会合
「…それでサーシャに頼んだの?間に入ってほしいと」
イネッサは笑い出した。
「ああ。ーどうも敷居が高くてな」
「大丈夫よ。何もあなたのせいとは思っていない」
ドミトリィに安心しろと彼女は言った。
「あなたが2人を引き合わせたからって、それで死んだわけではなくてよ」
「それは解っている」
「なら、もっと胸を張って」
母と息子のような話をしながら2人は城へ足を踏み入れた。伯爵は受付を済ませるため先に行ってしまっていた。
「ーお連れの方は?」
執事に尋ねられ甥と娘を探したのだが、その姿が部屋になかった。入口で立ち話している2人を見て、伯爵はどやしつけた。
「いつまでそこでぼうっとしている気だ。宴会はすぐ始まるぞ」
ー父親に言われはっとするイネッサ、恐縮し一瞬縮こまるドミトリィ。その様子に伯爵もため息をついている。
「ユーゼフ様ご夫妻は…?」
「喪中でご欠席と通知が」
ドミトリィの問いかけに執事が言った。
「知らせは出したのね」
イネッサは呟く。ーこういう時だけ夫も早いのだわ。別の方法もあったでしょうに。
「他の参加者は?」
「はい、皆様お揃いです」
それで2人は会場へ入った。イネッサの父親カテルイコフ伯爵は、カルナッハ公爵と話をしている。まず新郎新婦に挨拶しようとその席をドミトリィは探した。
「この度はご結婚おめでとうございます、グランシェンツ伯にシャルロッテ殿下」
イマヌエルとシャルロッテを探し出し彼は祝の弁を述べた。シャルロッテは立ち上がり会釈する。
「遠くからわざわざありがとう。お従姉の大公妃様まで」
シャルロッテが言うのでイネッサは微笑み、
「私は付き添いですわ」
と一言。ドミトリィは贈り物をイマヌエルに渡していった。
「こちらが私からのお祝いです。お2人に気に入っていただけると嬉しい」
「ありがとう、本当に。ー後で開封させて頂きましょう」
イマヌエルはドミトリィに礼を述べる。
「せっかくの披露宴なのに兄も義姉も来てくれないのよ。…喪中で、と」
「急なので詳しく言えなかったのだろう」
ドミトリィがため息をついた。
「何かあったの?」
「今朝、…ヴェストーザ公が亡くなったの」
それも私たちのいた屋敷で。ーイマヌエルもシャルロッテも真っ青になった。
「こちらヘ伺う前に実家と司教館へ寄って来ました」
イネッサは言った。するとイマヌエルは
「大公は少し前に帰国なさったそうです。妃殿下はまだいらっしゃれるのですか?」
と彼女に尋ねた。ー夫と別行動で良いのかとイマヌエルは尋ねたのだった。
「仲の良い貴婦人がご一緒なのでしょう。お気になさいませんように」
「ーヴェストーザ公が亡くなったことは、閣下もご存知で?」
「もちろんですわ。…夫の見ている前でしたもの」
結婚披露宴のはずが追悼会のようになっていたが、集まった者からは一言も異議を申し立てる声が出なかった。和平を思い国を思い動く者がここに参加していた。主催者を始め皆口が固く信頼関係に敏感だった。披露宴に呼ばれたのは、爵位順に
・カレナ大公妃 (イネッサ)
・カンブレーゼ大公
(摂政大公。皇帝の弟でエンリコの父)
・スティンベルグ公爵夫妻
(ユーゼフ夫妻のこと。喪中で欠席)
・カダルシェフ公爵 (ドミトリィ)
・カフトルツ侯爵
(サーシャの夫、未参加)
・カテルイコフ伯爵
・ハフシェンコ伯爵夫妻
…
となっていた。ーユーゼフや摂政大公は既に喪中で欠席となり、サーシャの夫カフトルツ侯爵やハフシェンコ伯爵夫妻は、参加するかどうか解らない。カルナッハ公爵は少し顔をしかめているが、
「別にいいのではなくて?…無理に参加してもらうこともないわ。黙祷だけしましょう」
とシャルロッテは言った。
「そうだな。…義姉上のお従兄が亡くなったばかりだから」
イマヌエルも静かにうなずいた。
「だがかける言葉がない」
ーこうしてエンリコのため黙祷を捧げ、その日は解散となった。




