐えられるものばかりでないと存じますが…私と同行なさいますか?」
ドミトリィはシャルロッテに尋ねた。
「もちろん」
彼女は即答だった。




