姉弟の立場
「私にご用ですか?」
極めてそっけなくエンリコは言った。
「本日は我が従妹の結婚式で、本来なら国を挙げて彼女を祝ってやりたかったのですがーそのご気色ではなさそうですね」
「呼ばれなくても来てあげたのよ。ー私にもあの子は従妹ですからね」
公爵夫人は言った、
「来てみたら終わってしまっていたわ。まあそれはいいとして」
夫人は話を続けた。
「なぜ私たち夫婦は招待されないの?」
傍系でも皇族なのだから、参加資格はあるだろうと公爵夫人。ーだがエンリコはそれを否定した。
「お嫁ぎになった家がどういう家柄か、よくご存知かと思いますが?」
「遠回しな言い方をするわね」
公爵夫人は弟に言った。
「私の結婚相手が問題だと言いたいの?」
「それ以外の何でもありません」
ここで公爵夫人も眉を逆立てた。
「お嫁ぎになったアステンブリヤ家ー当主が代々、皇家に害をなし不敬不遜を積み重ねてきました。特に先代は御位を譲るよう陛下に迫ったそうでー太子と公爵令嬢の婚約が無に帰したのはそのためと聞いております。その弟を配偶者となさったせいで、姉上は皇族として扱われていないのです」
公爵夫人は扇子を畳んだ、そして弟に向け厳しい眼差しを注いだ。
「あなたもそれに倣うと?」
「私は参列者としてではなく、ー和平推進の主体者としてこちらへ入りました。ですから姉上と立場が違います」
「それでも私たちは姉弟でしょう?あの子も私の親族になるのだしー」
公爵夫人は言うが、エンリコはそれを認める気になれなかった。
「3年前にあったことを姉上はお忘れのようですね」
彼は姉に言った、
「姉上に言われて城を襲ったと証言した者がいます。それもアステンブリヤ家に。それがご自分のなさったことでないと姉上は断言がおできになりますか?」
「何のことかしら」
「ご自分の夫君をそそのかし従妹の嫁ぎ先を襲わせたこと、従妹を夫に拉致させたこと。こちらでは調べがついています。最近姉上は離縁の申し出をなさったそうですがーそれは事実ですか?」
「よく調べたわね、あなたがた」
夫人は少し不機嫌そうだった。
「他国で再嫁なさるのでしたら、婚約の前に陛下のご承認を頂く必要がありますが、もうお済みなのですか?」
「皇帝の姪が結婚するのに伯父の承認が必要なの?」
「父親が皇帝の弟という時点で、我々は既に国の顔なのです」
エンリコは言った。ー聞かれることはないのを承知の上で彼で話していた。
「その前に夫君のご領地へお帰り頂きたい。これは父上と私の共通の命令です」
「ずいぶん強く出たわね。ーあなた私を誰だと思って?」
「アステンブリヤ公爵夫人。ですが、お聞き入れ頂けないようでしたらその称号も危うくなるかと」
伯父上がご立腹だそうです。ー彼の言葉に、公爵夫人が笑い出した。
「まだあの方が皇帝だとあなたがたは思っていたのね!ああ、本当に可笑しいわ!有能な人が他にいくらでもいるのにー」
「それが何か?ー自分一人で位を手にできる者などいません」
エンリコが言う。
「その前に、姉上も公爵も、任地へ帰ってはいかがですか。ご不服なら父上にお話を」
「断るわ。ーまだ用事があるもの」
「ご自身の称号を取り上げられても今と同じようにおっしゃるおつもりですか?『夫婦で任務放棄するなら爵位は取り上げる』ーそう国で言われているそうです。それでも姉上はご滞在を?夫君は強制送還されましたが」
公爵夫人は黙っていた。夫の罪を自分が被るはずはないと夫人は思っていた。だがー
「『夫婦で』と陛下がおっしゃる以上姉上も同罪でしょう」
エンリコは告げた。
「父上ともお話しくださらないなら、私から陛下に上奏します。私は外交官なので」
「どうぞ、やってごらんなさい」
公爵夫人は弟を見送った。ーそうはさせるものですか。それではここへ来たかいがなくなってしまうわ。ー夫人は弟の背中を見送り軽く毒づいた。




