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その花は天地の間に咲く 前編  作者: 檜崎 薫
第二部
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逢引

 参加者の大半はユーゼフをよく知らない。彼を幼少から知っているのはイマヌエルただ1人で、そのイマヌエルもユーゼフについていけないと感じることは多かった。ただ1つ彼が心服していたのは、女性関係が派手でも表に出ず済んでいたということだった。

 ユーゼフが女性を侍らせたのは4年間で、クラウスの結婚式に参列した後からだった。出る必要のない式に参列して、彼はおかしくなった。他の青年が女性と仲良くするのを、彼は直視できなくなったのだ。そしてついに恋い焦がれた相手を、彼は自分の親友の腕の中に見つける。そのため、ゴットフリートは

婚約破棄を迫られた。

 「殿下のご親友はどこに?」

 公爵はギーゼラに尋ねた。

 「ご欠席ですって」

 「そうか。…あの長身の若者が」

カダルシェフ公爵の言葉。ー背が6フィートと20はある彼からしても、ゴットフリートはやはり高かった。

 「彼がお妃の元婚約者ーだったと耳にしたのだが、それは」

 「事実だと思います。…シャルロッテ様が、そのことでご反発を」

 「兄に反発か。…あの少女ならやりかねないな」

 伯爵家の一人娘、ギーゼラ・ヘンリエッテ・フォン・ハウデンブルグ。ー大公の姪と踊りながら、彼は情報収集していた。

 「ー花嫁の従姉が不参加と聞いたが、何かあったのかな」

ギーゼラに尋ねると

 「皇族に数えられていないと聞きました」

確か帰還命令も出されたはずですー話すほど相手の声は小さくなる。この話題はやめようと公爵も考え直した。  

 「ヴェストーザ公は?」

 「あちらも明日にはご帰国だそうです」

ギーゼラは言った。

 ーユーゼフは踊りをやめ、妻やその友人と会話に熱中していた。未成年のため酒入りの盃を持てないのはギーゼラ、シャルロッテ、フェルディナンドの3人。後は皆がそれぞれ好きな酒を注文している。だがルドヴィカは

 「殿下飲み過ぎでは?」

と夫に注意勧告。それを見たシャルロッテがイマヌエルと顔を見合わせ笑いだした。

 「もう仲は相当良さそうだな」

 新婚夫婦の仲の良さに感心するドミトリィだが、彼のもとへ侍従がやって来てひざまずいた。

 「お連れ様がお待ちです」

ーついに来たか。ー踊りを3曲目で切り上げ彼は愛人の待つ場所へ向かった。だが彼女に会うのは最後にしようとドミトリィも心に決めた。自分たちに累が及ぶことだけはなんとしても避けたかった。

 「せっかくだが、続きはまた次回」

伯爵一家に挨拶し、彼は足早に廊下へ出た。

 カナリー、ブレ、クーラント…次々と種目は変わり、時間もかなり遅かった。後2種目で夜会も終わる。ー帰る者も出始めたらしく、彼らは伯爵夫妻に挨拶し、次々と会場を後にしていた。ドミトリィは廊下の片隅でやっと愛人の姿を見つけた。

 「やっと来てくださったのね。今日はもう会えないかと」

ー歌うような声で愛人はそう言った。皇帝の姪、アステンブリヤ公爵夫人。ドミトリィの2つ上で彼女は27歳だった。

 「あなたはお呼ばれになって?ー私たちは呼ばれませんのに」

 「主催者と親しくしているものでね。気を悪くしないでくれ」 

ドミトリィは愛人にそう答えた。

 「国から帰還命令が出たそうだが、ここに残っていていいのか?弟のヴェストーザ公とお帰りになるはずでは?」

 「…生憎、弟とは別行動なの」

公爵夫人は言ったーその表情にドミトリィも少し薄ら寒くなった。

 「私とお楽しみくださる気はなくて?」

夫人はドミトリィに尋ねたが、夫人の意図が少し恐ろしいものに彼には見えてきた。

 「国の命令より娯楽が先か…」

ドミトリィは呟いた。

 「爵位が剥奪されてもいいなど、そういうことは言わないでもらいたい」

 「もちろんですわ。…これでも私は貴族ですもの」

公爵夫人がまた笑った。ーこの人はずいぶん余裕なんだな。背後に誰がついているんだ?ードミトリィもさすがに気になった。だが、彼は疑問を胸にしまいこんで公爵夫人にこう言った。

 「私といるのが見つかると良くないので、今回はもう失礼する。何なら夫君の領地までこちらから送らせよう」

 「夫もこちらに来ているはず」

 「それでこうしてやって来たのか。まさか再婚先を探しに来たわけではあるまい?」

 「…あら、そのまさかよ」

 その言葉でドミトリィは凍りついた。

 「夫とは離縁の協議中で。本当ならもっと早く見つかるはずだったのに」

そう聞いて、ドミトリィは後ずさった。

 「従妹の披露宴で男漁りを?ーあまりにも品位がなさすぎるだろう」

 「嫌だわ、そのようにお考えだなんて」

ー公爵夫人に甘い声で言われ、ドミトリィも相手を正視できない。そのため彼も彼女には付き合いきれなくなった。

 「悪いが私はもう戻る。ーこれ以上は話につき合えない」

早いうち本国へ帰れ。ーきつい口調で夫人にそう告げ、ドミトリィは踵を返す。

 「次はいつになるの?」

 「…さあな」

冷めた口調で言うと、ドミトリィはもと来た道で大広間へ戻ったのだった。

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