公女の結婚
カルナッハ公爵はあまり社交好きでない。ーその公爵が自分の城で舞踏会を開くのには事情があった。次男が一日とはいえ婚約者と2人で過ごしたため、堪えきれなくなったという。それで公女の義姉が言った、
「なら結婚させてしまえば」
そうしたら気にしなくていいもの。ーそれでカルナッハ公爵は急きょ披露宴を開くことになった。
「舞踏服なんてあったかしら」
シャルロッテは言うが、
「お母様の衣装から探してみたら?」
ルドヴィカが言い、試着した様子を婚約者に見てもらえとシャルロッテに勧めた。
ハルシュバウアー男爵。ー彼は世襲でなくもともと1代限りだったが、娘が大公の子を産んだので爵位は弟に譲れることになった。妻の領地を娘が継ぐことになり、侯爵夫人と名乗るのを許されたーだが本人は女官として振る舞っていたという。子どもたちは君主の血を引いているけれど私は違う。ーそういう意識を侯爵夫人は持っていたようで。なので舞踏会にも彼女が進んで出ることはなかったらしい。
「会話だけでもいいのでしょう?ー周りが踊る様子を見るだけでも」
ルドヴィカは主催者に尋ねた。
「もちろんです、殿下」
「お義姉様はどうなさるの?」
シャルロッテは言ったが、ルドヴィカは軽く微笑んだだけだった。ー公爵は言った、
「先日でお疲れのご様子で」
ルドヴィカもこう続けた。
「夫が早々に酔ってしまって。私はとても踊るどころでなかったの」
「…お兄様。せっかくの披露宴で」
シャルロッテはユーゼフに毒づいた。ー何もそう飲まなくていいのに。
「どなたかがすすめておられたのでしょうな。ー強い酒をお飲みになったとか」
公爵は苦笑いした。その言葉に
「…お兄様はお酒に強いの?」
「まさか!押されただけでしょう」
と、ルドヴィカもシャルロッテと囁き合う。公爵は招待客を絞り込み中で、
「殿下にもご参加頂けましょうな」
とルドヴィカに言ったのだが、彼女は
「…二日酔いが覚めていたら。ただ、お酒はなしにしてね」
ルドヴィカが言うので、シャルロッテも吹き出した。
「本当なの?ーあの一晩で」
「そうなのよ。…介抱してあげないと」
それを聞いて、前途多難だとシャルロッテも考え込んだ。
イマヌエルは執務室を後にし、父親や妻となる女性のもとへ向かった。父親の招待する客を見て、彼は少し思い悩んだようだったが一言ルドヴィカに尋ね後は無言を通した。
「カダルシェフ公爵について、殿下は何かご存知ですか?」
「…名前だけは」
「ーそうでしたか」
するとシャルロッテが口を開いた。
「兄もーユーゼフも彼を知っていて?」
「いいえ」
これはルドヴィカの声だった。
「知らないと思うわ。…夫から紹介を受けたようだから」
4年前の結婚式で。ーそれがシャルロッテに疑問をもたせた。
「あの後すぐ口論が始まったわー夫と夫の側近の間で」
「…兄が口論を?」
シャルロッテが青ざめた。ー結婚式の後で?いったい誰と?何があったのかしら。ー話を聞いて彼女は身を震わせた。
「公爵が来たら聞いてみて。…口論が起きた理由も公爵は知っているかも知れない」
ルドヴィカは言ったが、シャルロッテに直接聞く勇気は残っていなかった。
「聞いた方がいいの?…何があったのか」
「気になるのなら聞くべきだわ。兄弟間のことで済まないかも知れないし」
私の兄も公爵とは知り合いだった。ー義妹にそう話すルドヴィカだが、聞けば聞くほど、兄の知らない面を見るようでシャルロッテは怖くなってしまった。
「…ご友人の公爵は穏やかな方ですよ」
カルナッハ公爵は最後に言った。
「当家ではそう多く呼びませんので、皆が落ち着いている時にお尋ねになったら良いと存じます」
招待客はそういないということだ。
「…解ったわ。ありがとう」
やっとシャルロッテは答えた。ー兄の友人に事情を聞いてみようと、彼女もやっと覚悟を決めた。ーカダルシェフ公爵。タタール人の血を引くという黒髪と緑色の瞳の青年貴族。
「…お義姉様も一緒に聞いてくださったら」
シャルロッテが言うとルドヴィカは答えた、
「ーそうね」
私も少し気になるわ。ーそこで6時課になり
皆動き出した。




